第二十五話 話せばわかるが話さないとわからない 話せばわからないが話さずにわかる
今日一日、珍しく授業の内容なんて全く入って来なかった。
どこかずっと上の空で、黒板を背景としてしか認識していなかった事を六時間目の授業の終わりに気が付く。
隣の天道はというとーー
普通にクラスメイトと会話をしている。
特に変わったこともなく、いつも通りににぎやかで、こっちとしては嫌なくらいだ。
授業中は良かったものの弁当の時間では、昨日のLHRでの俺の醜態を晒した話になったのが、少々きつかった。
あと、弁当の唐揚げはやはり美味しかった。
休み時間も勉強に身が入らずに、ノートを開いているだけで、ずっと上の空だった。
「はい、みんなお疲れさまー」
担任の鑑野先生がやってくる。
クラス皆が気の抜けた声でお疲れさまの言葉を返す。
「えー、今日は金曜日!てことで、明日からは二年生最初の週末の休みだ」
「よっしゃー!遊びまくるぜー!」
「ねぇねぇ、明日買い物行こうよ」
クラスの男女が早速明日の予定を立てているのか、既に予定を立てていたのか少しざわつく。
「そこでだ!あまり浮かれて羽目を外さないように!」
「はーい!」
「先生も羽目を外さないように!」
クラスの返事の後に続けて、加藤が鑑野先生に注意を促す。
「うるさい!先生は良いんだよ」
と、返すと生徒たちは
「えぇーー!!」
「ずるーい!」
等と言って、クラス中が一体感を持たせた。
まるで俺は違うクラスの人間なのではないか、ここに居てはいけないのではないかと思えるくらいに、取り残された感じがしていた。
「じゃあ、解散っと、その前に」
解散という言葉を聞いてクラスの三分の一程は立ち上がった所で、言葉を付け加える。
「このあと委員長は職員室に来てくれ」
(まじか。いや、今のこの状況で天道と二人っきりになるのは流石にきつい)
「以上!解散!」
「さようならー!」
先ほど立ち上がっていた生徒はすぐに挨拶をして教室を去っていった。
俺はすぐに職員室に行こうとしたが、よくよく考えるとこれはある意味チャンスなのかもしれない。
二人っきりの方が話が出来るし、これを機に仲直りが出来るかもしれない。
あと、朝から時間が経っているせいか、今朝の無視の件はやはり気のせいだったのではないかと思えてきたのもあり、天道と職員室に行くことにした。
復活した勇気に任せてーー
「職員室行こっか」
と、隣の天道に話しかけた。
がーーやはり返答がない。
椅子に座ったまま身支度をしていて一切こちらを向く素振りがない。
おそらくこの事がトラウマとなり、今後俺の人生に勇気というものが一切湧かなくなってしまった。めでたしめでたし。
と、面白おかしく解説してフォローしなければ本当に傷付くのが無視というものだとわかった。
だが、もしかしたら用意をしてるだけで、用意が終われば一緒に職員室に行ってくれるのかも。と、本日の俺は七転び八起きの精神であった。
ガタッーー
隣の席の椅子が動いた。
天道は用意した鞄を机の上に置いたまま近くの女子に『じゃあ、またね』と挨拶をして、俺の事など存在していないかのようにこちらを見向きもせずに教室を後にする。
(うん。もう無理だな。諦めよう。うん)
もう二度と勇気が湧いてこないように心の底に重りを乗せることにした。
となると、今度は早く用事を済ませて早く帰るのが得策ではないかと思い、俺も鞄を机の上に置き教室を後にした。
職員室に向かう道中、廊下がいつもより騒がしい。きっと、明日からの休みで浮かれているのであろう。お前らあまり羽目を外すなよ。と誰かが言ったようなセリフを心の中で唱えてみた。
職員室に着き、ノックをして中に入る。
すると、鑑野先生の所に天道が立っていて、どうやら何かを話しているようだ。
「失礼します」
と、俺が控えめながらある程度の人には聞こえるくらいの大きさで挨拶をする。
すると、鑑野先生が気付いてこっちに来いというような手招きをする。
俺は軽く会釈しながら、歩みを進める。
「お前ら、一緒に来なかったんだな」
(先生。今そういう話は辞めてもらえるでしょうか。一緒に行こうとして断られた人間が目の前に居るんです。)
と、心の中で早口で先生に言う。
口には『はい』とだけ返事をしておいた。
「まぁ、それはいいのだが、話があってな」
(それは良いのだったら、言わないで下さい)
「まず、しおりの件なのだが......。天道は居なかったが昨日のHRで少し話をしたんだが、時間もあまりなかったのもあって話が進まなかった」
その話もしてほしくないと思った所で、話したくない内容が多い事に気付いた。
「一応は、遠足までに時間はあるがしおり制作に時間がかかるだろうから、早めに決めておきたい」
俺はしおりくらい適当で良いだろと思っていたが、隣の天道があまりにも真剣な表情で先生の話を聞きながら頷いていた。
「だから、とりあえず来週までにはしおりの内容を決める。遠足一週間前に完成させて皆に配るため、今から一ヶ月くらいはあるから大丈夫だろう」
「はい、そうですね。一ヶ月もかからずに終わると思います」
何故か天道の声を久しぶりに聞いたような感覚に陥った。
「後は決めてからでいい。とりあえず来週よろしく」
「はい、わかりました。」
俺は先生と天道の会話を聞いているだけだった。
「あと、もうひとつあるんだが......」
先生は少し言いにくそうにしている。
どうやらこっちの方が本題であり、めんどくさいようだ。




