1.選別
「派遣の二人ちょっといい?
えっとぉ……ミツイさん、は今日が最後ですよね。
ヨシノさんは、契約更新なんで、そのままでOKです。
作業内容は変わるかもしれないので、班長に確認してください。
あ、月曜日で構わないので。
ミツイさんは、
退勤前に入館証とロッカーの鍵の返却、忘れないようにお願いします。
じゃあ、二人ともお疲れ様でした。」
「はい。
お疲れ様でした。」
今日は派遣契約の満了日だ。
ちょうど金曜。
旅行気分で、2泊3日、簡易宿の予約を入れている。
簡易宿が多くて、なぜか自動販売機が多い場所。
——
仕事が終わり、食事はファミレスにした。
「お待たせいたしました。
ボロネーゼになります。
よろしければチーズもお使いください。」
「はい。」
食べながら、スマホで派遣会社の募集ページを流し見る。
次の仕事は……応募しておくか。
仕事の疲れもあってか、眠気もあり店を出た。
通りに置かれていたベンチに座り、辺りを眺めていた。
人通りが少ないのに、
自動販売機、やっぱり多いな。
すると、一つ変わった自動販売機があった。
色は少しくすんだ水色。
あまり高さはなく、角は丸みがある。
古いのか?
何が買えるのか気になって近づいた。
見本の缶の代わりに、文字が書かれたプレートだけ。
『珈琲牛乳』……20円
『サイダー』……30円
『コーラ』……35円
商品名も値段も手書きっぽい。
なんだ……これ。
……試してみるか。
どれも値段が安すぎるけど。
とりあえず、一番安い珈琲牛乳から。
10円玉を2枚入れて、ボタンを押した。
ガコッ。
出てきたのは、商品名の通り、瓶の『珈琲牛乳』だった。
手に取った感触は、普通に冷たい……か。
ベンチに戻って蓋を開け、匂いを嗅いでみる。
ん……コーヒーの匂いはあまりしない?
一口飲んでみると、
珈琲の風味は感じる。
でも、やけに甘くて、牛乳感が強い。
まぁ……
「あ?」
顔を上げた時、
景色が変わっていた。
え……?
どこだ……ここ。
辺りを見渡すと、
木造の建物が多いな。
さっきはもっと……。
そもそも、朝日に照らされた風景に変わってる。
今までいた場所とは……似てる。
けど、違うな。
スマホを確認すると、時刻は22時18分。
天気は……晴れ。
晴れてはいるけどな。
……何が起きた。
ベンチから動けずにいると、若い男が近づいてくる。
歳は……同じくらいか。
「あの、すいません。ここ……」
ん?
なんか服装も……。
男は何も言わず、ベンチに座った。
やけに近いな。
「……。」
聞こえてないのか……。
「すいません。」
「……。」
少し音量を上げて声をかけても、反応がない。
こっちを見ようともしない。
これって……俺のことが、見えてないのか。
よくわからないまま、その男をじっと見ていると、
男は服のポケットから何か取り出した。
覗き見ると、短い文章が書かれていた。
「仕事、見つかった。
金ができたら送る。」
ハガキか。
誰かに、金を送るってことか。
家族……なんだろうな。
家族のために、働く。
そういうの、考えたことなかったな。
ハガキをしばらく見つめた後、ため息をつきながらポケットに戻した。
男が立ち上がったので、俺も続いて立ち上がった。
すると男は、人が集まっている場所へと移動した。
そこには、名前を呼んだり、
整理番号のような番号を叫んでいる男がいる。
呼ばれて喜んでいる人、ただポツンと立ち尽くしている人。
不安そうな顔で叫んでいる男を見ている人。
これって……。
選ばれてるのか?
ハガキを持っていた男も、叫んでいる男を見つめていた。
自分の持っている番号を確認している。
後ろから見ると、男の番号は『52』と書かれている。
そして、管理者のような男が、『50番』と叫んだ。
そろそろ呼ばれるか。
「次、54番。」
あ、番号が飛んだ。
咄嗟に目をやると、
男は持っていた番号の紙を強く握りしめて叫んだ。
「ちょっと……待ってくれ。
俺は、もう3日ここに来てる。
一度も……呼ばれてない。」
周りの視線は男に集まる。
管理者が、男に目をやった。
「そうか。
はぁ……
俺はお前を知らん。
他を探せ。」
嫌な言い方だな。
ゴクリと喉を鳴らした後、
男はその場所に背を向けて歩き出した。
その後を追った。
後ろ姿を見る限り、かなり痩せてる。
歩いていると、年配の男が近づいてきた。
「おい、
腹減ってないか?」
男が顔を上げた。
「……もう2日、食ってない。」
食ってない?
「飯食いに行こう。
金のことは気にしなくていい。」
「ありがとう、ございます。」
そんな簡単について行って大丈夫なのか……。
二人は、狭い定食屋に入った。——
「名前は?」
「クドウマコトです。」
「そうか。
じゃあ、マコト、
今日、食えるだけ食え。
明日はわからないんだよ。」
「……はい。」
……。
クドウは表情を緩めずに、ただ食べている。
何か……急いでる。
クドウマコトは、テーブルのどこか一点から目を離さない。
ご飯を少し苦しそうに、口に押し込んでる。
抑えながら、小さく体を震わせている。
ポロポロと涙を流しながら、頬をパンパンに膨らませて。
——
二人が店を出て別れる時、
俺もクドウと別れるように、ベンチの場所へと戻った。
そして、ベンチに座ったと同時に、景色も夜に変わった。
クドウは、泣きながら食べた食事の味を忘れないんだろうか。
俺は、さっき食べたパスタの味を……覚えてないのに。
宿に着いて荷物を置いた後は、館内にあるコインシャワーを使った。
こういうの初めてかもな。
クドウは……2日間は、風呂も入ってないんだろうな。
今日だって、入れないのか。
部屋に戻った後は、すぐに眠りについた。




