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SNOW WHITE PRELUDE -白雪姫の輪舞-  作者: 二ノ宮純
第2章「流星たちの残光は尚残り」
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第2章 「流星たちの残光は尚残り」 第6話

日が落ち、空が茜色から深い藍色へと変わりはじめていた。


百合々咲音楽学院からの帰り道。


制服のまま並んで歩く2人の少女の背中には、今日はいつもより少し距離があるように感じられた。


「……大丈夫だよ。わたしだって、今日はあの演出家さんに言われたんだから。 八重ちゃんもさっちゃんもナタちゃんも」


二乃はいつもの軽やかな声で、隣を歩く翼に言葉を投げかけた。


明るく、励ますように。


けれど翼は何も返さない。


黙々と足を進めている。


二乃が少し眉を寄せ、そっと尋ねた。


「……何か、引っかかってる?」


その問いに、ようやく翼の唇が小さく動いた。


声は震えていて、夕暮れの風に溶けそうに細かった。


「……わたし、SNOW WHITEって作品が、ずっと好きだったの」


「うん……知ってるよ。ずっと憧れてたんだよね?」


「でもね……」


翼はふと足を止め、ゆっくりと空を見上げた。


藍色の空に、わずかに残る茜色の名残が、遠い記憶のように揺れていた。


「好きだったけど……“白雪姫”に酔いしれていただけだったのかな。 “白雪姫”を、ちゃんと考えたこと……なかったなって、思ったの」


「……え?」


二乃が小さく息を呑む。


翼は静かに言葉を続けた。


「なんであの城にいるのか。 “本当の家族じゃない人”といて彼女は……本当に幸せだったのかなって。 毒リンゴを食べたとき、心のどこかでほっとしたんじゃないかって…… そんなことまで、考えてしまっちゃった」


風がそっと、2人の間を吹き抜けた。


二乃は黙って耳を傾けていた。


翼の声は、少しずつ震えを増していった。


「わたし、あの物語のキラキラしたところだけが好きだったんだ。 綺麗なドレスとか、小人たちとの温かい時間とか、王子様が来てくれるラストとか…。 でも、そこに生きてる“人”の気持ちなんて、ほとんど考えたことなかった」


声が途切れた。


翼は自分の胸にそっと手を当てた。


「舞台に立つって、きっと……そういうことなんだよね。 ただ“好き”って思うだけじゃ、ダメなんだよね…… “白雪姫”として生きて、感じて、泣いて、怒って、笑わなきゃ…… 本当の“白雪姫”になれないんだって、今日、初めてわかった」


長い沈黙が落ちた。


二乃はしばらく何も言わず、ただ翼の横顔を見つめていた。


やがて、優しい声で、まるで風のように柔らかく言葉を紡いだ。


「……大丈夫。 翼なら、ちゃんと“白雪姫”になれるよ。 ちゃんと、“生きた白雪姫”に」


その言葉は、凍りつきかけた翼の心を、そっと解かすそよ風のようだった。


まさに「風の君」の名にふさわしい、温かく軽やかな励ましだった。


翼は小さく、けれど確かに頷いた。


「……うん」


しかし、心の奥底では、まだ重いものが残っていた。


でも、あの時、否定された。


ロゼの冷たい言葉。


「お前の中には白雪姫がいなかった」


あの瞬間、胸に刺さった痛みは、まだ消えていなかった。


夕暮れの道を、2人は再び歩き始めた。


並んだ背中の距離は、少しだけ近づいたように見えたけれど、


翼の心の中には、まだ埋めきれない影が静かに横たわっていた。



これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……






夢を叶える物語である。

第6話 完

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