第三十三話 放課後の教室 放課前とは別の顔
静まり返った放課後の教室で、部活動と下校中の生徒の声が微かに聞こえる。
男女が二人っきりーー
このシチュエーションを既に何度も体験しているせいか、少しだけ慣れてきていた。
俺はとりあえず、鞄からノートを取り出し天道に渡す準備をした。
お互い席に座ったまま会話もなく、顔も合わせない。
その様子に、今朝のメモの『放課後教室に残ってて』は俺宛ではなかったのではないか。またもや、差出人が天道ではなかったのではないか。
そうも感じており、このノートを渡したら帰ろうと思った。
「あ、あのー、これノート」と、言いかけたその時ーー
「ノート」
と、天道がいきなり話してきたものだから、『ノート』の部分だけ声が重なった。
「へっ?」と、自分でノートのことについて言及しようとしたのにも関わらず、気の抜けた返事をする。
「今日のノート」
と、言って机の上にノートを出す。
正直、意味が分からなかったが今日のノートはしっかりと授業中に写したので、問題ないはずだ。
「いや、今日はちゃんとノートとってるよ」
と、伝えるが天道は、
「違う。このノート」
と、少し怒っているのか冷たい言い方で返してきた。
俺も勘違いしていたことに気付き、準備していたノートを渡す。
「あぁ、ごめん。これノート買ってきたから」
と、立ち上がり謝ってノートを天道に渡そうとする。
するとーー
「なにそれ。いらない。あんたこの前のこと忘れたの?」
ノートをはね除けられて怒られる。
というよりも、天道がこんな言葉遣いをしていることにも驚きである。
「え、この前ってノートを買ってって事だよね?」と、焦りながら言う俺に対して天道が少し苛立ちを覚え始めていた。
「はぁー?そんなこと言ってないでしょ。ノートになってくれるんでしょ?」
(やばい、めちゃくちゃ怒ってるぞこの人)
と、思うとさらに焦ってしまうわけだが、そんなことよりもやはり『ノートになって』が正解だったようだ。
「え、ノートになってってどういうこと?」
恐る恐る質問する。
俺のその言葉にため息をつきながら彼女はこう言う。
「だから~。まぁ、いいや。とりあえず、これ見て」
と、一冊のノートを手渡された。
このノートは......。
そうーー紛れもなくあの問題のノートであった。
「日常ノート......」呟く俺にすかさず天道は言う。
「そう。あんたが拾ったノートよ。とりあえず、今日のところを読んで」
と言われたのだが、読んでも良いものなのか?という疑問よりも目の前の天道の威圧感により、読まないという選択肢は微塵もなかった。
ノートを手に取り、ページをめくろうとするとーー
「ちょっと待って!!」と、ストップがかかる。
手を止め何事かと天道の方を見る。
「やっぱり、辞めとこうかな......?」
急にひ弱な天道になり、俺はどうしたらいいのか分からずに、
「わかった」とだけ言ってノートを返そうとした。
「ちょっと待って。やっぱり読んで」
と、二転三転する天道が少し可愛らしく思えてきて、先ほどの威圧感がなくなっていた。
「笑わない?」
真剣な表情で天道が俺に聞く。
「笑わないよ」とだけ答えて再び読もうとするとーー
「待って!心の準備が......」と、またもやストップがかかる。
「もう読むぞ」
痺れを切らした俺は半ば強引にノートを読もうとする。
「あっ、ちょっと!まっ......」
天道の制止を振り切ってノートを開く。
今日のところを読んでと言われたので、出来るだけ他のページは見ないように右からノートを開き、最新のページを探す。
天道は何か言いたげな表情をしていたがお構い無しにページをめくる。
ようやく、最新のページが現れた。
「ここか......読むぞ」
天道に確認を取ったが、天道は無言でうつむいて首を縦に振ったので、読み始める事にした。




