第七十四話 自分の声を届けるものでも相手の声を届けてもらうものでもない 気持ちを届けるもの
瑞希と電話で話している最中、俺はとんでもない勘違いをしてしまっていたことに気づく。
瑞希から今日の私はどうだったかを聞かれたのだが、俺はてっきり抱き締められたことについて聞いてきたのだとばかり思っていた。
だが、実際は天道との会話のことの話であった。
俺はそれが分かった途端に恥ずかしくなり、いつも通りに言葉を失っていた。
「おーい!相棒くーん!聞いてるかー!」
瑞希から返答を促す言葉をもらう。
「あっ、えっ、うん。聞こえてるよ」
とりあえず何か返さなくてはいけなかったので、あ行をふんだんに使ってみた。
「だからー、桜と少し言い合いになったじゃない?その事について、どう思った?」
瑞希はそう質問してきた。
たしかにあの時の瑞希はいつもの様子ではなかったように思えた。
「まぁ、確かに忙しくて分担作業にしたわけだから、時間がある時くらいは協力というか一緒に作業しても良いのかなとは思うな」
俺はそう答えるとーー
「でしょ!?私、間違ってないよね?あー、良かった。もし私が変なこと言ってたらどうしようかと思ってたよー」
瑞希は急に明るくいつもの瑞希に戻った。
「うん。でも、天道も忙しいのは本当みたいだし、分担作業でちゃんと仕事はしてるみたいだし、空いた時間に息抜きでもしたい気持ちはわかるかもしれない」
俺は、正直今の天道との仲は良くないことは分かっている。でも、それとは別に天道の立場なら自分もそうするかもしれないと思ったのだ。
「えっ......そうなの......?」
瑞希は慎重に言葉を口にする。
「まぁ......うん。いやっ、実際は分からないけどそうするかもなーってだけ。ははっ」
俺は少しおどけてみながら話した。
「そう......なんだ。やっぱり私、間違ってたのかな?」
電話口でもわかるその声色で、瑞希は少し落ち込んでいる様子がすぐにわかった。
「いやっ、でも俺は友達が居ないしさ。共同作業をすることが気分転換になるのかなって!お恥ずかしい話なのですが......」
電話中に電話口で落ち込まれると自分のせいなのかと思ってしまう。自分のせいでなければ落ち込んでもらっても良いのかと言えばそうではないのだが。と、電話をろくにしたことのない俺が思ってみたりする皮肉な表現が好きな所が自分も好きだ。
そんな事を考えながら瑞希の機嫌を取り戻す事を考えていた。
「なるほど!でも、普通はそうよね!?作業もしないといけないし、息抜きもしたい。そうなったら、二人で作業すること自体が息抜きだったりするよね!」
瑞希は俺が肯定的な意見を言うとすぐに機嫌を取り戻す。そんなことが少し分かってきたため、瑞希との意見が違っていた時に『いや』や『でも』などを自分の意見に対して使うことで言葉の路線変更をして瑞希の望む意見に近づけている。
それが正しいのかどうかは分からないが、瑞希にはいつも笑顔で居て欲しいため俺はそうしている。時に無意識に無自覚に。
「うん!まぁ、俺は仲の良い人が居ないから参考にならないだろうけどね。ははっ」
自分が意見の過半数ではないことを伝えて、少しでも言葉の責任を軽くするのは忘れずに。
「いや、仲の良い人なら一人居るでしょ?」
「えっ?」
急に言われたその一言に少し戸惑ってしまう。
(これはなぞなぞか?)と思いながらーー
「鏡の中の自分......?」
と、答えてみた。するとーー
「あははっ。なにそれ!?ちょっと面白すぎー!ははっ」
どうやら喜んでもらえたようだ。
だが、これは正解ではなかったみたいだ。
「えー、違うの?他に仲の良い人なんて......」
と言いかけたその時ーー
「一緒にカフェ行ったり、夜に電話したりする人が居るんじゃない?」
瑞希から最大のヒントをもらった。
「あー、そうだね......。一人だけ居ましたわ」
俺は少し照れながら、瑞希を仲の良い人に含んでも良いという事が分かりバレないようにニヤける。
「そうだよ、もぉー!忘れちゃ困るよー!」
少し怒っている様子だったが、この怒るには笑いも含まれている一種の愛情表現みたいなものであった。
「ごめんごめん。つい......」
俺は自分では仲が良いと思ってても、相手はそう思わない事があるだろうということで、簡単には仲が良いとは思わないようにしていた。
「いいよー!これからもよろしくねっ!じゃあ、そろそろ切るね!まだ明日の宿題してなかったんだ......ははっ。今日は本当にありがとー!」
「あ、うん。こちらこそありがとうね」
「なんで相棒くんが感謝するのよ!じゃあ、また明日学校でね!おやすみ!」
瑞希は明るくそう言って電話を切った。
俺はまだ耳元に残る瑞希の声を元にさっきまでの会話を余韻に浸りながら思い出していた。
仲の良い人......。俺はそんな人が出来たのだ。
心躍る気分なのだが、自然と落ち着いていた。
その時であったーー
ーーピローン!
持っていたスマホから急に音が鳴ったため、手から落としそうになる。
慌てて持ち直し、スマホの画面を見る。
そこには先ほど会話していた瑞希からのメッセージを受信したと思われる表示があった。
急いでメッセージを開いてみると、なにやら写真が送られていた。
写真を見るとそこにはーー
口の周りにチョコがついている俺の写真であった。
「なんだよこれ。チョコ付け過ぎだろ」
と、写真を見ながら一人で呟いた。
その時に思い出したのだが、仲の良い人を他に一人忘れていた。
そいつとは最近は仲良く出来ていないのだが、このままではいけないと思っていた。
なんにせよ今日は疲れたしゆっくりしよう。
そう思いベッドに横になった。
『チョコ、服にも付いてた』
送ってくれた写真についての一言を添えて、今日言えなかった一言を送った。
『おやすみ』
自分の送ったメッセージがスマホ画面に写し出されているうちに今日と別れを告げた。




