3.この場所で
コンビニで水を買って、人通りがある道を、
宿に向かって歩いた。
宿に戻ってからは、
シャワーを浴びた後、部屋のベッドに横になった。
ここは静かだ。
たまに外で酔っ払いが騒ぐような声が聞こえると、気づく。
ここは、あそことは違う場所だ。
もう、終わりにするか。
次、また時間は進むよな。
時間が進んだら、何が起きる?
クドウがもし、いなくなっていることも、あり得るのか……。
いや、それは考えすぎてるよな。
昨日の会話だと、
……クドウが働く理由は、変わったのか。
じゃあ、俺と……同じ?
でも、ないか。
誰かのためじゃなくなったのに、
俺とは違うと思うのは、なんでだろうな。
外が明るくなり始めた頃、ようやく眠りについた。
目が覚めてスマホの時間を確認すると、もうすぐ昼だ。
チェックアウトを昼で予約しておいてよかった。
帰り支度を整えて、外に出た。
昨日見ていた景色とは、違う。
そのことに安心できる。
はずなのに、なんかなぁ……。
腹減ったな。——
また昨日のファミレスに向かった。
「お待たせしました。
焼き魚定食になります。」
「……。」
今日は、食事と一緒にビールも頼んだ。
もう、送る相手はいない。
そう言って、クドウは手元のビールを見つめていた。
疲れているのか、少しホッとしてるようにも見えてしまった。
そんなよくわからない表情が、また浮かんでくる。
食べながら、自分の目に涙が溜まるのを感じた。
食事を終えた後は、
ファミレスでゆっくりして、近くの駅で買い物をしたり、
似顔絵を描いてもらえる店に行った。
「表情とかどんな感じにしますか?」
「じゃあ……笑顔、というか……笑ってる感じでお願いします。」
夜まで観光した後は、
また、あのベンチへ向かった。
人通りはだいぶ少なくなっている。
昨日より少し遅くなったな。
自動販売機に、10円玉を3枚、1円玉を5枚入れて、
『コーラ』のボタンを押した。
ガコッ。
手に取って、蓋をあける。
瓶を口に近づける手が、一瞬止まった。
呼吸を整えて、
コーラを口に含み、目を閉じた。
ん、少し苦手な味かもな。
ゴクッ。
ゆっくり飲み込んだ。
雨?
雨の音がする。
目を開けても、
肌に雨が当たる感覚はない。
ボタボタと近くの屋根から大きな水滴が落ちる音がうるさい。
人通りも減っている。
それでも手配師はポツポツといるように見える。
手配師の周りには、男たちが群がっている。
湿った音に混じって、人の話し声が聞こえる。
「今日も少ないな。」
「……仕事が減ったからな。」
どれだけ時間が経った?
注意深く辺りを見ながら、クドウの姿を探した。
大きい倉庫のような建物の前に、人が集まっているのが見える。
最初の日にクドウを見かけた場所に似てる気がする。
小走りで人だかりに近づく。
そこには、手配師になったクドウマコトの姿があった。
昨日よりも、なんだか貫禄ある。
30代くらいか。
「今日は8人だ。」
「21番。」
「はい。」
『21番』、あの男は若そうだな。
今の俺とそれほど変わらない。
「デッキマンはやったことがあるか。」
「……ありません。」
クドウの問いに答えた男は、屋根のある場所からはみ出した肩が、
雨に濡れている。
少し震えてるのは、寒いからか。
「じゃあ今日は、倉庫側で荷物整理をしてくれ。
デッキマンは荷物の吊り上げの時、合図をする作業だ。
見て、覚えろ。
次に繋げるしかない。」
「はいっ。
ありがとう……ございます。
タナカタイセイといいます。
よろしくお願いします。」
タナカは、掠れた声で、肩を振るわせながら、
深く頭を下げた。
顔を上げた時、男は涙を流していた。
あの男も、痩せてるな。
若い頃のクドウの姿に自然と重なった。
……。
戻ろう。
自分の場所に。
——
それから二週間後、俺は新しい職場にいた。
「ミツイカナタといいます。
よろしくお願いします。」
深く頭を下げた。
「ミツイさん、今日歓迎会あるんだけど来れる?」
「はい。」
仕事を終えた後の歓迎会では、
俺の他にもう一人、新しく入った派遣の女の子も来ていた。
思っていたより人数が多い。
ちょうどいいな。
「ミツイさん、よろしくね。」
掘り炬燵のテーブルに座ると、上司が声をかけてくれた。
「はい、よろしくお願いします。
実は、名刺作ってきたんです。」
財布から、名刺を取り出して、上司に渡した。
「え?派遣で名刺?
何これ?白黒写真?
あ、加工してるんだ、ちょっと絵みたいになってる。」
「はい、自撮りの写真を加工しました。」
「ははは、面白いね。
めちゃくちゃ笑ってるじゃん。」
「はい。
顔を覚えてもらいたかったので。」
「ん?
趣味『時間旅行』って、なんだよこれ。ははは」
「はは、なんというか……誰かに昔話を聞いたような、
そんな感じかもしれません。
それで、旅が好きになったんだと思います。」
店員が料理を運んでくる。
「お待たせしましたぁ、焼き魚定食になります。」
「は?居酒屋で定食頼むやつ初めて見た。」
「はは、急にすいません。
ただ、
たぶん、好きなんです。
仕事の後のご飯と、ビールが。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




