第二十八話 誰にも言えない秘密がある 誰かに言いたい秘密がある
「へっ?」
唐突に言われたその『綺麗な文字』という綺麗な声に何がなんだか分からなく、気の抜けた返事をする。
「さっき、あなたはノートの一ページ目を綺麗な文字って言ったわね」
綺麗な文字と褒めた覚えはある。
「あぁ、言ったよ」
「他のページも見たんでしょ」
何故、綺麗な文字を褒めたら他のページを見たことになるのかが分からずにーー
「見てないってば。何でそんなに疑うんだよ!」
と、強気で言ってみせる。
すると、天道は得意気な表情をしながらーー
「綺麗な文字ではないページもあったのかしら?」
何か良くない点と点が繋がるような気がした。
「いや、他も綺麗な文字だったと思う」
あの乱雑に書かれたページを見ていない事を伝えるために、他のページも綺麗な文字だと思っていると伝える。
「他のページも見たんだぁー」
わざとらしく天道がそう言う。
「いや、見てないよ。これは予想だよ、予想」
これは誘導尋問なのか。はたまた証拠を掴んでいるのか。どちらにせよ、このままではバレる。
「正直に言ってくれたら怒らないよ......?」
急にとてもしおらしい態度と声で話してくる所がギャップにやられてしまいそうだ。
「いや、見てないってば」
一瞬、揺らぎそうになったがその手には乗らない。
「ノートに折り目ついてたよ?」
「えっ?」
思いがけない言葉に一瞬、頭が真っ白になった。直後、目まぐるしく思考が回り始める。
ーーまずいまずい。これは証拠を掴まれていた。
焦って勢い良くノートを閉じたせいで、綺麗に閉じれなかったのか。
何にせよ、証拠があるのに一昨日から俺は嘘をついて隠そうとしていたことになる。
「折り目なんてつけてないよ!」
出た言葉がそれだった。
「折り目つけてないってことは見たことは見たんだ」
もう俺が見たことを確信しているような口振りで話しかけてくる。
「いや、見たというか閉じる時についたのかな?」
「そのページを開かないとつかないよ?」
確かに、一ページだけ折り目をつけようとするとそのページを開かないとつけることが出来ない。
「閉じる時にたまたま開いたのかな?見てないけど」
流石に見苦しすぎる言い訳になってしまった。もう疑いを晴らすのは無理かもしれない。
「ふ~ん」
彼女は、真剣な表情でそう言った。
「うん!そういうこと!じゃあ、俺はもう帰ります」
俺はこのままではまずいと思い、いてもたっても居られなくなり、教室を出ようとする。
するとーー
「ちょっと待って」
冷たい声で彼女に呼び止められた。
「はぃ?」
何で呼び止められたのか分かってないような表情で、返事をして振り返る。
「どう思った......?」
彼女のその問いに俺は全く反応することができずーー
「えっ、なにが?」
質問を質問で返すという事態に陥った。
「ノート」
クイズのヒントを出しているかのように、口数少なく彼女は言う。
「ノート......?」
そのヒントだけでは正解に結びつけずに、もう一つヒントが欲しいかのように俺は返事をした。
「ノートを見てどう思ったの?」
もうノートを見たことになっていたその事実よりも、その問いかけにどう答えたら良いのかだけが頭のなかを占領していた。
「どうって......、まぁ、人それぞれなんじゃないかな」
我ながら当たり障りのない事を言った。
「だったら、私が不満とか言ってもあなたはおかしいと思わない?」
彼女は真剣に強気で話しかけてくる。
それはまるで、迫真の演技かのように力強く訴えかけている。
「うん。そりゃそうでしょ。みんな不満だってあるし、俺だって不満くらいあるし」
いつの間にか敬語ではなくなっていることに気付く。
「ほんと......?」
可愛く言っているのか、普通に言っているだけで可愛いのか分からないが、先ほどとは違い疑いではなく期待の念が伺える。
「ほんとだよ」
「これは嘘じゃないよね?」
今度は少し恐怖を感じるような言い方に聞こえた。
「嘘じゃないです」
恐怖に感じたからか敬語に戻してしまったが、そんなことよりも次に来た言葉が頭に焼きついて忘れることが出来なかった。
ーー放課後、太陽が今日のお勤めを終えようとしている夕暮れ時の学校。
下校中の生徒と部活動の始まる前であろう生徒の声とが微かに届くこの教室の中で男女が二人。
今、こうして一つの青春が終わろうとしていた。最悪なシチュエーションでーー
「なら、私のノートになって」




