第三十五話 人生色々 人間色々
力強く俺の腕を掴んでいる天道は俺に、
「なに帰ろうとしてんのよ」
と、かなり怒っている表情でそう言った。
「ごめんごめん、ノート読んだからさ!もう良いのかなって」
あまり悪びれてなさそうな態度という事は自分でも気付いていた。
「良いわけないでしょ。バカなんじゃないの?」
何故、そんなに怒られているのかも分からずに分からない事だらけのまま会話を続ける。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
その問いに天道は強気で返す。
「だから!私のノートになって!」
その意味が分からないので、心の底の重りを外して振り絞った勇気で質問する。
「天道のノートになるってどういう事だよ」
天道は少しうつむき加減で、
「話を聞いて欲しいの」
ひ弱な天道に戻ったようだ。
「なんの話?」
「だから、このノートに書いてあるような事とか......」
ん?要するに愚痴を聞いて欲しいと?
「愚痴を聞いて欲しいのか?」
「まぁ、そんなもんかな......?」
(天道さんあなたは話し相手が欲しかったのですか、そうですか)
「それなら、他の仲良いやつらが居ただろ。わざわざ俺なんかじゃなくて、そいつらに頼めよ」
そうだ。天道の周りにはたくさんの人が居る。彼ら彼女らは天道の頼みなら恐らく聞いてくれるだろう。
「それは嫌」
こういう話は仲の良い人にはあえて話したくないという場合がある。そういうことなのだろうか。
「どうして?」と、聞いたらすぐに返事がきた。
「ノート読んだでしょ?」
そういえば、俺が仲が良いと思っていた連中のことは、天道は対して仲良くもない人達と、書かれていた。
「あの人らとは仲良くないってこと?」
「まぁ、仲良くないってこともないけど仲良いこともないわね」
そう返す天道に俺は思っている事を言う。
「でも、それって天道が勝手に思ってるだけで、向こうは仲良くしたいと思ってるんじゃない?」
天道は首を横に振ってから、
「それはないわ。まぁ、あなたに言っても分からないでしょうけど」
何故かバカにされたのでこちらも少し言い返す。
「どういう事だよ。俺だって分かるぞ。ていうか、俺の事をそんなにバカにするんなら他の人に頼めよ」
自分が思った以上に少し興奮し過ぎてしまったようで、声が大きくなってしまった。
天道は少し怯んだが、ひ弱な天道が返答する。
「あなたしか居ないのよ。それにノート見たでしょ?責任とってよ......」
急にか弱い少女のようなお願いをされると断る事ができないのは、何故だろう。
ノートを見た責任とやらも相まって俺は渋々承諾する。
「わかったよ。話聞くだけな」
天道は嬉しそうに、
「やった!それじゃ明日からよろしくね!」
と、言い鞄を手にとって教室を出ようとする。
「おっ、おい、ちょっと!」
俺の呼び掛けに応じたのか、彼女の意志なのか分からないが、教室を出る直前にこちらを振り返る。
「あっ、あとこの事は絶対に誰にも内緒ね!」
明るくそう言った彼女は、次に秒針が動く頃には教室から姿を消していた。
俺は呆けていた。しばらく席に座り先ほどの事を考える。
(俺は彼女の愚痴役を担ったのか?)
愚痴役と言っても、相談見たいなものだろう。
まぁ、めんどくさいことには変わりないが大変な事でもないだろうし、一年間同じ委員長として過ごしていくなら、それくらい話して当然なのかもしれない。
そう思うと、気が楽になり教室を出て家に帰った。
この時は、これから訪れる悲劇に全く気付くはずもなかった。
今思うと、何故ここで断らなかったのだろう。
何故、放課後に教室に残ってしまったのだろう。
何故、ノートを拾ったことを言ってしまったのだろう。
何故ーーノートを拾ってしまったのだろう。
全てが悔やまれるが、仕方がない。これが人生である。




