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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第3章「空が崩れ、影が生まれ」
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第3章 「空が崩れ、影が生まれ」 第5話

高台の小さな公園。

あの桜の木の下。


誰かに“自分の声”を聞いてもらえる、

たったひとつの場所。


李梨奈さんと出会ってから、

ここは翼にとって特別な救いの場になっていた。


でもその日だけは、違っていた。


翼が公園に足を踏み入れた瞬間、

そこにはもう誰かがいた。


「……李梨奈さん?」


口にしかけたその名を、途中で止めた。


李梨奈の前に立っていたのは、

もうひとりの男――飛彩怜人だった。


翼は咄嗟に、近くの太い桜の木の陰に身を隠した。


なぜ隠れてしまったのか、

自分でもよくわからなかった。


ただ、本能が「今は見られてはいけない」と、

強く告げていた。


風が少し吹いた。


ざわめく音の中で、

2人の声が静かに聞こえてくる。



「……随分と探したよ、リリィ」


「その呼び方、相変わらずね」


怜人の声は低く、抑えきれない感情が滲んでいた。


「こんなに近くにいるとは思わなかったよ」


「最近、またこの街に来たの」


「……翼に会いにか?」


短い沈黙。


「お前に…ずっと聞きたいことがあった。

なんで翼を捨てたんだ。」


李梨奈の声が、少しだけ震えた。


「私も、まだ子どもだった。親に逆らえなかった」


「リリィの親は……」


李梨奈の両親は会社を経営していた。

順風満帆で安泰と思われていたが、敢えなく倒産。


莫大な借金を負ってしまっていた。


「私たち家族は借金で夜逃げしたの。その時、翼を捨てた」


その言葉はとても重かった。

借金取りから逃げるため、自分たちの安全を最優先した結果


まだ赤ん坊だった翼を捨てた。


「私も捨てられたのよ。親にとっちゃ子供は足手纏いだったんんでしょ。

自分の足で、親戚の家まで歩いたの」


「親は……どうなったんだ?」


「知らない。親戚からも絶縁されてるみたいだし。

 正直、知りたくもないわ」


翼は木の陰で、息を殺していた。


全身がじわじわと冷えていくような感覚。

心臓の音が、耳の中でうるさく鳴っている。

息をすることさえ、うまくできなかった。


——“翼を、捨てた”。


その言葉が、胸の奥に突き刺さり、

ゆっくりと広がっていく。



「なんで今になって翼に会いに来たんだ?

もっと前に迎えに来てやるべきだったんじゃないのか」


怜人の声に、静かな怒りが混じっていた。


李梨奈は静かに答えた。


「正直、翼が……生きてるなんて思わなかった。

ましてや、あなたと一緒にいるなんて……」


「言わないつもりか?

自分が姉だって。自分が、翼の“本当の家族”だって」


再び、沈黙。


そして――


「……怜人も言えてないじゃん。

自分は兄じゃないって。自分は、翼の“本当の家族”じゃないって」


怜人も、何も返せなかった。


「……真実は、知らない方が幸せなときだってあるんだよ」


その言葉は、夜の公園に静かに溶けていった。


翼は木の幹に背中を預けたまま、

膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。


指先が冷たく、唇が震える。


李梨奈さんは……自分の本当の姉。

兄さんは……本当の兄じゃない。


そして、何より信じられないのはーー


自分の憧れた人が、“いちばん自分を裏切った人”

だったなんて。


頭の中で、2人の言葉がぐるぐると回っていた。


翼は両手で口を覆い、声を殺して息を詰めた。


桜の木の陰で、

小さな少女の心は、

今、音を立てて崩れ始めていた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





夢を叶える物語である。


第5話 完

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