第五十六話 嫌な予感は大体当たる 当たったことだけを覚えている
結局、そのあと二人は別々に集中して作業を進めて俺は座席表が出来た所で一枚印刷をして終わった。
瑞希はというとーー
相方の三島が作ったページの余白の部分に絵を描いたりイラストを入れる作業をしていた。
俺が終わった事を伝えると、先に帰っていいと言われたのである。待っていようかと言ったところ、鍵も返さなくちゃいけないし、もう少し残って作業しようと思うからいいよと言われたのでその日は帰ることにした。
今日は色々あったので、心も体も疲れていた。そして、ぐっすり寝ることが出来たのだ。
週明けの月曜日ーー
土日とも何故だか、ずっと何もする気が起きなくてだらだらと寝ているだけで貴重な休みの日が過ぎていったのだ。
後悔をしてももう遅い。月曜日の朝に後悔したところで後悔で終わるだけだ。
ただ寝不足とは縁遠い週始めなので、問題はない。
いつも通り登校し着席する。
隣には天道の姿があったが、挨拶はしてこなかった。
こちらもチャンスを伺ってはいたが、結局挨拶出来ずじまいであった。
その後も話すことはなく放課後まで過ぎていった。
途中、瑞希が教室にやってきて天道を呼び出していたが、何を話していたのかすぐに天道は自分の席へ帰ってきて周りの女子と話していた。
放課後になり、俺は金曜日の天道が帰ったあれからの作業進行具合を自信を持って報告しようとしていた。
「天道さん!あの、これ座席表。出来たから」
天道とはこの間、怒らせてしまったために謝らなければならない。そのためにまずは作業報告をして話すチャンスを作る事にした。
「ありがとう」
そう言って、座席表を印刷したプリントを受け取る。
最悪の場合を想定していたのだが、とりあえずは口を聞いてくれるようだ。
「どう?」
恐る恐る天道に問いかける。
「ちゃんと出来てるわね」
一応は自信はあったのだが、いざ褒められると嬉しいものである。
「あっ、ありがとう。天道も忙しいだろうからあの後、自分なりにやってみたんだ!分からない所は河合さんに聞いたりして」
「そう。良かったわね。親切な人が居てくれて」
こちらを一切見ずにそう言って座席表を返してきた。
そこでふとこの間、三島が言っていた事を思い出す。天道より他の人と委員長になりたかったというような発言が彼女を怒らせた可能性は確かに高い。なので、天道と委員長になって良かった事を伝えれば良いのだ。
「あ、うん。でも、天道が居なかったから大変だったよ!俺、文字打つの遅いからさ、時間かかっちゃって......」
返してくれた座席表を受け取りながら返答する。
「あらそう。私も打つのそんなに速くないわよ」
思っていた答えと違い、急いで次の事を言う。
「あー、そうなんだ......。でも俺、クラスの人ほとんど名前知らないしさ、天道の方が知ってる人多いだろうから、その分速く打てると思うよ」
焦りながら笑っている事が伝わるか、笑いながら焦っている事が伝わるか、そんな話し方で話す。
「名前が分かってても結局、座席順の紙見ないと座席表作れないし」
とっておきの必殺技をいとも簡単に交わされた、そんな気持ちになった。
「あれー?そうなのかなー?あはは。ていうか今日はどうするー?またパソコン室行く?」
これ以上、同じ話題は逆効果になる気がしてとりあえず作業に入ろうと思ったのだ。
「そのことなんだけど」
天道からの返答は今まで用意をしていた意見を述べる時に使われる言葉で始まり、それはあまり良い話ではないような気がした。
「ん?」
「これからは分担作業にしない?」
やはり想像通り良くない提案がきた。
「え、どうして?」
俺は急な提案により焦りながら問いかける。
「手書きとパソコンで作業も分かれるし、パソコン作業も一人でやるものだし、二人居ても意味がないと思うの。それよりか手書きとパソコンで分かれてそれぞれ作業した方が効率も二倍でしょ?」
確かに、この前の座席表を作っていた時に俺一人で打ち込んでいたが、同じパソコンに二人が作業することは出来ない。
「だったら、パソコン二台使ってそれぞれ違う表を作ったら?」
俺はその場で考えついた新しい提案をしてみる。
「でも、あなたは手書きのものよりかはパソコンで制作する方が向いてるでしょ?それならあなたが表作成を担当した方が良いと思うの。私は手書きの部分を担当するわ」
確かに手書きは絵も描けないし文字もそんなに上手ではない。天道の方がどちらも上手い。
「まぁ、そうだけど......」
「それなら決まりね。私も色々と忙しいからこれからこうやって学校に残ることも出来なくなるだろうし、別々の作業なら家で時間がある時に出来るし」
天道に忙しいと言われるとその時点でもう反論は出来ない。
「うーん、まぁ、仕方ないか......」
渋々承諾せざるを得えない状況であった。
「とりあえず何か困った事があったら鑑野先生に聞いたらいいわ。作業の進行具合は学校の放課後に毎日報告し合う。それでいい?」
「うん。わかった」
これが断る隙を与えない高等テクニックなのか。何か見えない力が働いていて全く断れなかったのだ。
「じゃあ、今日は私は持ち物のページを書くからまた明日報告するわ。この後、用事があるから終わってから家で時間ある時にするから。それじゃあ、さようなら」
「あっ、うん。じゃあ......」
天道は俺の挨拶を聞きながら鞄を手に取りそそくさと教室から去っていった。
結局、その日は天道に謝ることが出来なかった。




