第三十九話 至れり尽くせり 語れり尽くせり
彼女は始業式から二日目のノートに書けなかった日の事を思い出しながら丁寧に語ってくれた。
そうーーあれはちょうど俺が一日中居眠りをしてしまい、委員長にもなってしまった日のことである。
放課後、居残りで鑑野先生に呼ばれてプリントを教室に運んでから、誰も居ない教室で委員長になる宣言をして帰ったのであった。
その頃、天道はというとーー
どうやら家に帰っていたらしい。
俺と同じく委員長となった学内で人気の天道桜は、
友達と一緒に帰えることもなく、身支度を済ませて教室を後にしていた。
もちろん、寄り道をすることもなく真っ直ぐ家に帰り、習い事の準備をする。
「えっと、今日は華道かぁ......」
そう呟き、ゆっくりする間もなく習い事が始まる。
床の間に行くと母親よりも年上であろういつものお堅い女の先生が出迎えてくれた。
「お帰りなさい。さぁ、はやく始めますわよ」
そう言って雑談をすることもなくレッスンが始まる。
華道とは生け花とも呼び、色んな流派があり伝統がある。
その伝統を守り続け、時代とともに色んな文化を取り入れ発展してきた。
最近では、海外のフラワーアレンジメントを取り入れたスタイルも広まっているらしい。
そして、レッスンが始まりお花と向き合っている時は真剣になる。
「生け花とは観賞者に向けたものです。それを忘れずに生けて下さい」
「はい」
必要最低限の会話だけに済ませ、レッスンに集中する。
「あらっ、桜さん。お花が浮いてますわよ」
お花を生けるときにお花が動いたり浮いたりすることがある。そういう時は根元に竹串を刺して瓶の内側にかける方法がある。
「竹串を使うのですか。そうですか。あまりおすすめはしたくないのですがね」
観賞者に向けたものだから、観賞者に見えないようにすれば良い。だが、この先生は見えないようにしようとも人工物を使う事を好まない。
「お花は生き物です。自然な生け花を意識して下さい」
「はい......」
自信の無さそうな声で天道は返事をする。
それからも先生の指導がたまに入ることがあったが、なんとか綺麗に生ける事ができた。
「はいっ、では本日はここまでにします」
天道はホッと一息つく前に挨拶をする。
「ありがとうございました」
そうして、その日も無事にレッスンを終えることができた。
(はぁ......今日も疲れたなぁ)
自分の部屋に戻り、ようやくホッと一息つく。
(今日はまだ学校が始まって二日目だし復習しなくても良いから少し時間があるし何しようかな)
「そうだ!日記でも書こっと!」
そう呟き夕食までの間、少し時間が出来たので日記を書こうとする。
がさがさと、鞄の中から日記を探す。
「う~ん、あれー?ないなぁ」
鞄の中のノートを一冊一冊探してみるが、見つからない。
(しまった。教室の机の中に置いてきたんだ)
そう思い、日記を書くのは諦めて部屋でゆっくりしながら今日の出来事を思い返す。
(そういや今日私、委員決めで結局委員長になったんだった)
去年は、図書委員であった天道は去年の委員長の仕事っぷりを見て不安になっていた。
(あと、私の隣の席の男の子......たしか高山くんだっけ?あの子寝てたから勝手に委員長にされてたけど大丈夫なのかな?)
同時に一緒に委員長になった人物に対しても不安を抱える天道であった。
心配事を背に夕食に呼ばれその日一日を終えるーー
とまぁ、天道から聞かされたその日の出来事というのが、だいたいはわかった。
途中、華道について詳しくない俺のために補足説明をしながら話してくれたので、すんなりと理解する事ができた。
「これでおしまいよ」
そう言うと天道は何かを待っているような眼差しを俺に向ける。
「なるほどね」
話を聞いて理解した事を相槌によって伝える。
「で、どう思った?」
天道はどうやら俺に感想を求めているらしい。
「まぁ、天道も色々と大変なんだな」
こういう時は、適当に同調しておけば良いものだと長年の経験で学んでいた。
「どうしてそう思ったの?」
やはり天道は痛いところをついてくる。これは明確な発言を促されているため、正しい答えなのか間違った答えなのかがはっきりと分かってしまう。そして、間違えた場合は散々罵倒されるという結末が目に見えている。
俺は一か八かの賭けに出た。
「えっと、その......習い事をしてるのが大変......」
と、言った所で天道の方を見ると彼女は俺に対して睨んでいるかのような目つきであった事に気付く。
急いで言葉を見繕う。
「あと、その華道の先生が少し厳しいかな?」
ーーしまった。下手に専門分野の話題をするのは避けた方が良かったかもしれない。と、言い終わった直後に次々と考えが思い浮かぶ。
(もしかしたら、俺と委員長になった事が大変なのでは......。いや、絶対それだ)
今更、答えが分かった所で後の祭りである。
天道は立ち上がり俺の方へと近付いてくる。
そして、重たい口を開いた。




