第六十話 それでも地球は回っている それでも頭は回らない
瑞希と天道の仲直りを協力することになってからは度々、休み時間に瑞希が教室へやって来て俺は呼び出されていた。
「相棒くん!桜は何か忙しそうなこと言ってた?」
だが最初の休み時間に俺は大恥をかいてしまった。
瑞希が休み時間に顔を出すと言ったせいで、てっきり俺を呼び出したのだとばかり思っていた。
「おーい!相棒くーん!聞こえてるかーい?」
そのせいで先ほどの授業はチャイムが鳴ってから教室に戻ったせいで、授業にギリギリ間に合わず遅刻をしてしまった。事情を知っている生徒からすればさらに恥ずかしいやつだと思われてしまったのだ。
「おい!おい!そこの君!人の話を聞きなさい!」
俺はこの先、あの教室で平穏な時間を過ごすことが出来るのだろうかーー
さっきの授業中はそんなことばかり考えていて、授業があまり頭に入ってこなかった。
「相棒パンチー!!」
「痛っ......」
気がつくと屋上前で、瑞希が平手で軽く俺の頬を叩いていた。
まぁ、叩いたと言うよりも手のひらを頬に合わせたくらいのことで全く痛くはなかったのだがーー
「ごめん!大丈夫?痛かった?」
痛いと言ったせいで、瑞希が少し心配しているようだ。
「う、うん。ちょっとね。今、虫歯があって触ると痛いんだ」
虫歯なんてないし、全く痛くはないのだがせっかく瑞希が心配しているので、今日恥ずかしい思いをした俺への慰めとして、労ってもらおうと思った。
「えっ、ほんとに!?ごめん!ごめんよー」
そう言いながら冷たい手のひらで優しく先ほど俺の頬に触れた部分を擦ってくれた。
俺は女の子に頬を触られた事もなければ手を繋いだ事もなかったため驚いたが、それよりも照れくさくなり後ろに一歩下がった。
頬から離れた手が行き場を失い、さ迷っているうちに俺は瑞希に言葉をかける。
「いいよ別に。そこまでしなくても」
「えっ、だって......私のせいで痛い思いさせちゃったから......」
この子は本当に表情が豊かである。
それとも、少し失敗したら落ち込む性格なのだろうか。
それを隠すために普段は明るく振る舞っているのか。隠すというよりも明るく振る舞うことで落ち込みやすい性格に打ち勝つようにしているのか。
まだまだ瑞希のことはどういう人物なのか分からないため彼女を傷付けないように接しなければいけないと思った。
「いや、大丈夫だよ!全然痛くないし!ほらこの通り!」
そう言って俺は先ほど瑞希に触れられた頬を自分の手でつまんでみた。
「ダメだよ!強がらないで!私に気を遣わなくていいから!」
そう言って俺の手を掴んで降ろす姿を見て、彼女は落ち込みやすい性格とかそういうのではないような気がした。
もっとシンプルに人の事をちゃんと考えてくれている、そんな優しい少女なのだと思った。
「ごめん、本当に大丈夫だよ!実はさっきの虫歯ってのは嘘だから」
流石に申し訳なくなり、少し笑いながら本当の事を瑞希に伝える。
「ほんと......?」
瑞希が恐る恐る聞いてくる。
「うん、本当だよ。全然痛くない!」
正直、そこまで心配してくれるとは思ってもみなかったので、先ほどのことは嘘だったと真実を納得してもらえるように話す。
すると、瑞希は急に俺の頬をつまんだ。
「痛たっ......」
今度は虫歯ではなく、普通につままれて痛いので、素直に痛いと言った。
「もぉー!!ひどいよ!本気で心配したじゃん!」
こちらを見ながら頬を膨らませて怒っている瑞希が、全くと言っていいほど怖くなくて、むしろ可愛いとさえ思ってしまった。
「ごめんごめん!ほんとに!ちゃんと協力するから許して!」
そう言うと彼女は俺の頬からゆっくりと手を離してこう言った。
「じゃあ、放課後までに絶対桜と会話して!習い事の話聞いてきて!約束ねっ!」
「あっ、おい!ちょっと!」
瑞希は俺の返答を待たずにして笑顔で自分の教室に帰っていった。
人が来ない屋上の扉前で話していたため、誰も居なくなった直後に俺は自分の頬を触ってみた。
俺は鏡を見ずとも分かるくらいににやけていた。
今日の恥ずかしさを覆す程の優しさをもらったので、教室へと帰っても穏やかな気持ちで放課後まで過ごせると確信していた。
そうこうしていると、チャイムが鳴ったので急いで教室へと戻った。
意外にも教室まで距離があったため、もちろんチャイムが鳴ってから教室へ戻った所で間に合うはずもなく、二時間連続で遅刻してしまったことはこの際どうでも良いくらいの余韻で二時間目以降も授業を受けたのである。
一時間目とは違う理由で授業が頭に入ってこなかったのだがーー




