第五十四話 人は過ちを繰り返すものである それは時に姿形を変えて
俺は、放課後にパソコン室でパソコンと向き合ってマウスを動かしている。
天道が先に帰ってしまい、俺だけでバスの座席表を作らなければいけなくなったのだ。
「相棒くん、ごめんね......?」
同じくパソコン室でしおり制作をしている隣のクラスの河合瑞希が話しかけてきた。
「いやっ、別に河合さんのせいじゃないよ」
俺は、天道が怒って帰った理由は自分のせいだと確信していた。
「いやっ、私が桜に変なこと言ったから......」
珍しく瑞希が落ち込んでいる。いつも明るい印象であったためそんな顔を見ていられないと思った。
「いや、その前に教室で俺がちょっと怒らせちゃったんだ。それが原因だと思う。てか、ここに来るまで無言で来たし」
俺は出来るだけ瑞希に落ち込んで欲しくないと思い、瑞希のせいではないことを伝える。
「そうなのかな......?私が余計な事を言ったからだと思うよ......」
と話す瑞希を見て、こんな瑞希は瑞希らしくないとまだ知り合って間もないにも関わらずそう思えてきてフォローの言葉をかける。
「河合さんは俺らのために言ってくれたんでしょ?だから何も悪くないよ。気を遣わせてしまってごめんね」
「ううん。大丈夫。相棒くんこそ大丈夫なの?」
こんなときでも人を心配する所、本当に優しい人なんだなと思う。
「俺は大丈夫だよ。とりあえず今日は俺一人でバスの座席表を完成させるよ。それで来週、天道に見せたら機嫌も直るだろ」
明日からの週末の休みで今日のことも少しは冷静になれるだろうし、とりあえずは今やるべき事だけを考えよう。そう思ったのだ。
「だと良いけれど......。桜はああ見えて頑固な所があるからねー。簡単に機嫌が直るとは思えないんだよねー」
先ほどよりかは少し明るさを取り戻したのか無理矢理明るく振る舞おうとしているのか、瑞希の笑顔が少しだけ戻った。
「あー、わかる!自分の気持ちを曲げない所とか!」
俺は瑞希が言っていた天道の頑固な所だと思う部分を挙げてみる。
するとーー
「そうそう!あと、一度決めた事は最後までやり抜く所とか!」
瑞希が乗り気で天道のことを話した。
「二人とも仲が良いんだな」
俺は今日の二人を見て、そして瑞希の話を聞いて素直にそう思った。
「うん!そうだよ!私も桜に相談に乗ってもらったりしてたし、思ったこと言えるのは桜くらいかなぁー」
天道の話をしている時の瑞希はとても楽しそうに見えた。
「そうなんだ。河合さんは色んな人と仲良いんだと思ってた」
「いや、まぁ仲良い人はたくさん居るんだけど、そこまでの仲かと聞かれたらそこまでじゃないというか......」
そう言うが、平気で仲良い人はたくさん居ると言える時点で俺からしてみれば羨ましい限りである。
「そうなんだね」
と返してマウスをカチカチクリックしている俺の方に瑞希がやってきた。
「何してんの?」
瑞希が俺のパソコンのディスプレイを覗き込んでいる。
俺は急に顔が近くなり驚くと同時に、ショートヘアの黒髪が綺麗であると同時にほのかに香るシャンプーの良い匂いがすると同時に俺の脳が同時に処理できる情報量を超えてしまった。
「何もしていないです」
顔が近くなりドキッとして、綺麗な黒髪に見とれて、シャンプーの良い香りを嗅いでいたことに後ろめたさを感じ、何をしているかの返答をそういう意味で何もしていないと答えてしまった。
「え、ダメじゃん!一人で座席表作るんでしょ?ちゃんと作業しないと!」
瑞希のその言葉で我に返る。
「あー、そうそう!そうなんだよ!ここに表を作りたいんだけど、表ってどうやって現れるんだ?」
作業についての分からない事があったので、瑞希に聞いてみる。
「あー、これはね、この上のメニューの所に表って所があるからそれをクリックして......」
親身になって教えてくれるのは本当にありがたい。やはりこの人と委員長になった方が良かったのかも。とまたそんな感情を抱いてしまった。
「あっ、できた!!ありがとう!」
ずっと一人で出来なかった事が出来たので、つい少しはしゃぐように喜んでしまった。
「いえいえ、どういたしまして」
微笑みながらペコリとお辞儀をする瑞希は自分の使っているパソコンの前へと戻っていった。
これで表を作ることが出来たので、次はその表の中に名前を打ち込む作業だ。
去年は確か一班から順に右前から座っていた気がするので、今回もその順で後は班の中で決めた座席順の紙を見ながら打ち込む。
ということで、早速一班から名前を打ち込み始めた所であった。
「そういう所じゃない?」
今まで一言も喋っていなかった瑞希の相方のもう一人の委員長が口を開いた。
「えっ?どういうこと?」
瑞希が隣の相方に聞く。
「だから、あんたら二人の今みたいなやり取りが天道さんを怒らしたんじゃないかって」
「何か私たち変な事言ってたかな?」
そう聞き返す瑞希に対して相方は、
「分からないんだったらいいよ」
とだけ、少し素っ気なく返した。
「三島くんは分かるの?」
「いや、普通に自分より他の人と委員長が良かったって言われて嫌な気持ちにならない人って居る?」
瑞希の質問に相方の三島とやらが返す。
「うっ、うん......。確かにそうだね」
「いや、それは俺が言ったことだから俺の責任だよ」
瑞希の顔から再び笑顔がなくなりつつあったので、すかさず俺が割って入る。
「それはそうだけど、河合さんも心なしか乗り気だったし、あと天道さんが言われたくないことを平気でみんなの前で言ったりするのもどうかと思うけどね」
「いやっ、それは......」
瑞希の表情がみるみる泣きそうな顔になっていく。
「河合さんはそういうつもりで言ったんじゃないだろ。少しは河合さんの気持ちも考えろよ!」
俺は今まで話したこともなければ名前も知らなかった相手に少し苛立ちを覚えて、つい叫んでしまった。
「いやー、別に俺は二人に対して怒らせるつもりはなかったんだけどね。余計なお世話だったかな?謝るよ。ごめん」
そう言って、鞄を手に取り立ち上がった。
「今日はもう目次と集合場所と持ち物とスケジュールと休憩場所の地図まで出来たから帰ってもいいかな?」
「あっ、うん......いいよ。ありがとう。お疲れさま」
三島に帰ってもいいかを聞かれて慌てて返事をする瑞希。
そうして、三島もパソコン室を去っていく。
帰り際の扉を開ける前にこちらを振り向かずに一言だけ言ってきた。
「天道さんの気持ちはどうなるんだろな」
その言葉だけを残してーー




