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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第4章 「零は全ての起点なり」
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第4章 「零は全ての起点なり」 第4話

人通りの多い夕方の駅前。


私服姿の鎌田二乃は、うつむき加減に歩いていた。


足取りはどこか重く、表情も晴れない


本来ならこの時間はSNOW WHITEの練習のはずだった。


しかし、今日だけは足がどうしてもレッスン室に向かわなかった。


舞台に立つ理由を、どこかで見失っているのかもしれない……。


ふと、耳に軽快な音楽が届いた。


軽やかなビートと、どこか懐かしいメロディ。


D4の空気をまとった、明るく弾むような曲だった。


「……?」


二乃はゆっくりと顔を上げた。


視線の先、ガラス張りのビルの前で、

一人の女性がダンスをしていた。


ラフな服装なのに、キレのある洗練された動き。


何より——その動きは自由だった。


「……あんなに自由に踊れて……いいな……」


歩き出そうとした足が、

音楽に引き留められるように止まった。


(この楽曲……どこかで——)


胸の奥にひっかかるような旋律。


耳と記憶が、それを結びつけた。


「……この楽曲、まさか……」


思わず、声をかけてしまっていた。


「すみません!」


踊っていた女性が、こちらを振り向いた。


その瞬間、二乃の胸が、はじけるように高鳴った。


「その踊ってた曲って……D4の新曲ですよね?」


女性の目がわずかに見開かれた。


「えっ、まだ公開されてないのに……なんで分かったの?」


「D4のマネージャー……ひまりんのSNSに楽譜の断片が映ってて……。

メロディラインが、似てたから……」


一瞬の沈黙。


そして、女性はくすっと笑った。


「あー……あの子たち、やっちゃったな。

内緒だったのに……まぁ、可愛いからいっか」


「“あの子たち”って……まさか……」


「うん。D4のメンバー。私、あの子たちの振付師なの」


振付師。


その言葉に、何かが繋がるような感覚が走った。


「じゃあ……あなたって……」


女性は柔らかく微笑み、軽く頭を下げて名乗った。


「私?二柳ひなた」


——その瞬間、世界が止まったようだった。


あの名前。


“過ぎ去りし流星たち”の一員。

かつて“フラウ・ヴィンド”と呼ばれた、

伝説の先輩。


そして、自分がいま背負っている称号——

フラウ・ヴィンドの、前任者。


まさか、その本人が、目の前に立っている。


二乃の息が、止まった。


夕方の駅前の喧騒が、

急に遠のいたように感じられた。


ひなたは、二乃の反応を見て、少し首を傾げた。


「どうしたの?顔色悪いよ?」


二乃は、ようやく声を絞り出した。


「……あなたが……二柳ひなたさん……?」


「うん、そうだけど」


ひなたの笑顔は、昔の記録映像で見たものと変わらなかった。


軽やかで、自由で、風のように明るい笑顔。


二乃の胸の奥で、何かが大きくざわめいた。


自分が今、背負っている「風の君」という名前の重み。


そして、その名前の持ち主が、

目の前にいるという現実。


夕方の駅前で、

2つの「フラウ・ヴィンド」が、

静かに向き合っていた。





夕陽に染まりつつあるビルの裏手。


階段の踊り場で、

二乃とひなたは並んで腰を下ろしていた。


自販機で買ったペットボトルを手に、ひなたは空を見上げながら、のんびりとつぶやいた。


「そっか、二乃ちゃんが今の“フラウ・ヴィンド”なんだね」


「……はい」


二乃の声は小さく、どこか力がない。


ひなたはペットボトルを軽く振りながら、

柔らかく笑った。


「大変でしょ〜。“学院の顔”とか言われちゃってさ。

期待されすぎて、息苦しくならない?」


二乃は小さく笑ってみせた。

けれど、その笑顔はぎこちなく、

瞳の奥に影が落ちていた。


「……大変ですけど。エーデルですし、“ちゃんとしなきゃ”って……」


ひなたはふっと息を吐き、優しい声で言った。


「でもさ。学院の顔って言われても——

自分らしく自由にできなきゃ、楽しくないじゃん?」


その一言に、二乃の表情が少しだけ揺れた。


「……ひなたさんは、どうだったんですか?」


「私?」


ひなたは少し遠い目をして、

懐かしそうに微笑んだ。


その笑顔には、誇らしさと、

少しの寂しさが混じっていた。


「私はもう、自由にやらせてもらってたよ〜。

我が強いメンバーばっかだったからね。

誰かが引っ張るってより、“それぞれが自分で在る”って感じだったかな。

もちろん、よく怒られたけど」


思わず、二乃の口元に小さな笑みがこぼれた。


さっきまで曇っていた瞳に、

かすかな光が戻ってくる。


「……自分らしく……」


ひなたが軽やかに立ち上がり、

伸びをしながら身体をほぐした。


リズムに合わせて軽くステップを踏む姿は、

まるで風のように軽やかだった。


「そろそろD4のレッスン時間だから行くね」


「はい……あの、今日は……ありがとうございました」


階段を降りながら、

ひなたは振り返って手を振った。


「またね、フラウ・ヴィンド」


その言葉が、夕風のように軽やかに残った。


二乃は見送ったあと、ゆっくりと空を仰いだ。


頰に触れた風が、そっと髪を揺らしていた。


——自分も、あんなふうに。

“風のように”自由になれるだろうか。


二乃はペットボトルを両手で握りしめ、

まだ温かい夕陽の残光を見つめた。


胸の奥で、いろんな想いが渦を巻いている。


エーデルの重み。


翼の苦しみ。


そして、今出会ったばかりの先輩が残した、

自由の香り。


二乃は小さく息を吸い、

静かに、けれど確かに呟いた。


「……私も、もっと自由に……踊りたいな」


夕陽が、ビルの隙間から最後の光を投げかけていた。


階段の踊り場に残された二乃の影は、

少しだけ、風に吹かれて揺れているように見えた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……







夢を叶える物語である。


第4話

 完

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