第六十四話 気のせいにすると気がかわいそうである 気の毒な話である
そこに立っていたもう一人の委員長が歩き出し、こちらへ向かってくる。
黙ったままそれを見ている俺たち二人を気にもせずに近寄ってきた。
「河合さん」
瑞希をそう呼んだのは、そうーー瑞希と一緒のクラスのもう一人の委員長の三島だった。
「えっ、な、なにかなー?」
瑞希はあれから三島とあまり話してないのだろうか。少しおどおどしたような返事に見えた。
「今日は先生方が職員室で会議があるとかで、鍵はパソコン室の前にある先生用の机の上に置いといてって鑑野先生が言ってたからさ。それを伝えようと思って」
ーーどうやら三島は作業をしに来たのではなく、先生からの伝言を言いに来ただけのようであった。
「あっ、そうなんだ!わかった。わざわざありがとうね」
瑞希は三島に対して笑みを浮かべている。
「どうも。それじゃあ俺は帰るから」
そう言って立ち去ろうとしていた。
「おいっ、ちょっと待てよ」
瑞希が黙ったまま三島の帰りを眺めていたため、つい俺が呼び止めてしまった。
「なにかなー?」
振り返り、笑顔などないその表情に対して俺は言う。
「なにじゃないだろ。なんで河合さんが一人で作業してるんだよ。お前も委員長なんだろ」
少し強気で言うが、普段は親しくもない人にそんなことは言えないはずなのに何故か言えてしまう。
きっと俺はこいつの事が嫌いなんだろうと思う。
「そう言う君は一人で作業してるじゃん?」
少し鼻で笑ったように三島は言ってきた。
「いや、俺はその......分担作業なんだよ」
いきなりの反論に少し動揺してしまった。
「そうなんだ。じゃあ、俺らも分担作業ってことで!......良いよね?河合さん」
三島は笑顔で瑞希の方を見て聞いている。
「あっ、う、うん。私は大丈夫だよ!」
瑞希も少し動揺していたようで、慌てて笑顔を取り繕っていたようだった。
「ほらっ!そういうことで。じゃあ」
「おいっ!待てよ!」
俺の引き留めも届かず三島は反対を向きパソコン室から出ていった。
「ったく......、嫌なやつだぜ」
俺はため息混じりに三島への悪態をつく。
すると瑞希はーー
「だめだよ!そんなこと言っちゃ!三島君も頑張ってるし、何より私が遅いのは事実なんだからっ!」
明るく振る舞ってはいるが、どことなく笑顔になりきれていない様子である。
「わかったよ。ごめんな」
彼女にそう言われると言うことを聞かなくてはならない。そんな気がするのであった。
「うむ。よろしい!では、今日はそろそろ帰るかー!!」
瑞希が笑顔で立ち上がりそう言った。元気が戻ったのか、笑顔に不自然さが見られない。
「よしっ、そうだな。今日は全然進まなかったけど」
一応は、途中で止まるサービスエリアのトイレ情報と現地のマップは資料として印刷したので、それを明日天道と手書きかパソコンかどっちでやるかを考えて決めよう。ということで今日は帰ることにした。
「なにしてんのー?はやくはやく!置いてくぞっ!」
元気にそう言う瑞希は、すでにパソコンの電源を切っていた。
「ちょっと待ってって......」
俺も慌ててパソコンの電源を切って立ち上がる。
「よしっ!じゃあ、どっちが先にパソコン室を出れるか競争だぁー!!」
そう言って彼女は鞄を持って小走りで扉までかけていく。
「あっ、ちょっと!ズルいぞ!」
彼女の明るさに釣られてこちらまで明るくなってしまった。
「よしっ!私の勝ちだー!」
扉まで目前のところでそう言う彼女を見て、俺は一つ思い出す。
「あっ!パソコン室の鍵、ちゃんと前の先生の机の上に置いた?」
彼女はピタッと止まり、すぐに振り返って逆走し始めた。
そうしてる間に、俺は扉まで着いた。
「よーし、俺の勝ちー!!」
瑞希も遅れて扉の前まで来た。
「えー、この試合は没収試合とさせて頂きます」
真面目な顔で言っているので、それが逆にふざけているようであった。
「仕方ないな。ほら、じゃあ行くぞ」
そう言って、俺と瑞希はパソコン室から出たのであった。
パソコン室を出て直後に、気になっていた事を聞いてみた。
「河合さんは今日は何の作業したの?」
すると少し沈黙があった後に、恐ろしい回答が返ってきた。
「パソコンの電源を入れて、切りました」




