第二十二話 知らない人には近寄らない 知っている人にも近寄らない
「あらっ、こんにちは」
中から思った通りの気品溢れる綺麗な大人の女性が出てきた。
こんな綺麗な女性がテレビの中ではなく現実に居たのだと思うほどに美しい姿であった。
年上ではあるが少し明るい髪の毛と明るい笑顔から若くも見え、彼女が何歳なのかは全く分からない。
「あっ、はい。こんにちは」
少し緊張してしまい、またまた用件は言えずに挨拶のみを返す。
「桜のお友達かしら?」
「いや、違います。同じクラスで同じ委員長なのですが、今日は届け物がありまして」
二回も用件を言いそびれたのが功を奏したのか、頭で繰り返し用件を言う準備をしていたため、すんなりと用件を伝えることが出来た。
「あらまぁ、そうでしたの。それはわざわざありがとうございます。桜は今ピアノのレッスン中ですの。よろしければ上がってお待ちになって下さい」
これはどうするーー
可能性としては正直、わずかに考えられたのだが、まさか本当に招待されるとは思ってもみなかった。
「えっ、いやぁ......」
これはこのお姉さんが招待してるのであって、天道桜が招待している訳ではない。
だからここで、はいと言って上がらせてもらっても、中で天道からは嫌な反応が来る可能性がある。
ましてや、お姉さんの前で天道に嫌な反応をされるとせっかくお招き頂いたお姉さんに対しても気まずいし、俺自身もよりによって、そんなに嫌われているやつが何で家に来たんだと思われそうで恥ずかしい。
かといって、せっかくのお誘いを断るのも失礼に値するのではないだろうか。
と、間を持たせながら考えた結果ーー
「忙しそうなので、今日は遠慮しておきます」
目の前のまだお姉さんなのかも分からない女性に伝えると、少し残念そうに
「あら、そう......」
と、返ってきたので、すかさず社交辞令を言う。
「せっかくお招き頂いて嬉しいのですが、今日は届け物を渡すだけでしたので、これだけ渡して下さい」
そう言って、手に持っていたプリントを手渡した。
だが、渡す時に気付いてしまったーー
大きな家に入って、綺麗な女性に話しかけられて、家のなかに招かれてで緊張の連続だった間、ずっと手に持っていたそのプリントはほんのりどころか、汗で半分程くしゃくしゃになっていた。
「ありがとう。桜に渡しておきますね。」
笑顔を向けられるだけで、ドキッとしてしまうので、すぐに下を向いてしまった。
(プリントの手汗に気付かれないうちに帰ってしまおう)
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
「わかりました。それで、桜は学校では上手くやれていますか?」
「はい。明るくて成績も良くて皆の人気者です」
「そう。なら良かったわ」
俺の答えが正しかったのかどうかは分からないが、間違った答えではないことを祈りながらこれ以上会話するメンタルがもたない事を肌で感じ、別れを告げる。
「それでは失礼します」
「今日はわざわざありがとうね。明日には桜も学校に行けると思うから。高山くんも気をつけてね」
笑顔で見送りをしてくれた事と、最初に名乗っただけの自分の名前を覚えてくれて、呼んでくれたことが少し嬉しくて行き道のどんよりとした気持ちとは見違えるほどの晴れ晴れした気持ちで家に帰った。
ピアノの練習って言ってたけど、インターホンを押す前に聞こえてきたあのピアノの音色は天道が引いていたのだろうか。
そういや、天道の体調について全く聞いていなかったが、大丈夫なのだろうか。
まぁ、ピアノのレッスンが出来るくらいだから、回復しているんだろうけど。
自分の受け答えだけで精一杯だったのか、天道の心配をしていなかった事に少し罪悪感を感じたが、それよりも綺麗なお姉さんとたくさん話せた事の嬉しさの方が勝った。
翌日、天道は登校してきたが口を聞いてくれることはなかった。




