436 失敗しないスライムさん
裏庭の薬草を持ってきたときだった。
「ぼく、しっぱいしないので」
スライムさんは、きりっ、と私を見た。
「おっと」
私はあやうく薬草を落としそうになった。
「急にどうしたの?」
「ぼく、かんぺきすらいむ、かんすらになろうとおもいます! きりっ!」
「カンスラさんは、つまり、失敗しないスライムさんっていうこと?」
「そうです!」
「私はうっかり薬草を落としそうになっちゃったよ」
「ふふ。それは、まだしっぱいしていないので、かんえいです」
「完璧なエイムってこと?」
「はい!」
きりっ!
「そっか。じゃあ、これからカンスラさんは、なにをしても失敗しなくなるってこと? すごいね」
「ふふ。まあ、かんすらですので」
私は、すぐできそうなことをさがした。
「じゃあ、この薬草をちょうど半分にちぎる、なんてこともできるのかな?」
「そうですね……。きょうは、いたしませんが……」
スライムさんは、ほほえむ。
「そうなんだ」
この薬草は、お店の商品にするから手を出さない、ということなんだろうか。
「それなら、コインの表をかならず出すとか、どう?」
「ふふ……。そうですね……。きょうは、いたしませんが……」
スライムさんは、ほほえむ。
「ふうん、そうなんだ?」
どこか妙だ。
「……もしかしてスライムさん、なにもやらなければ、失敗しないと思ってる?」
「!? やりますね、えいむさん! そのとおりです!」
スライムさんは、カウンターにとびのりそうになったけれど、やらなかった。
「なにもしなければ、しっぱいしない! これこそが、かんすらです!」
「そうなんだ……。じゃあ、私も、なにもしなければカンエイってことだよね」
「はい!」
「それってたぶん、みんな気づいてないよね」
「はい!」
「楽して完璧なんて、私たちすごいね!」
「はい! すごすぎです!」
私たちはしばらく、その場でだまっておたがいを見ていた。
「……」
「……」
「スライムさん、完璧って、あんまりおもしろくないね」
「はい……」
「完璧な人より、完璧じゃない人のほうがおもしろいって聞いたことあるんだけど、もしかして、こういうことなのかな?」
「といいますと?」
「完璧な人って、なんにもしない人っていうことなのかな?」
「! その、かのうせいは、あります!」
「完璧やめる?」
「やめます!」
スライムさんは、勢いよくカウンターにとびのると、上にある皿にのった薬草をちぎった。
「ぼくは、かんすらではないです! ただの、すらいむです!」
「そうだね!」
私は、でも、ちょっと気になったので、ちぎられた薬草を近くにあった天秤にのせてみた。
「わ、スライムさん!」
「えっ!」
ぴったり同じ重さだった。
「ぼくは、かんすらかもしれません!」
「そうだね!」
私たちは、完璧である可能性を捨てないことにした。




