第五十九話 作戦を立てる作戦を実行する その作戦が失敗すると作戦自体が行われない
瑞希と天道の仲直りを協力することになった俺は特に変わった事もなく翌日からも登校する。
校門の前まで着いた頃であったーー
「ちょい!ちょい!」
女の子の声がするのでふと声のする方へ見てみると、そこには手招きしている瑞希の姿があった。
「あっ、河合さん。どうしたんだ?」
「おはよう、相棒くん。今日からよろしくね」
そう言って笑顔で挨拶されたのが、天道に挨拶されて以来の久しぶりの出来事だったので、驚きと嬉しさが込み上げる。
「あっ、うん。おはよう。よろしく」
照れくささもあり少し素っ気なく返す。
「でね、早速なんだけど、今日は桜の会話を聞いてて欲しいの」
「え、なんで?」
「それはね、本当に桜が忙しいのかを見極めるため」
なるほど。瑞希はまだ桜が忙しいと言ったのは自分を遠ざけるためだと思っているのか。
「でも、あまり人の話を盗み聞きするのは良くないと思うけど」
「席が近ければ自然と聞こえてくるじゃない?」
確かに隣の席なら聞こうとしなくても聞こえてくる。それで嫌な思いをしたこともあった。
「そうだね。でも俺と天道は席が離れているからな」
盗み聞きがバレた時の事を考えて嘘をついてみる。
「......」
瑞希が俺の顔を無言で覗いてくる。
「ん......?どうしたんだ?」
その問いかけに応える気もなくさらに俺の顔を怪奇な物を見るような表情で見つめてきた。
「なんだよ......」
俺は見つめられていることに少し照れくさくなり、嘘をついた後ろめたさもあり顔を背ける。
「どれくらい離れてるの?」
「えーっと、それはもうめっちゃ」
相変わらずこちらを見つめてくる瑞希の方を俺は見向きもせずに答える。
「ふ~ん、そうなんだぁ......」
少し落ち込んだ様子とも取れる言い方で納得してくれたみたいだ。
「うん......あっ、でもできる範囲で天道の会話聞いておくよ!」
とはいえ、嘘をついた事に罪悪感が芽生えたので、明るく瑞希のお願いに応えることにした。
「そっか!ありがとう!じゃあ、また休み時間にそっちに顔出すからよろしくねー!」
瑞希は急に笑顔になり、そう言って校舎に向かって走り始めた。
「お、おう。じゃあ......」
後ろに振り返って手を振っている瑞希にギリギリ聞こえるような声の大きさで別れを告げる。
瑞希がそれを聞いて再び校舎の方に体を向けて駆けていく。
ーーと思いきやいきなり振り返って、
「あっ、それと隣の席の女の子によろしくねー!」
とだけ言って校舎の中へ姿を消していった。
(隣の席の女の子......?天道のことか。って、瑞希のやつ俺が嘘をついていた事分かっていたのか)
俺は少し恥ずかしくなり、とぼとぼと教室へ向かった。
教室へ入ってもやはり天道と挨拶を交わすことなく授業が始まっていった。
そして、休憩時間になるとある女の子が教室へやって来た。
俺も休み時間に行くからと言われて、教室の後ろの開いた扉から廊下を見ていた事もあって、瑞希がやって来た所ですぐに目が合った。
瑞希が手を振っているので、俺は照れくさそうに軽く会釈をした。
待たせても悪いと思い、席から立ち上がり瑞希の方へ向かう。
と、その時ーー
俺の隣の席の女の子が立ち上がり、俺よりも先に廊下の方へ歩いていった。
その女の子が廊下の方へ行くとーー
「桜ー!!これ、ありがとう!ほんと助かったよー!」
瑞希が天道にそう言ってくっついている。
「はいはい。わかったから!みんな見てるからくっつくのはやめて」
天道はそのくっついてきている瑞希を手で離そうとしている。
気付けば、教室の生徒だけではなく廊下中の生徒が二人に注目している。
それだけこの二人は人気者だと言うのか。
かくいう俺も注目している生徒のうちの一人なのだがーー
「あっ、相棒くーん!元気ー?」
天道に離されそうにされながらも、くっついている瑞希が俺を見て手を振りながら挨拶をしてきた。
「あっ、うん。元気......かな?」
「何それ!元気なさそうー!あはは」
これだ。俺が知っている瑞希というのは今みたいな瑞希なのだ。
やはり天道と一緒に居るのが瑞希にとっての一番の心の拠り所なのだろうか。
そんなことを思いながら二人を見ていた。
するとーー
「そういえば、さっき高山くん瑞希に会釈してなかった?」
天道が俺に対して話しかけてきたと思ったら、まさか先ほどの勘違いを見られていたとはーー
「えー!どうして私に会釈してたのー?」
瑞希は真剣に疑問を抱いている様子で聞いてくる。
がーー天道は意地悪そうな表情で口元が少し緩んでいた。この女は分かってて俺をからかっているに違いない。
そう思ったので、強気で返してみることにした。
「ちっ、違うよ。首が......なんというか、座ってたみたいな?」
人からみた強気とは程遠いが、自分の中では強気に言えた方だ。
そのせいか、その言葉一つで二人は沈黙していた。
「......」
これはもしかして気まずい雰囲気というやつか。沈黙というのは気まずい沈黙しか知らないので俺は焦り、現状の打開策を一秒も無駄にすることなく脳をフル回転する勢いで思考する。
だが、もちろん考え付くはずもなく、辺りの景色は自分の思考とは関係のない所で進行していた。
「あははははは!!」
「ちょっと、何言ってるの?あなた赤ちゃんなの?」
二人の笑い声で正気に戻る。
何故笑っているのか分からないでいるが、二人だけでなく周りの生徒も少し笑っている。
「ねぇ、さっきの聞いた?超うけるー!」
「あいつバカじゃん!」
色んな言葉が聞こえてきたが、恐らく俺に対してだろう。俺は二人に問いかける。
「どこがそんなに面白かったんだ?」
すると返事はすぐに返ってきた。
「あなた本気でそう言ってるの?」
天道に続いて瑞希が教えてくれた。
「首が座るって、赤ちゃんとかに使う言葉じゃない?大人は普通使わないと思うよー!でも、面白かった。あはは」
そういうことかーー。俺は勘違いで会釈したことがこの上なく恥ずかしく思い、どうしても言い訳をしたい一心で言葉を考えたのだが、そのせいで余計に恥ずかしい思いをしてしまったようだ。
俺はいてもたっても居られなくなり、トイレへと小走りで向かった。
声が聞こえる範囲の限界までは俺の耳は確かに活動していたので、俺がその場を離れた後の天道の声だけは聞こえた。
「瑞希が私に手を振ってたのを勘違いして会釈したのが恥ずかしくて、もっと恥ずかしい言い訳をしてしまったのかしら」
彼女は肝が据わっているようだ。




