第三十二話 聞こえる声 聞こえない声
それは二時間目の出来事だった。
英語の時間だったので、教科書とノートを机に広げていたのだが、途中で辞書を使うことになったのだ。
俺は電子辞書は持っていなかったので、英和辞典を机の中から取り出した時の事だった。
(ん?)
パラっと小さな紙切れが辞書の上から机の上に落ちた。
二つに折り畳まれているその紙を開く。
するとそこにはーー
『放課後教室に残ってて』
とだけ紙に書かれていた。
一体、誰なんだろう?
と、思う暇もなく、手紙の差出人は検討がついた。
きっとあの人だろう。いやっ、間違いなくあの人だ。
何故、教室に残らなければいけないのか。もしや、買ってきたノートを渡して欲しいのか?
と、思い隣をチラっと見てみるが、隣の席の少女は前を向いて真剣に授業を受けている。
とりあえず、俺も授業を受けることにした。
そうして二時間目の授業も終わり、ノートが欲しいのなら今渡しておこうと、二時間目が終わった休憩時間に天道に話かけてみた。
「あのー、天道さん」
天道は俺が言葉を放った直後に、周りの女子と話し始めた。
(仕方がない、次の休み時間に渡そう)
と、思い直し、次の休み時間にも天道に声をかけた。
「天道さん、ちょっといい?」
その言葉が一瞬宙を舞い直後、天道はまたもや周りの女子と話し始めた。
(これはわざと俺との会話を避けているのか?)
俺は再び勇気が湧いてこないように心の底に重りを乗せた。
その後は授業も特に変わったことはなく、弁当も俺の大好きな唐揚げが入っていたので、気持ちが沈むこともなく、久しぶりに六時間目までまともに授業を受けることができたような気がした。
「それでは解散!」
鑑野先生のその合図によって、クラスの皆は散り散りに去っていく。
月曜日なのに放課後、遊びに行くような元気なやつもいれば、塾や習い事や部活のやつもいる。
はたまた俺みたいな何もすることのないやつもいる。
学校とはそういう人の集まりである。
十人十色という言葉を文字としてではなく、実体験として学ぶ場である。
俺も机の上の鞄を手に取って帰ろうと立ち上がる。
すると隣からーー
「コホンッ!コホンッ!」と、可愛くわざとらしく咳払いする声が聞こえた。
危うく忘れる所だった。『放課後教室に残ってて』という重大なミッションが残っていたことに。
今日があまりにも平凡に過ごせて平和に終わったというのと、天道に話しかけても無視されたことによって、今朝の例の紙の件を忘れる所だった。
一度立ち上がってしまったので、とりあえず机の中に忘れ物をしたかのような素振りをしながら再び椅子に座る。
そしてしばらくの間、放課後一人で教室で読書をしていると怪しまれるので、鞄を開けて鞄の中に本を入れてひっそりと読むことにした。
「じゃあ、またねー」
クラスの最後の一人が教室を後にした。
こうしていつも通り?放課後の教室の中で男女が二人っきりとなった。




