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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第4章 「零は全ての起点なり」
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第4章 「零は全ての起点なり」 第9話

百合々咲音楽学院・大レッスン室。


そこには、エーデル不在の中で必死に練習に励む生徒たちの姿があった。


表舞台に立つことを夢見るサブキャストやアンダーキャスト、そして裏方として支える照明・音響・大道具の生徒たち。


皆、汗にまみれ、息を切らしながらも、

懸命に動き続けている。


しかし、その表情には、限界寸前の疲労が色濃く浮かんでいた。


「――30秒で位置につけ!」


演出席から、ロゼ・アディンの鋭い声が飛んだ。


タブレット片手に立ち上がり、生徒たちを一瞥すると、容赦なく言い放つ。


「“王妃登場”シーン。声量と歩幅のバランスが全員バラけてる。合わせろ。合わなければ、永遠にやる」


「……ひっ、はいっ!」


大きな返事をしたのは、舞台中央の王妃役アンダーキャストの生徒だったが、その足取りは完全にふらついていた。


ロゼの声が、再び冷たく響く。


「演技に命を込めろと言ったろう?

“王妃”の魂が声に乗ってこないなら、ただの素人の自主公演だ。俺たちホンモノの舞台を創っている。演劇ごっこをしてるつもりはない」


照明班にいた瑠々が、

手元のライトを調整しながら小さく呟いた。


「……もう何回目?シーン切り替えのタイミングが1秒ズレただけで怒られるとか……」


となりにいた音響班の生徒も、

息を殺して小声で続ける。


「“ズレるってことは、魂が音を拒んでる証拠”って言われた……なにそれ……意味わからん……」


舞台の隅では、アンサンブル担当の1年生がぐったりと壁にもたれながらつぶやいた。


「……脚、つった……筋肉痛ってレベルじゃない……」


その傍らで、アンダーキャストの生徒が息を切らせながら言った。


「……ねえ、百合々咲って……演劇の学校だったよね?」


「演劇学校じゃなくて、もう……軍事訓練施設だよ、これは……」


別の生徒が苦笑まじりに言うと、

周囲から小さな、疲れきった笑いが漏れた。


だがその笑いすら、力なくかすれていた。


そしてまた、ロゼの声が、冷たく響いた。


「ダンスフォーメーション、16カウント前にズレたのは誰?」


シン……と、室内が静まり返った。


誰も名乗り出ない。


ロゼはため息一つ吐き、淡々と命じた。


「……誰も名乗り出ないのか。じゃあ全員やり直し。最初から」


「えええええっ……!」


生徒たちの呻き声が重なった。

疲労の限界を超えた声だった。


ロゼは、まったく悪びれた様子もなく、

淡々と続ける。


「このレベルで音が上ずってるなんて論外。

本物の舞台なら、観客に“嘘”を届けることになる。

それだけは、絶対にさせねぇ」


厳しさの奥に、“本気で舞台と向き合う演出家の覚悟が見えた。


「アンダルシアでは、泣いて逃げるか、光を掴むか”……どちらかしかない」


生徒たちはぐったりとしながらも、その言葉に、

ほんのわずかに気圧されたように背筋を伸ばした。


「……もう……泣いてる暇もないな……」


アンサンブルの少女が、ぽつりと漏らした。


だが——その目に、

かすかに灯る“闘志”の光があった。


ロゼの地獄のようなレッスンは、

確かに生徒たちを追い詰めていた。


しかしその中で、何かが静かに芽生え始めていた。


“自分も、舞台に立ちたい”という、本能の火。


エーデルが不在の今、

舞台の“光”を掴もうと、彼女たちも必死に戦っていた——。


大レッスン室に響くのは、疲れ果てた息遣いと、

木の床を踏む足音、そしてロゼの容赦ない指示だけだった。


しかし、その厳しさの中に、

若者たちの魂が、静かに、

しかし確かに燃え始めているのが感じられた。




2階の吹き抜けから、練習風景を静かに見下ろしている者がいた。


演劇科講師のドロシー・アンと、理事長のミリー・マーキス。


「よろしいのですか?あのやり方で」


ドロシーの声には、はっきりとした懸念が滲んでいた。


ミリーは穏やかに答えた。


「エンドレスワルツは一度きり、失敗は誰であろうと許されない舞台ですよ。

流星を超えるなら、あの子たちもそれなりの実力は必須です」


「しかし、あまりにも厳しすぎでは?」


現に、疲労困憊の生徒も数多く見受けられる。


オーバーワークになってかえって怪我をする恐れもある。


ミリーは静かに微笑んだ。


「あの人、手抜いてるわよ」


「はい?」


「アンダルシアのやり方でってお願いしたのに、オーバーワークにならないようにわざと手抜いてるの」


ロゼ・アディンは、百合々咲の生徒たちがアンダルシアのやり方に耐えられるのは分かっていた。


しかし、それは体が出来上がってからの話だ。


アンダルシアは世界最高峰の歌劇団であるが故に、そのレッスンも極めて厳しい。


元々トップを走り続けてきた者たちでさえ音を上げるほどの内容だった。


それがこなせるようになるため、ロゼは敢えて、

いきなり本気のアンダルシア流ではなく、

少しずつ体に馴染むように調整しながら進めていた。


「あんな反抗期みたいな子でも一応プロですからね。

各キャスト、裏方生徒のレベルや能力は頭に入っていますよ」


ミリーの声は穏やかだったが、

そこには確かな信頼が込められていた。


ドロシーは2階の手すりに手をかけたまま、

レッスン室を見下ろした。


生徒たちの息遣い、汗、必死に食らいつく姿。

そして、ロゼの容赦ない指示。


手を抜いているようには見えない。


しかし、ミリーの言う通り、

どこか計算された厳しさがあるようにも感じられた。


「ロゼ・アディン……あの人なりに、この学院の生徒たちを思っているのですね」


「ええ。彼は厳しいけれど、決して無慈悲ではない。

ただ……厳しさの先にあるものを、早く見せてあげたいと思っているのでしょう」


ミリーは静かに目を細めた。


吹き抜けの下では、ロゼの声が再び響いていた。


「もう一度、最初から。」


生徒たちの疲れた息遣いが、

レッスン室に満ちていく。


ミリーは小さく微笑みながら、

独り言のように呟いた。


「さあ、どの子が光を掴むか……楽しみね」


2階の吹き抜けから見下ろす2人の視線の先で、

エーデル不在の舞台は、静かに、

しかし確かに動き続けていた。





これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……






夢を叶える物語である。


第四章 「零は全て

の起点なり」 完

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