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変わらないもの  作者: 葵
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2.止まれない理由

目が覚めたのは、昼過ぎだった。


カーテンの隙間から差し込んでくる日差しのせいか、

昨日の夜、見た光景が浮かんできた。


クドウマコト。


名前、もう覚えてるな。


あの男が泣いてたからか?


時代が……違う?


「はぁ……。」


俺はあのベンチで寝てただけってことはないか。

ただの、夢とか。


……わからない。

どっちにしても、あれは、

今と同じ風景じゃないよな。


……お前を知らないという理由で、選ばれない。


そんなこと、あり得ないよな。

今の時代に……。


でも……。

断られることはある。

今の時代でも。


前に俺も、担当者から電話で言われた。——


トゥルルルー、トゥルルルー


「はい。」


「もしもし、ミツイさん。

お世話になっております。


今回ご応募いただいたお仕事は、選考の結果、見送りとなりました。

経験者の方が優先的に……」


——


そうだ、

俺も同じ理由で選ばれなかったみたいなもんなのか。

あの管理者がおかしいわけじゃない。


普通だ。


経験がある方が優先されるのは。


じゃあ、クドウが選ばれることはないのか……。


ん?

知らないって、なんのことを言ってたんだ。


なんのことってなんだよ……。


——


「ヨシノさんは契約更新なので……」


——


「はぁ……。」


身支度をして、昨日食事をしたファミレスに向かった。


「お待たせいたしました。


焼き魚定食になります。」


「はい。」


食べ始めて、スマホを手に取ろうとした時、気づいた。


片手じゃ無理だな。


食事を終えた後は、PCを開いて、時間を潰した。


外が暗くなってきた頃、

また、あの自動販売機に向かった。


そして、10円玉を3枚入れて、『サイダー』のボタンを押した。


ガコッ。


蓋を開けて、サイダーを口に含んで、目を閉じた。


ゴクリと喉を鳴らして飲み込み、目を開けた。


また、朝。


でも……昨日と雰囲気が違うな。


人通りも多い。

なんかうるさいし。


やっぱり、値段が違うのは意味があったのか。


じゃあ、クドウはもういない?


そう思った時、


「クドウ、お前も来い。」


「はいっ。ありがとうございます。」


急いで声のする方に向かった。


あ、少し変わったな。


でも、クドウマコトだ。


華奢だった身体は少しガタイがよくなったように見える。


俺より年上っぽいな。


なんとなくテンションが上がって、頬が緩む。


クドウは軽トラのような車の荷台に乗って、

横にいる同年代くらいの男と笑いながら話している。


「定員だ。行くぞ。」


管理者らしき男がそう言うと、車はどこかへ向かって走り出した。


車じゃ追えないし、とりあえず歩くか。


街は昨日よりずいぶん活気があるように見えた。


建物も少し増えたように見える。


管理者のような男たちが、まだ何人か叫んでいる。


「あと2人。」


「こっちは、4人だ。」


男たちの近くには、軽トラがエンジン音を鳴らしながら停まっている。


車の近くを通ると、ラジオのニュースが雑音混じりに聞こえてくる。

他の車の横を通った時には、ラジオから歌謡曲のような音楽も聞こえてきた。

男が多くて、笑い声や話し声がガヤガヤと騒がしい。


しばらく歩いていると、車がどんどん走り出し、静かになっていった。


焼き魚の匂いがしてきて、近くの定食屋を覗いた。


「今日は逃したよ。」


「俺もダメだったよ。」


「今日は、荷物が多いって聞いてたんだけどな。」


あれだけ募集してるのに、まだ仕事につけないのか。


いや、さっき人が多かった場所からここは離れてる。


タイミングか……。


そのまま人々の会話を聞き流しながら、街を歩いた。


日が暮れてくると、仕事に向かった男たちが戻ってきたのか、

また街の声が賑やかになってくる。


その男たちの中に、クドウマコトの姿を見つけた。


「クドウマコトです。

お世話になりました。


また、よろしくお願いします。」


「はい、またよろしく。」


クドウは深く頭を下げている。


管理者の男と別れた後、仲間らしき男と歩いている。


二人は話をしながら、


『ビール冷えてます』と、


手書きで書かれた飲み屋に入っていった。


俺もそのあとを追った。


「おつかれーっ」


「おつかれ。」


二人はお互いのコップに瓶ビールを注いだ。


「今日は、運が良かったな。」


「あぁ。手配師は……シムラさんだったな。

名前を覚えたから、次はこっちからも声をかけられる。


シムラさんに会ったのはまだ2回目だ。

名前を呼んでくれた時は驚いたよ。」


手配師……あの管理者のことか。


「そうだな。


そういやクドウは、故郷に仕送りをしてるんだったな。

今日はいいのか?」


そうか、あのハガキの……。


「あぁ……。

もう、送る相手はいないよ。」


「……そうなのか。」


「メシを食うために働く。

それだけだな。」


な……いない?


でも……。


クドウが泣きながら食べていた姿を思い出した。


今……いや、今では、ないのか。


息が止まったみたいに、苦しくなった。


自分の唾を飲み込む、

ゴクリという音が、耳に響いてくる。


ここにいるのが、耐えられない。


店から離れて、

自販機のあるベンチに向かった。


ベンチに座り、

辺りが夜の景色に変わっても、動くことができなかった。


空を見たら、雲が流されてるのがよく見える。

今日は風がないのに。


雲が動くのは、早かったんだな。




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