第六十九話 財布は人によって違う 何かを入れるためなのか出すためなのか 入っている物さえ違う
放課後の帰り道、瑞希とカフェでゆっくりしながら話している最中、瑞希から連絡先を交換してと言われた。
こうして連絡先を交換した二人は、ほどなくして食事を終える。
瑞希がチョコクロワッサンを食べ終わり、コーヒーを飲み終えた所で
「じゃあ、そろそろ行こうか!連絡先も交換したし、これでいつでも話せるしね!」
と、言って口元を拭いて鞄を取った。
「まぁ、すぐに返せるか分からないけどな」
俺も鞄を取り、立ち上がる。
「えぇー!そこは返してよ!桜との仲直り作戦もあるんだから!」
俺たちは自分の食器を持って返却口に返した。
「そうだったな。てか、もう天道と河合さんは仲良しじゃないのか?」
二人でレジへと向かい伝票を出す。
「いや、まぁ仲良しではあるけど、前みたいな感じじゃないっていうか、少し距離がある感じがするっていうか」
店員さんが来て伝票を受け取る。
「ありがとうございます。お会計は別にされますか?」
「あっ、一緒で!」
瑞希はすんなりと返答した。
「えっ?一緒?一人いくらだっけ?」
俺は一人で焦って計算していた。
「お会計、九百六十円になります」
(え、半分に割るからえーと四百......)
「これでお願いします!」
「はい、千円からお預かりします。四十円のお返しになります」
俺が計算をしている間に、瑞希と店員さんのやり取りが進んでいた。
「ありがとうございました。またのお越しお待ちしております」
店員さんはそう言って深々とお辞儀をした。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした!」
瑞希も元気にそう言って、店を出ようとしている。とりあえず、瑞希がお金を払ってくれたので外で返そう。そう思い、店員さんに向けて最後に言う。
「ありがとうございました......」
なんとか最後にお礼を言うことが出来て、少しモヤモヤが晴れた気がした。
気分も良くなり、瑞希が扉を開けて二人で外に出た。瑞希は外に出るなり少し寒そうにしている。
「うぅー、寒いねー」
外は少し暗くなってはいるが、まだ少し明るさを保っている。ほんのり肌寒さを感じさせる冬の名残が体全体を包み込む。そんな寒さにも今日ばかりは悪くないななんて思ってみたりしていた。
「そうだなっ。あっ、それはそうとさっきのお金......。返すよ」
俺は先ほど取り出していた財布を開いてお金を返そうとする。
「えっ、いいよいいよー。今日はね、付き合ってくれた感謝の気持ち!ありがとね!」
そう言って、瑞希は俺の財布を閉じた。
「いやっ、それは流石に悪いって!せめて、自分の分だけでも支払わせてくれ」
俺は家族以外の人から何かをもらったり、ましてや奢ってもらったりしたことがないため、こういう場合はどうしたら良いのかが分からない。
「いいって!私の気持ちなんだからっ!」
瑞希に強く言われてさらに戸惑ってしまう。
「いやっ、本当に悪いから!」
だが、俺も一歩も引かない。これがたまに見る店前での支払い争奪戦なのか。
実際に自分がやるとは思いもしなかった。
「もぉー!じゃあ、わかった!この分を次来たときに支払って?今度は高山くんの奢りで!」
瑞希が少し怒ったかと思いきや、笑顔で提案したきた。
「えっ、あー、まぁ、そういうことなら......」
俺は奢ってもらったという罪悪感があったが、次回奢り返すなら問題はないだろうと思い、瑞希の提案を受け入れる。
「はいっ!じゃあ、決まり!その代わり、今度は高山くんから誘ってねー」
笑顔でこちらを向いて言ってきたと思えば、くるりと反転して前を向き直す瑞希。
「えっ......ちょっと、それは無理だって!」
すんなりと無理難題を言ってきた所で、俺が返した言葉が聞き届けられることはなかった。
先ほどより日が沈み、辺りが薄暗くなったと同時に、人の往来が増えたような気がする。
瑞希から返答が無かった俺は、晩ご飯前に少し腹を満たしたことで、晩ご飯が入るのか心配になっていた。
そんな時であったーー
瑞希が俺の目の前で固まっていた。
「どうしたんだ?」
瑞希に声をかけても返事がない。瑞希の目線をふと手繰り寄せてみると、そこには見覚えのある女の子が二人居た。
その女の子たちはこちらに気付かずに向かってくる。
そこで俺はその女の子が誰なのかわかった。
「天道......」
つい、言葉にしてしまう。しまったと、思ったがもう既に遅い。俺のその言葉で、二人はようやくこちらに気付いた。
「瑞希......に、高山くん?」




