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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第3章「空が崩れ、影が生まれ」
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第3章 「空が崩れ、影が生まれ」 第8話

百合々咲音楽学院の保健室で、

翼はゆっくりと目を覚ました。


白い天井が、ぼんやりと視界に映る。


どこか遠くで、

カーテンが風に揺れる柔らかな音がしていた。


まぶたが重く、

身体全体に鉛のような疲れが残っている。


けれど、

ゆっくりと開いた視界の先に——人影があった。


「……!」


思わず体が反応し、わずかに身を起こそうとした。


——李梨奈さん……?


一瞬、そう思った。


だが、違った。


そこにいたのは、椅子に腰かけていた怜人だった。

心配そうに眉をひそめながらも、

翼の目が開いたのを見て、

安堵の笑みを浮かべていた。


「……よかった。目、醒ましてくれて」


声は、いつもの“兄さん”の優しい声だった。


翼の胸が、少しだけ軋んだ。


「……兄さん……」


怜人は何も言わず、ただ静かに頷いた。

その手が、そっと翼の額に触れ、

熱がないことを確かめるように優しく撫でた。


翼は再び枕に頭を預け、天井を見つめた。


保健室の白いカーテンが、

夕方の風にゆっくりと揺れている。


外からは、遠くで部活の声や、

誰かの笑い声が聞こえてくるのに、

ここだけは別の世界のように静かだった。


翼は小さく頷いたが、言葉は出なかった。



帰り道。


日はすっかり暮れ、

街灯がぽつぽつと灯り始めていた。


二人は並んで歩いていたが、

会話はほとんどなかった。


足音と、かすかに風が揺らす木々の葉の音だけが、静かに耳に届く。


翼は、ずっと俯いたままだった。


制服の袖を軽く握りしめ、

足元ばかりを見つめている。


やがて、ふと——

ぽつりと、言葉が零れた。


「……兄さん」


「ん?」


「……私って、本当に……飛彩?」


怜人の足が、少しだけ止まった。


けれど翼は、すぐに言葉を継いだ。

まるで、言ってしまったことを後悔するように。


「……ごめんなさい。なんでもないです」


怜人はそれ以上は何も言わなかった。


ただ、隣を歩きながら、

目を伏せたままの翼の小さな姿を、

静かに見守っていた。


夜風が、2人の間を優しく、

しかし冷たく吹き抜けていく。


怜人の胸の奥では、

高虎から渡された封筒の重さと、

李梨奈の存在が、静かにのしかかっていた。


翼は、自分の名前が、

今は自分のもののように感じられなかった。


飛彩翼。

雪叢翼。


どちらも自分らしく思えず、

ただ、胸の奥が空っぽのように疼くだけだった。


街灯の光が、2人の影を長く道路に落としていた。


兄と妹は、並んで歩きながら、

それぞれ違う想いを胸に抱え、

静かな夜の道を進んでいた。


風が、夜の街を吹き抜けていった。







これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……






夢を叶える物語である。


第3章 「空が崩れ、影が生まれ」 完

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