第五十三話 縮んだ距離と開いた距離 どちらも同じ距離だが違う
パソコン室で座席表を作ることになった俺と天道は、先にパソコン室を使っていた河合瑞希達と隣に座り、作業をすることとなった。
「桜もパソコン使うんだね!」
「えぇ。バスの座席表を作ろうと思って。瑞希はパソコンで何を作るの?」
「私たちは今は目次を作ってるの!昨日、表紙が出来たからねー」
この二人の会話は見ているだけで別世界に来たような感覚になり、天界にでも来てしまったのかと思う程の特別な存在感である。
まるで天使と天使が会話をしているようなそんな感覚ーー
「......ねぇ、ちょっと聞いてる!?」
二人の会話に見とれていた間に天道から話しかけられていたことに気付く。
「えっ、あっ、うん......ん?」
天道はため息を漏らしながら俺に対して、
「だからー、あなたの書いた表紙を見せてって言ってるの!しっかりしてよ!」
と、呆れた様子で少し怒りながら話す。
それを見て瑞希が、
「あはは!相変わらず二人は仲良いね!」
と、笑いながら言ってきた。
「どこがよ!全然仲良くないでしょ!」
天道がそう言い返すのだが、瑞希はにっこりとして何かを悟っているようにゆっくり頷いていた。
「私たちのはこんな感じだよ!」
俺が頼まれていた表紙を鞄の中から取り出す間に、瑞希たちのパソコンのディスプレイに映し出されたクラスのしおりの表紙を見せてもらう。
「えー、綺麗ー!可愛いー。とても良い出来だね!」
天道はそれを見て純粋に誉めているようであった。
そこには、『にねんよんくみ』の下に『えんそく』と書かれていて、その周りには可愛らしい子どもやお花の絵があり、まるで小学生低学年のしおりをイメージした表紙であった。
俺は驚愕した。
ここまでのクオリティというのは、発想力とそれを形にする力がないと出来ない。
ましてや、高二の遠足のしおりに小二くらいの遠足のしおりをあえて作るというセンスに素直に感銘を受けた。
そして、その後にとても見せづらい俺の手書きの表紙を鞄から取り出した。
すると、それを見て瑞希はーー
「あはは。なにそれ!でかすぎー!ちょー面白い!あははは」
俺の書いた『二年三組遠足』という文字を見ただけでこんなにもばか笑いが起こるのなら世の中のお笑い芸人は苦労しないはずなのだがーー
「ほんっとに!瑞希の所と違って、うちはこういうおバカさんが居るから作業が捗らないのよねー」
さっき教室に居るときはそこまで言われなかったのだが、瑞希のクラスのしおりを見てからか、教室で怒らせてしまったからなのか、急に罵られて少し落ち込んでしまい俯いた。
「でもそういう発想は良いと思うよ?私そういうの結構好きだよ?」
顔をあげると、瑞希がそう言いながら俺に笑顔を向けている。俺は瑞希のそういうところが良いなと思った。
「ありがとう。河合さんと委員長だったら俺の発想力も活かせたかも」
瑞希に対してお礼の気持ちで言ったその言葉が後に大変なことになるということに気付けないでいた。
「そうかもね!でも、桜もすごいよぉー?私よりも賢いし、器用だし!そのうち桜の方が良いって思うかもよ?」
「そうかなぁー?なんか怒られてばっかで俺らはあんまり相性良くないのかも」
俺が瑞希のことを気を許したのか、意外にも俺と瑞希の会話が続いた。
「えー!仲良さそうだったよ?桜があんなに私以外の人に感情を出すとこって見たことなかったしさ!」
やはり天道は他の人には俺と瑞希みたいな態度ではないらしい。
「ちょっと瑞希やめて」
天道は嫌そうな表情でそう言った。
「えー、どうしてー?桜も高山くんと相性良いって思ってたりするんじゃない?こうやって素直に気持ちを伝え......」
「やめてって言ってるでしょ!!!!」
パソコン室に大きな声が響き渡る。
隣に居た俺はビクっとなり、瑞希の顔からは先ほどの笑顔は消えていた。
辺りは沈黙に包まれる。
心臓の脈を打つ音だけが教室を支配しているような不思議な感覚になった。
天道が今どんな顔をしているのかを俺は怖くて見ることが出来なかった。
そして沈黙は破かれるーー
「ごめんなさい。今日は帰るわ」
「ちょ、ちょっと桜ー!!」
瑞希の呼び止めにも応じず、天道は鞄を手にとって急ぎ足でパソコン室を出た。
気まずい空間だけを残してーー




