第六十二話 人の物を盗んではいけない それが物であろうと話であろうと
隣の二人から言葉が無くなったのと同時に隣から何やら複数の視線を感じた。
俺は何故、視線を感じるのか。視線の先は大体の見当はついているが俺が視線を浴びる理由が分からないため、本当に俺の方を見ているのか気になりゆっくりと視線を隣に移した。
するとーー
恐ろしいくらいに二人とすぐに目が合った。
すぐさま天道の後ろの女子が口を開けた。
「えっ、高山、今の私たちの話聞いてたの!?」
咄嗟に言われたその言葉に対応しきれずに、
「え、いや、聞いてないよ。多分......」
最後に余計な言葉を付け加えてしまった。
「多分って、絶対聞いてたでしょ!」
「いや、まぁ声は聞こえてたけど考え事してたから......」
この場合は、あからさまに聞こえていないと言っても嘘っぽく聞こえる。なので、声は聞こえたと言って真実味を出そうとした。
「じゃあ、私たちは今何の話してた?」
突如出題されたその質問に答える訳もなく、
「いや、だから分からないって」
そう返したのだがーー
「もし、答えられなかったら高山の事盗み聞きする人だってみんなに言うからね!」
それは困る。非常に困る。ただでさえ、周りと距離があるのにさらに距離が広がってしまう。
このままでは教室に俺一人になってしまうではないか。
(あっ、でもその方が良いかも)
なんて、思ったが『盗み聞き』という響きがダサいため却下である。
なんとかして盗み聞き呼ばわりを阻止しなくてはならない。
「さん!」
急に彼女は誰かを呼んでいるのか、さんだけを叫んだ。
俺は誰の事を呼んだのか辺りを見渡す。
「にぃ!」
この子は兄のことをそう呼んでいるのかーー
いや、そんなはずはない。これは間違いなくカウントされている。急いで先ほどの回答を言わなくてはーー
「いち!」
「放課後の話!」
「ぜろ!」
なんとかカウントゼロギリギリで答えることが出来た。これで盗み聞きと言われることは免れただろう。
それにしても疲れた。瑞希に協力することがこんなにも大変だったなんて。まぁ、なんにせよこれで放課後に報告が出来る。
そう思った時であったーー
「聞いてんじゃん」
「ほぇ?」
出題してきた彼女から正解という言葉ではなく、違う言葉が返ってきた。
「盗み聞きしてないと答えれないでしょ」
しまった。完全に乗せられてしまった。
答えれないと言いふらす。答えを言ってしまうと聞いた事実が浮き彫りになる。これは罠であった。
「いや、その盗み聞きじゃなくて......聞き耳かな?」
こうなったら開き直るしかない。どうせ広められるなら言葉のニュアンスを少しでも和らげる作戦に切り替えた。
「は?一緒じゃん!盗み聞き野郎!」
作戦は見事に一瞬で失敗に終わった。
「てか、俺をはめたな?答えても答えなくても言いふらす気だったんだろ」
端からみたら完全な逆ギレではあるのだが、言い方を出来るだけ優しく怒ってない言い方で発言した。
「いや、あんたが盗み聞きしなかったら良いだけでしょ」
「そ、それは......」
俺はこれ以上言い返す言葉がなくなったので、詰みであった。
「ごめん。そんなつもりはなかったんだ」
確かに盗み聞きは良くなかったかもしれない。瑞希とも盗み聞きではなく、聞こえる範囲でと話していたのにも関わらず盗んでしまった。
それは完全に俺が悪い。
「まぁ、もういいよ。てか、最初から謝ってたら済んでたのに!ね?桜ちゃん?」
「そうね。それと、さっきはめたとか言っていたけど、質問された時に間違った答えを言っていれば言い逃れは出来たけどね」
なるほど。答えなければ言いふらす、正解でも盗み聞きが確定してしまうわけだから答えて正解しなければ良かったのか。
流石は天道。伊達に盗み聞きをしているわけではないようだ。
「で、どうして私たちの話を聞いていたの?」
天道の後ろの女子は疑問を抱いた表情で問いかける。
「えーと、それは......その」
「許してあげるから答えなさいよ!」
そう言われた瞬間、俺たちの周りの席の人たちが少し静かになった。
これ以上、怒らせると本当に良くない展開になりそうだったために俺は本当の事を言うことにした。
「君と仲良くなりたかったから......」




