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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第3章「空が崩れ、影が生まれ」
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第3章 「空が崩れ、影が生まれ」 第4話

今日も翼は、

足が自然とあの公園へと向かっていた。


高台にある小さな公園。


今はもう、星が見えなくても、

ここに来れば少しだけ心が落ち着く気がした。


李梨奈さんに話せば、

きっとまた優しい言葉をかけてもらえる。


あの温かい声で、

そっと背中を押してもらえるような気がした。


そんな思いを抱きながら、

翼は夕暮れの道を歩いた。


ベンチに腰を下ろした李梨奈の姿が、

公園の入り口からでもすぐに見えた。


金色の長い髪が、

夕焼けの残光に優しく照らされている。


「李梨奈さん……」


翼が小さく声をかけると、

李梨奈は柔らかく微笑んで振り返った。


「翼ちゃん」


その声は、いつものように穏やかで、

包み込むようだった。


翼は李梨奈の隣にそっと座った。


二人の間には、短い沈黙が落ちたが、

それは決して重くはなかった。


ここに来る時間が、

翼にとっての救いになっていた。


学院での冷たい視線。


ロゼの容赦ない言葉。


エーデルたちの本音。


教室で聞こえてくる囁き


すべてが胸に重くのしかかる中、

この公園で李梨奈さんと過ごすわずかな時間だけが、

翼の心を優しく解きほぐしてくれる気がした。


李梨奈は翼の横顔を静かに見つめ、

穏やかな声で言った。


「今日も、疲れた顔ね」


翼は小さく頷き、膝の上で指を絡めた。


「……うん。

今日も、セットを壊しちゃって……

みんなの視線が、すごく冷たかった」


李梨奈は静かに聞き、ゆっくりと頷いた。

責めるでも、励ますでもなく、ただそばにいてくれる。


翼は少し声を震わせながら続けた。


「私……本当に白雪姫になれるのかな。

みんなが言うみたいに、足手まといなんじゃないかって……

思うときがあるの」


李梨奈は優しく翼の肩に手を置いた。


その手は温かく、

翼の震えを静かに受け止めてくれた。


ここにいるだけで、

翼の胸のひび割れが、

少しだけ癒されていくような気がした。


夕暮れの公園で、

かつての歌姫と、これからの白雪姫は、

今日も静かに言葉を交わしていた。


この時間が、翼にとっての救いになっていた。


まだ見えない星空の下で、

小さな少女の心は、今日も少しだけ、

温かな光を求め続けていた。




閉店後のゼロタイムは、

静けさに包まれていた。


椅子はすべて上げられ、

店内は薄暗い照明だけが灯っている。


カウンターの奥からは、

ほのかにコーヒーの香りがまだ残っていた。


怜人はカウンターの中でノートPCを開き、

淡々と事務作業を続けていた。


理央は奥のシンクでグラスを洗いながら、

時折小さく鼻歌を漏らしている。


そのとき、店のドアが静かに開いた。


カラン、というベルの音が、

閉店後の静寂に小さく響く。


入ってきたのは九条高虎だった。

革ジャンの胸元に手を入れ、手には分厚い封筒を持っている。


「終わったか?」


怜人が顔を上げて静かに尋ねた。


理央がシンクから顔を出し、明るく声を上げた。


「高虎おつかれ〜。もう閉店してるよ。……その手にあるのは?」


高虎は無言で封筒をカウンターの上に置いた。


「昔の伝手を辿って調べた調査資料だ。

写真、証言、目撃情報……一応まとめた」


怜人は黙って封筒を開けた。


中には複数の写真、手書きの地図、

証言メモのコピーなどが丁寧にまとめられていた。


理央が興味深そうにカウンターを回り込み、

怜人の肩越しに覗き込んだ。


「うわ、なにこれ……え、めっちゃいろんな人が“見た”って言ってるじゃん」


高虎は低く頷いた。


「目撃者は多い。場所は限られているが、ほぼこの界隈……つまり“この街”だ」


怜人は一枚の写真を手に取った。


少しぼんやりと写った、金髪の女性の後ろ姿。

長い髪の流れ方、肩のライン、歩き方


どれも、怜人の記憶にある李梨奈の面影と重なっていた。


「おいおい……マジかよ」


怜人の声が、わずかに低くなった。


「李梨奈が……この街にいる……?」


店内に、重い静寂が落ちた。


誰も、すぐには次の言葉を発しなかった。


怜人はその写真をじっと見つめ、

ゆっくりと息を吐いた。


やがて、写真をそっと胸元にしまい、

静かに言った。


「……ありがとう、高虎」


高虎は軽く肩をすくめ、いつもの低い声で答えた。


「依頼料はあとでしっかり回収するからな」


理央があきれたように笑った。


「高虎、昔の伝手って一体誰使ったんだよ?」


理央がこっそり、

高虎に耳打ちするように聞いてみた。


高虎は一瞬だけ目を細め、短く返した。


「……聞かない方がいいぞ?」


「だろうな」


理央は苦笑しながら肩をすくめた。


怜人は封筒を丁寧に閉じ、

カウンターの奥にしまった。


李梨奈がこの街にいる。

しかも、翼が通う百合々咲音楽学院の近くで。


その事実は、怜人の胸に重くのしかかっていた。


翼に伝えるべきか。 まだ伝えないべきか。


怜人は窓の外に広がる夜の街を見つめながら、

静かに、しかし深く考え続けていた。


閉店後のゼロタイムは、

いつもの穏やかな灯りを残したまま。

今日も、気づけば足が自然と向いてしまう場所があった。





これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





夢を叶える物語である。


第4

話 完

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