第七十五話 一難去ってまた一難 一難去らずともまた一難は来る
ーー朝
俺は目覚めた。時計を見てみるとそこには五時を少し過ぎたほどの時間であった。
(早く起きすぎたな)と、思い再び寝ようとする。
その前にスマホを手に取り画面を見た。だが、画面が暗いままだ。
どうやら昨日瑞希と電話をしてから、切った直後に寝てしまっていたようだ。充電をせずに寝てしまうとは、危ない所であった。
早起きは三文の徳といった言葉があるが本当にその通りだと思った。
スマホに充電ケーブルを差し込み、充電が開始されたことを確認してから、再び目蓋の裏側を見ることにした。
............。
......。
ーー寝れない。
さすがに少し早く寝すぎたか、もう完全に脳が冴えてしまっていた。
仕方ないのでカーテンを開けて、昨日出来なかった復習をすることにした。
寝起きなのだが、今日は頭が冴えている。復習も三十分ほどで終えることができたので、残りは読書の時間に充てた。
小鳥が鳴く声を聴きながら太陽が徐々に顔を覗かせていた。
そんな自然を感じつつも部屋のなかで一人読書に耽る。
どれくらい経っただろうかーー
家の中が少し騒がしくなったようだ。
今日は早めに学校に行って教室でゆっくりしよう。そう思い、支度をして部屋を出た。
リビングに行くと、母親は朝食の準備をしていた。いつもより早いことに驚いていたが、急いでトーストと卵焼きとウインナーを焼いてくれた。
おまけにコーヒーまで用意してくれたのでそれに砂糖と牛乳を足してコーヒー牛乳にし、朝食を済ませて学校へ行く。
夏海が起きてくる前に朝食を済ませて、廊下で父親とすれ違いざまに、
「昨日はお仕事お疲れ様。いってきます」
とだけ言って、靴を履き玄関の扉を開けた。
「ありがとう。いってらっしゃい!」
玄関の扉が閉まる前に聞こえてきたその声は少し嬉しそうな様子であった。
父親の帰りが遅かった事を翌朝に労う息子とは、我ながら完璧なのではないかと自信に満ち満ちていた。
まだ朝も早かったことか、登校中の生徒は少ない。学校と駅の間に住んでいるため駅と反対側から来る生徒以外は大抵の生徒が通るルートを俺も途中から通ることになるのだ。
(この時間は案外登校しやすいな)と、思いながら歩いているうちに校舎にたどり着いた。
教室に入って席につき、早速読書をする。
今日は先着が二人だったので、俺は三番目であった。一体この二人はいつ登校しているのだろう。
チャイムが鳴る四十分も前から席に座っているとなると、よほどの早起きさんなのか。少し気になったため今度は俺も早起きしたときはもう少し早めに登校してみよう。と考えた。
しばらくすると家と同じく教室も少しずつ騒がしくなってきた。
俺の周りの席の人も一人席に着いたようであった。
「......ねぇ」
八時を少し過ぎた頃だった。
「......ちょっと......」
周りで話し声が聞こえてきた。静かな朝もこれで終わりか。なんて考えていた時であったーー
「ねぇってば!ちょっと聞いてるの!?」
少し大きな声だったため、驚いて振り返ってみた。
そこにはこちらを見ている女子生徒がいた。
髪の毛はセミロングくらいで毛先が少し内側に巻かれていて、少し明るめの髪色で、程よく化粧もしている。
まず間違いなく俺に話しかけることはない人間であった。
(誰に話しかけているのだろう?)と、思い俺は再び前を向き直した。
俺の周りにはその女子生徒くらいしか登校してきていない。この子は中距離で会話をするタイプなのだろうか。
そんなことを考えて、読書に戻る。
「ちょっと!無視?」
文字を読んでいるはずが、会話相手に無視をされている気の毒な少女のせいで話が頭に入ってこない。
(お願いですから、この子を無視しないであげてください)
ーーなんて誰に対してか分からないが祈ってみた。
とその時であったーー
「あんた何様のつもり!?」
今度は目の前から声が聞こえてきた。
驚いて俺は本から目線を外し、顔を上げた。
するとそこには、先ほどの無視されていた気の毒な少女が立っていた。
「なんで無視するのよ」
その少女はかなり怒っている様子であった。
「へっ?」
返す言葉も出ないほど俺は驚いていたーー
「さっきから呼んでるでしょ」
その言葉を聞いて点と点がようやく繋がった。
さっきから話しかけていたのは、俺に対してのものだったのだ。
(ということは、無視していたのは俺だった?)
気の毒な少女にしていたのはどうやら俺のせいだったみたいだ。
「ねぇ、あなた耳が悪いの?」
返答する前に悪口を言われてしまったので、急いで言葉を探す。
「いや、あの......俺に話しかけてるなんて思わなかったからさ」
確かによく考えてみると何の用で話しかけてきたのだろう。
「そりゃ、まぁ......そうよね......」
何故か先ほどまでの勢いが無かった返答に俺も驚く。
「それで、何か用なの?」
どうしてこの子は俺に話しかけてきたのだろう。その疑問が頭の中を支配してしまい、読書どころではない。
と、同時に今更ながらに気付いた。
この子は天道の後ろの席の女子である。
あまりよく顔を見ていなかったため、天道の後ろに居なければすぐには気付かなかった。
「用って......まぁ、その大したことはないんだけど......」
彼女は少しうつむき加減で急に声が小さくなり、言い淀む。
わかる。わかるぞ。これは大したことがないと言っておいて相手に不安を感じさせないようにしておきながらも、すごく大したことを言うあれだ。絶対そうだ。
「どうしたの?」
どうせ逃げようとしても逃れられないような気がしたため、俺は意を決して聞く。
「あ、あのさぁ......」
とても言いづらそうにしているが、覚悟はできている。
「ん?」
次の言葉を促すように俺は相槌を打った。
「わ、私の......」
その瞬間、嫌な予感がした。
これは、天道のノートを拾ってノートの事を天道に聞かされた時のようなーー
『なら、私のノートになって』
さすがにクラスに二人もノートを募集しているなんてことはないだろうが、それに匹敵するいやっ、勝る程の嫌な予感がした。
目の前の彼女が口を開いた。
「私の彼氏になって!」
おみごと。予想的中ーー




