第六十一話 人の話をよく聞くのは良いことである 良いことでもやり過ぎると良くないこともある
放課後までの時間で天道と会話をしなければいけない。そんな思いで休み時間に天道に話しかけてみた。
「あ、あの、天道さん......」
何故だか久しぶりに話しかける気がしたので、呼び捨てにすることに抵抗があり、最初はさん付けで呼ぶことにした。
「なにかしら?」
みんなに見せている天道と、俺に対しての天道のちょうど中間くらいの声と表情で返してくれた。
機嫌が良いとも悪いとも言えないそんな素振りが余計に話をしづらくさせている。
「昨日は色々と頑張って、役割表と先生方の担当表も作ったんだ。天道はあれから習い事とか忙しかっただろうけど、作業は進んだ?」
しおり制作についての話に絡ませて天道の放課後の事情についても話の中に入れる。
我ながら良い作戦だと思った。
「あらそう。それは良かったわね。でもその話は放課後にするって言ったわよね?」
天道は笑顔でそう言っているが、目が笑っておらず声も何だか素っ気ない返答であった。
「あ、うん。ごめん......」
俺は天道を怒らせたと思い、少し焦りながら謝る。
「別にいいわ。今日の放課後話す手間が省けたから。私は持ち物のページは完成したわ。今日は当日スケジュールのページを作成するから」
天道は淡々とそう言うが、これを周りはどう思っているのか。普段は明るく振る舞うが仕事となるとクールになる人とでも思われているのか。
いつもは人が居なくなってから、天道の態度が変わるが今日は人がいる休み時間でこの態度だ。
いくら表情は笑っていて明るく振る舞っているように見えても、声が全然明るくない。
俺と話しているといずれ天道の本性がみんなにバレるのではないかと、人の事を心配してみる。
「わ、わかった。じゃあ、俺は今日は現地の地図を作成するよ」
「あら、そう。じゃあ、よろしく。また明日の放課後に聞かせて頂戴」
そう言って彼女はすぐに後ろの女子の方へ振り向き、とても明るい声で話し始めた。
どうやら俺と天道の会話は終了したらしい。
せっかくの良い作戦が意味を成さなかった。
(明日の放課後に聞かせてって、それはそれまで話しかけないでということか?)
これは瑞希の仲直りを協力している場合ではないようだ。
俺も別で天道と仲直りをしなければならない。
元々、俺は天道との仲直りを自分だけで頑張るつもりであった。
瑞希には、俺と天道を仲直りさせようとすると変な気を遣うだろうから、あくまで瑞希と天道の仲直りのみをする作戦を立てる事にしたのだ。
だが、協力をする俺が瑞希よりも避けられていたら協力どころの話ではない。むしろ、足手まといである。
そう思い、弁当の時間に瑞希に言われたように隣に聞き耳を立てて食事をした。
「えー、桜ちゃんそんなことしてるのー?」
天道の後ろの女子からそんな言葉が聞こえた。
もしや、それは放課後に何かしていると言うのか。そうなるとこれは有力な情報である。
俺はなんとか一縷の望みにかけてさらに聞き耳を立てる。
「桜ちゃんってば、すごい!」
肝心な内容が聞こえてこない。
「そんなことないわ。私だけじゃないはずよ」
「いやー、そんなことしてるの桜ちゃんくらいよー!」
何かは分からないが、何かをしていることはわかった。
それと天道の後ろの女子がついこの前までは『天道さん』と呼んでいたのが今では『桜ちゃん』と名前呼びになっている事が分かった。
だが、そんなことを分かっても全く意味がない。瑞希に報告したら相棒パンチをくらうことになるだろう。
「私のお勧めが置いてあるお店が駅の近くにあるけど?」
「えー、行きたいー!今日学校終わってから行こうよ!」
これは放課後の話をしているに違いない。何かは分からないが放課後の話をしていることは分かった。
「今日は習い事まで少し時間があるから、少しだけならいいわ」
「やったぁー!じゃあ、決まりね!楽しみ!」
おまけに習い事の話もしている。何かは分からないが習い事の話をしていることは分かった。
「うん。それとね、話は変わるんだけど人の話とか盗み聞きする人ってどう思う?」
「何それ!急に!えー、嫌だなー!なんかちょっと気持ち悪い」
どうやら話が変わったらしい。誰のことかは分からないが盗み聞きする人について話している事は分かった。
「だよね!気味が悪いし怖いよね!」
「うん......どうしたのー?」
その言葉から先の会話が急に途絶えた。




