第三十話 食べ物のありがたみは素晴らしい 食べ物の恨みは恐ろしい
家族水入らずで晩御飯の鍋をつつく。
「そういや陵は新しいクラスに馴染めたのか?」
父親から学校の話をされる。
「うーん、まぁまぁかな」
正直、全く馴染めておりませんが。
「そうか。夏海はどうなんだ?」
俺の話はもう終わりかよ。と思い、鶏肉を口に運ぶ。やはり鍋は美味しい。
「馴染めたよ。もう友達もいっぱい出来たし、今日だってクラスの友達と遊んでた」
流石は夏海。俺と違って友達が多いだけのことはある。
「そうか。なら、良かったな」
「うん、私は心配要らないよ?誰かさんと違って」
そういうと、夏海が一瞬こちらを睨んだ気がした。
「夏海、ここに牡蠣浮いてるぞ?」
と、夏海の大好きな牡蠣を差し上げようとする。
だが、夏海はそっぽを向いて違う牡蠣を取った。
(そういえば、夏海ともトラブルがあったんだった)
完全に忘れていた俺はつい妹に優しさを出してしまい、それを拒否された悔しさで浮いていた牡蠣を取りまくった。
「んっっーー!!」
夏海は牡蠣を食べながら声にならない叫びをあげた。
「はいはい。まだあるから喧嘩しないの」
と、母親が白菜に隠れている牡蠣を夏海の器に入れてあげた。
夏海は喜んだ顔を見せたと思ったら、すぐさま俺を睨みそっぽを向いた。
(こりゃ、完全に嫌われてるな......)
少し前までは、俺の無実を証明するとかなんとか言っていたが、今は色んな事があってそんなことも馬鹿らしく思えてきた。
だが、どうやって仲直りすればいいのか分からない。
とりあえず、鍋の鶏肉を自分の器に入れまくった。
「んんっっー!!」
牡蠣を食べている夏海が叫び出した。
鍋を腹一杯食べて、晩御飯も終わったので風呂に入り、今度は昨日の事ではなく月曜日の事を考えた。
考えているうちに、昨日のことに対して一つの仮説が思い浮かんだ。
ノートになるって、もしや俺がノートに折り目をつけたから新しいノートを買うってこと?
『ノートになって』って『ノートを買って』って事か?
聞き間違えただけなのかもしれない。と思うととりあえず、心のもやが少し晴れた。
風呂も上がり自分の部屋で横になる。
その日は昨日の疲れもあってか、すぐに眠りに落ちた。
ーー翌朝は目覚めが良かった。
相変わらず、夏海は朝から出掛けていたので会うことはなかった。
俺はというとーー
久しぶりにゲームや漫画を思う存分楽しんでいた。
まぁ、久しぶりといっても先週まで春休みだったわけだが。
昼過ぎに小腹が空いたので、近所のコンビニにお菓子を買いに行くことにした。
歩いて数分で行ける範囲に何個かコンビニがあるが、今日は普段あまり行かない方のコンビニに行くことにした。
普段あまり通らない道ではあったが、昔はよく通っていたので少し懐かしい気持ちになった。
散り始めている桜とすれ違いながらコンビニに着き、中へ入る。
「いらっしゃいませー!」
休日のお昼過ぎだからか、元気の良いおばちゃんの店員さんから入店の挨拶を頂く。
(いらっしゃいました)と、心の中で呟きながら新商品のお菓子を物色する。
美味しそうなお菓子といつも買っているお菓子の二つを手に取り、ついでに面白い本はないかなと雑誌コーナーに立ち寄る。
読んでいる漫画の新刊が発売されていたが、持ち合わせが足りなくて諦めてレジに向かおうとした時であったーー
「高山くん......?」
後ろから女の子の声で名前を呼ばれたような気がした。
気になって後ろを振り返るとそこにはーー
宇治島実であろう女の子の姿があった。
「宇治島さん......?」
「うん。やっぱり高山くんだよね!」
彼女は笑顔でそう言うと、こちらに近付いてくる。
「そうだけど。どうしてここに?」
と、疑問をすぐに質問する。
「私の家、この辺なんだ!もしかして高山くんもこの辺なの?」
首をかしげ純粋な瞳で聞いてくる。
「うん、そうだよ。俺はあっちらへん」
と、言って指を指す。
「そうなんだ!なら西町なのね。私は北町なの。ってことは、隣の中学だったんだね」
と、心なしか嬉しそうにそう言う。
「そうなんだね」
なんと言って良いのか分からなくなり、他愛もない相づちで返す。
「うん。今日は何してたの?」
「えー、今日は......勉強とかかな?」
何故か一日中ゲームをして漫画を読んでいた事を言うのに抵抗があったので、咄嗟に嘘をついてしまった。
「へぇー、そうなの!高山くんって偉いね!私は今日はお菓子作りをしてたの。今はここでお菓子のレシピ本買いに来たんだけどあまり良いのがなくって......」
困ったような表情を浮かべる宇治島。
「あっ、ごめん!勉強の邪魔よね!長々と話しちゃってごめんね?私も他の所探して見るから!また明日学校でね!」
と、言って笑顔で手を振り店から出ていく。
残された俺はレジに向かいお会計を済ませる。
そこで気付いたのだが、俺は宇治島に一昨日の最後にひどい事を言ったはずなのに、普通に話してきた。
もしかして彼女はやさしい人なのではないか。だとしたら、さっき謝っておくべきだった。
そう思いながら帰路に就く。
家に帰って、早速勉強......ではなくてゲームをしながら買ってきたお菓子を頬張る。
こうして、時間が過ぎていき二年生初めての週末は特に何が起こるわけでもなく、いつも通りに終えるのであった。




