第四十話 答えは一つ 考えは二つ
俺は天道が次に何を口にするのか大体の検討はついていた。
これまでに様々な罵倒を受けてきたため、覚悟もしている。
「ちょっと、あんた!」
時は来た。いざ、この時が来たとなると覚悟はしていても心臓には悪い。
それに今回は少し声が大きいようにも聞こえた。これは俺の答えが大間違いであったようだ。
「分かってるじゃない」
「へっ?」
予想している言葉とは全くの正反対の言葉が返ってきて驚いてしまった。
「そうなのよー!あの先生すごくムカつくんだもの」
天道はいつの間にか強ばった表情では無くなっていて、緩んだ表情を見せていた。
どうやら、俺の予想の方が大間違いだったらしい。
「高山くんもやっぱりそう思ったでしょ?」
いつぶりだろうか。急に名前で呼ばれた事にうろたえてしまう。
「え、あっ、はい......」
自分の返事さえも名前で呼ばれていた頃の敬語に戻ってしまった。
「あの先生ね、いつもそうなの。人がやることに何でもけちをつける感じ?嫌なのよね、ああいうの」
なんだか、天道が俺以外の悪口を言っているのが初めてのようで新鮮であった。
「まぁ、たまにそういう人居るよな。俺も苦手なタイプだわ」
俺もすかさず同調して天道の話に乗っかる。
「でしょー!こっちは一生懸命やってるのに、横から嫌味たらしく。あと、言い方とかも嫌なのよねー」
俺は少し驚いていた。こんなに天道が自ら自分の気持ちを打ち明けるなんてーー
「あー、わかる。普通に言えば良いものを何でそんな言い方するかなって思う時あるわ」
と、さらに同調をするが、これは確かに俺も経験がある。まぁ、俺の場合は普通に陰口を言われるか、あえて聞こえるかのように陰口を言われるかという人とは違うものなのだが。
「そうそう!こっちの気持ちとか何も考えないで言ってるのよきっと。まぁ、普通の言い方でもムカつくものはムカつくんだけどね」
と、笑いながら天道は言った。
またもや久しぶりの天道であった。
クラスの連中と話してる時にたまに見かけはするが、こうして二人で話してる時に笑っている姿は久しぶりであった。
俺に対しての笑顔は掃除の時以来であり、ノートが発覚してからは初めて笑った気がする。
「まぁ、そういう人はそもそも人の気持ちを考えないからそうなるのかもな」
天道と打ち解けた気になって、少し調子に乗った俺はさらに同調する。
「きっとそうね。そういう人と一緒に居ると疲れるのよね。こっちだけ気を使ってるのが馬鹿みたい」
僅かながら笑みを浮かべて、少し困った様な表情をしてそう言った。
そんな天道を見ると、こんなにも彼女が表情豊かであった事を知る。
「天道も色々と大変なんだな......」
そう心の中で思っていたため、本音を呟く。
「大変よ!とても!でも、誰も分かってくれないからね......」
そう言うと、先程とは違って少し寂しげな表情を見せる。
「まぁ、いつもの天道を見ていると大変な事でも余裕でこなしてるように見えるからな」
恐らく、大抵の人間が天道の事はそういう風に映るだろう。
「余裕なんかじゃないわよ......」
そう言う彼女の方を見ると、俯いていて、いつか見たことのあるひ弱な天道になっていた。
「まぁ、それくらい天道が頑張ってるって事なんじゃないか」
と、俺が言った直後に彼女はこちらを向いた。
「ありがとう。そんな風に言ってくれる人、今まで誰も居なかったわ」
突然の感謝に驚いたが、何とか平然を装い話を続ける。
「そうだったんだな。まぁ、俺もそんな風に感謝してくれる人今までに居なかったな」
と、冗談混じりに返す。
「あはは。高山くんってやっぱり面白いね。あと、案外良い人ね」
笑いながら天道は言う。俺はいつものご機嫌ななめな天道と、今の天使のように笑う天道のどちらが本当の天道なのか分からなくなっていた。
「今更分かったのかよ。遅いな。まぁ、でも天道も十分良い人だよ」
俺は天道に褒められたことによって、自分でも分かる程に、にやけ面でそう言った。
「はぁー?何言ってんの?調子乗りすぎ。何が天道も十分良い人よ。当たり前でしょ?あんたよりもよっぽど良い人よ」
そこには、いつもの?ご機嫌ななめな天道が居た。久しぶりに感じるこの罵倒でようやく目が覚めた。
「あっ、はい。すみません......。その通りです」
せっかく今まで良い感じに話せていたのに最後の最後に結局、いつもの感じに戻ってしまった。
「あはは。でも、今日は話を聞いてくれてありがと!それじゃあ、また明日ね!」
そう言って、最後は天使の天道に戻って笑顔で別れを告げ、俺が挨拶を返す前に教室から出ていった。
きっと、あれは天界へ帰る時間が来たので急いで天界へ帰ったのだろう。
天使とやらも大変なのだな。




