第六十六話 分からないことが分からない それさえも分からない
目的地であるお店に着き、店へと入る俺と瑞希。
「さっ、入ろ入ろ!」
やはり先ほど通り過ぎた綺麗なカフェであった。瑞希を先頭にして中へと入るとそこには俺とは程遠いお洒落な空間が広がっていた。
木目調の空間で、お客の層も若い人が多いわけではなく、おじいさんや主婦の方々なども利用している街のカフェみたいだ。
それが逆にお洒落な雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
俺は普段来ないところのせいで途端に緊張してしまい、萎縮する。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
品の良いお姉さんのような方がお出迎えしてくれた。
「はい!二名様です!」
瑞希は元気よく返答していた。
(こういう所でも堂々と出来るのは瑞希のすごい所だよなー)なんて、感心している間に、案内された席へと移動する。
「では、こちらの席へどうぞ!」
窓際の席で、ちょうど外の景色が眺める。
「ありがとうございます」
瑞希がお礼を言いながら、席へと座る。続けて俺も椅子に腰掛け、鞄を足元に置く。
「お客様、良ければこちらの鞄入れをお使い下さいませ」
と、店員さんにテーブルの下にあった、白いかごを渡される。
「あっ、はい、わかりました」
瑞希のようにお礼は言えなかったのだが、自分なりにはぎこちない対応は免れたと思えた。
その後、店員さんは一度カウンターに戻って、再び俺たちのテーブルへ来た。
「失礼します」
と、良いながら二人分の氷入りの水が入ったグラスを差し出してきた。
「ありがとうございます!」
俺が頭を下げるだけで留めていた所、またもや瑞希が口に出してお礼を言っている。
そんなことを思っている間に、本日の一番の難関がやって来たーー
「それでは、ご注文を伺い致します」
(きた。注文がこのタイミングで来てしまった。まだ何も考えていないどころかメニューすら知らない。やばい、どうしよう......)
俺は焦りながら頭が真っ白になっていた。
するとーー
「あっ、じゃあアイスコーヒーで!それとチョコクロワッサン!」
向かい側の席の女の子が元気よく注文し始めたのである。
「はい、アイスコーヒーがお一つとチョコクロワッサンがお一つですね。アイスコーヒーは、ブレンドとオリジナルがございますがどうされますか?」
「えー、じゃあブレンドで!」
店員さんと瑞希が謎の言葉を掛け合っている。一体、何を話しているのかサッパリわからない。
「かしこまりました。アイスコーヒーのサイズはどうされますか?」
「Mでお願いします!」
俺は瑞希のやり取りをすごいなと思いながら、ボーッとして聞いていた。
「かしこまりました。お客様は、どうされますか?」
「え、ああはい。えーと......」
(ヤバい。時間あったのに何も考えてなかった。こういうときは必殺技の後出しじゃんけん)
「じゃあ、同じので......」
「はい、かしこまりました。アイスコーヒーのブレンドのMサイズと、チョコクロワッサンがお一つですね?」
何か分からないが俺にはこれしかないのだ。
「あっ、はい。それでお願いします」
「かしこまりました。それではご注文を繰り返します。アイスコーヒーのブレンドのMサイズがお二つと、チョコクロワッサンがお二つ。以上でお間違いないでしょうか?」
(最初から二つで頼んでおけば店員さんも何回も繰り返さずに済んだのに申し訳ない)なんて、少し自分を戒めてみる。
「はい!それで!お願いします!」
「では、出来上がり次第、お席までお持ち致しますのでお待ち下さいませ」
店員さんは笑顔で完璧な接客を終えて、後ろに振り返りカウンターの奥へと戻っていった。
「ふぅー......」
俺はたいしてなにもしていないはずなのに、少し疲れていた。
「どうしたの?せっかくお店についたばっかなのにため息なんかついちゃって」
瑞希は少し心配しているような素振りで俺に聞いてくる。
「いや、あの、別になにもないよ」
確かになにもないので何て言えば良いのかわからなかった。
疲れた理由さえも分からない自分が何なのか分からないでいた。




