第三十八話 振り返ればそこには君がいる 振り返らなければそこには誰もいない
天道にノートを閉じるよう言われた俺は、疑問を抱きながら言われた通りノートを閉じる。
「あなたがノートを拾ったのはいつだったか覚えてる?」
天道からそんな質問をされて、思い出そうとする。
「たしか、四月の六日だったけな。始業式の日の放課後だったから」
俺は間違っていたら罰でもあるのか。なんて思いながら恐る恐る答える。
「そう。正解よ。私がノートを書けなかったのがその次の日だったから」
とりあえず、正解したことにホッとする。
「その日は、朝にノートを書いたからその後は疲れてたし書かなかったの」
朝からノートに愚痴を吐き出すなんて、このお方はそれほどまでに不満が溜まっているのだろうか。
「だから、ノートを手に取ってないから無くした事に気付かなかったの」
「じゃあ、天道はいつ気付いたんだ?」
そうだ。そうなると天道はノートを無くした事にいつ気付いたのだろう。
「始業式から三日目の八日よ」
三日目。確かその時くらいから天道は辺りをキョロキョロしてみたり、体育の時間の前に挙動不審な行動をしていたり様子がおかしかったなと、思い出す。
「あー、そういえば体育の時に怪しい行動してたな」
と、言うと天道は少し恥ずかしそうに、
「やっぱり全部見てたんだ」と、言う。
「あぁ、それにクラスの人に落とし物してないかとか聞いてただろ?」
「え、そこまで聞いてたの?気持ち悪い。てか、怖い......」
何故か罵られ、怖がられてしまった。が、そんなことは慣れっこだ。
むしろ久しぶりに罵られて、勘を取り戻したまである。
「悪いな。気持ち悪くて。それで、その日の放課後の掃除の時間に俺がノートを持ってる事を知ったってわけか」
「えぇ、そうね」
彼女は真剣な表情で、ノートを見つめながら返事をした。
「なるほど」
と、俺の相槌の直後に間髪入れずに彼女がこう質問してきた。
「どういうことか分かる?」
正直、全く分からない。
質問の答えも質問の意図も全てがわからない難問を叩きつけられたので、黙りこくるしかなかった。
「ねぇ、聞いてるの?」
少し不機嫌に彼女は問いを急かす。
「いや、聞いてるけど、どういうことかは分からん」
そう答えるとーー
「やっぱり馬鹿ね。普通は分かるでしょ」
やっぱり罵られたのである。もしや、こうやって俺を罵りたいがために意地悪な質問をしているのではないだろうか。そう思えてきたので、こちらも少し意地悪で仕返してみることにした。
「俺に悪口を言いたいだけなら帰るぞー」
と、言って鞄を手に取った。
「ちょっと待って!」
彼女はすかさず俺を止める。
鞄を置き、彼女の方に振り返る。
「何、勝手に帰ろうとしてんのよ!話はまだ終わってないでしょ?」
強気な口調で言ってはいるものの、少し慌てた様子で話しているようである。
「だって、ノートになるとは言ったけど、ノートとは関係なく、ただ悪口を言われてるだけだったから」
そう言うと彼女はーー
「違うわよ!落とした日と返してもらった日の間の日がノートに書けなかったのよ!」
と、彼女は少し取り乱したような口調で言う。
まぁいつも思うが、最初からそう言ってくれれば良かったのにーー
「なるほどな。要は、始業式から二日目の日のノートは書けなかったってことか」
状況を飲み込み、理解したことを伝える。
「そうよ。もっと早く分かりなさいよ」
確かにもっと早く理解する事は出来たかもしれないが、あの意地悪な質問は悪意しかないだろう。それはひとまず置いておいてーー
「で、その二日目の出来事をノートに書きたいのか?」
天道の要望をこちらがいち早く汲み取って話を円滑に進めようと試みる。
「はぁー?違うわよ。そんな面倒くさいことしないわよ」
(いやいやいや、あなたがいつもしていることはその面倒くさいことですよ?)
と、心の中で突っ込みを入れてみる。
「じゃあ、どうするんだ?」
何をするか分からずに恐怖と不安だらけの俺は頑張って平然を装い質問する。
「私の目の前にノートがあるでしょ」
一瞬、理解が追いつかなかったが、ここで『ノートになって』とお願いされたことを思い出す。
「はっ?俺のこと?」
いつも通りの間抜けな声が出てしまう。
「そうよ。あなたしか居ないでしょ」
天道はそういうが何をすれば良いのか分からない。
「でも、一体何をすればいいんだ?」
「とりあえず、今からその日の事を言うわ」
彼女はそう言うと、丁寧にその日の事を振り返りながら語ってくれた。




