第二十四話 塵も積もれば山となる 心配事が山積みである
「天道さんだ!」
「おはよう!天道さん大丈夫?」
「おはよう。心配かけてごめんなさい。もう平気だから」
『天道』という声が聞こえた瞬間、心臓がドキッと揺れた気がした。
その後の聞き覚えのある声で確信する。
まもなくして隣の席に女子生徒が着席した。
そう、紛れもなく天道桜である。
俺は急にどうしていいか分からなくなり、掃除の時に話した事と昨日天道の家に行ったことを理由として挨拶をしてみる。
「お、おはよう」
天道は鞄の中身を取り出して、一時間目の授業の準備をしている。
が、いくら待ってもおはようの返事が来ない。
予鈴が鳴りクラス全員が着席する。教室内は先ほどとは比べて少し静かにはなったが、本鈴が鳴るまではまだまだうるさい。
(もしかして聞こえてなかったのかな?)
と、思い意を決して再び挨拶を今度は天道の方をしっかりと見て聞こえるように言った。
「天道さん、おはよう!」
「......」
開いたノートを見つめたまま返事がない。
「天道さん!休んでたから昨日の授業のノートとってないでしょー?私の見せよっか?」
天道の後ろの席の女子が話しかける。
(おい、やめとけ。今の天道にはそんな声は聞こえないぞ)と、心の中で呼び掛けるがーー
「わー、本当~!?助かる~!!ありがと!」
と、言ってノートを貸してもらい早速写す天道。
(あれ?それが聞こえるなら俺の声も聞こえているよね?)
さっきはタイミングが悪かっただけなのか、昨日のプリントを受け取れたかの確認という建前で話しかけようと最後の勇気を振り絞って声をかける。
「あのー、昨日のプリントは受け取れましたか?」
「......」
返事がない。ただの屍のようだ。
チャイムが鳴り、担任の鑑野先生が入ってきた。
「おーし、みんなおはよう」
「おはようございます!」
「今日はとりあえず、昨日のHRでの遠足の班と役割のプリントを配る」
前の席の人から順番に後ろに配られる。
そのプリントを受け取りながら、正直そんな事はどうでもいいと思っていた。
そんなことよりも、隣の席の女子がちょっと冷たすぎる件についてで頭がいっぱいであった。
無視?わざと無視している?
流石に聞こえてなかったではないだろう。
それに隣で誰かが喋っていたら、普通は少しは気になるだろう。直視はしなくとも視界の隅に入れるくらいはしてもいい気がする。
そうだ。普通は......って、俺も隣の事なんてあまり気にしていないのだが。
それにしても不自然だ。なにか怒らせることしたのか?
やはり、掃除の日の例の一件が原因か。それしかなさそうだな。となると、どうしたら良いのか。全く分からない。
「それと、昨日は途中だったがしおりの件についてだが」
またもや心臓が揺れ動いた。
「まだ時間もあるからまた次のLHRの時に話し合うからそのつもりでよろしく」
もうしおりという言葉だけで、寿命が縮まる勢いだ。でも、今からとか言い出さなくて良かった。次こそは、天道も居るから心配ないだろう。
って、その天道が今は問題だ。なんとかして、天道と和解しなくてはーー
そういえば、天道は班の事や役割の事は知らなかったから、今初めて自分の班と役割を知ったのだろうか。
ふと、隣を見てみると真顔でプリントをギュッと握りながら見つめていた。
HRが終わり、鑑野先生が教室を去っていく。
俺は隣の天道に声をかけたかったが、そんな勇気は一切残っておらずプリントをしまい、ただ授業が始まるのを待った。
そうするとーー
「天道さん!」
少し離れた席から女の子の声がした。
「宇治島さん?」
声のする方向を見ると、宇治島が天道に話しかけていた。
「ごめんね。昨日班決めがあったのだけれど、休んでる天道さんを勝手に一緒の班にしちゃったの」
申し訳なさそうに笑みを浮かべて天道に言う。
「いいえ、むしろありがとう。とても楽しみがいのある班に入れてもらえて光栄だわ」
(楽しみがいのある班?どういう意味だ。)
と、盗み聞きしているつもりはないが、聞こえてきた言葉に疑問を抱く。
「そう!なら良かった!役割は余ったものになっちゃったけど、もし変えてほしいなら言ってね」
「そうね。もし変えて欲しかったとしてもわざわざ休んでる私を班に入れてくれたんだから、わがままは言わないわ」
笑顔でそう言っていたのだが、俺と同じ役割が嫌だと言っているようにしか見えない。
「ごめんね。もしなにかあれば手伝うから言ってね」
「ありがとう、気を使って頂いて。また言うね!」
と、とても聞き心地の良い爽やかな女の子の声で会話が聞こえてきて爽やかな気持ちになるはずだったーー
天道はおそらく俺に対して敵意を抱いているだろう。先の無視三連発に加え、宇治島との会話の中で俺との役割を嫌がっているように見えた。
俺と天道の心の距離がとてつもなく開いているに違いない。
このままでは、しおりの件を任せることが出来ないのと今後この一年間の委員長業務が穏便に出来なくなるかもしれない。
せめてそれだけは避けたいので、好かれなくても良いが嫌われないようにするしかない。
まずやることは、天道との会話だ。謝って許してもらうのがベストだろうが、彼女が何に対して怒っているのかが具体的には分からない以上、リスクにもなりかねない。先に彼女が怒っている理由を見つけ出す必要がある。
考え事だらけでチャイムが鳴り、こうして一時間目の授業と問題だらけの一日が始まった。




