46.翌朝の訪問
今日はアカデミーの卒業式である。
リンドバーグ伯爵家で朝の支度を終えたアレクサンドラは庭へと出た。
風はまだ少し冷たいが、陽ざしは明らかに春の始まりを告げている。この白い制服に身を包むのもこれが最後だと思うと感慨深い。
けれどその前に、アレクサンドラは庭で待っていた男に聞くことがあった。
「それで、どうしてあなたがここに? 昨日も似たような会話をした気がするのだけれど」
爽やかな卒業式の日の朝を台無しにしたこの男に、文句が言いたい。極めて不機嫌な視線を向けられた王太子ローレンスは庭のガゼボで飲んでいた紅茶のカップを置いた。
しかし、続く言葉に、朝から人の家の庭で優雅に寛ぎすぎではないかと突っ込みたい気持ちは消え去る。
「昨日の襲撃の主犯が死んだ」
「え?」
思わぬ報告に、アレクサンドラは固まった。けれどローレンスは淡々と続ける。
「昨日、襲撃犯全員を速やかに回収して投獄した。夜から話を聞くはずだったらしいが、取り調べを始めるまでの間に全員が死んだ。それぞれ毒を隠し持っていたらしい。リストの中で、明らかな主犯扱いになっていた男もだ」
襲撃犯というのは、昨日自分とオフェリーが乗った馬車を襲撃した者たちのことだ。あれから、ローレンスからは何も報告がなくて、今朝が初めての会話だ。
信じられない事態に、アレクサンドラは真剣な眼差しをローレンスに向ける。
「そこまでの覚悟があったということは」
「そうだ。襲撃犯は全員クラウトン王国の革命派で間違いない。アカデミーに出入りする臨時講師も含まれていた」
「その方はマルク先生ではないですよね?」
「ああ。彼は容疑者から完全に外れているな。人数から見て、君を狙った人間はほぼ消えたとみて問題なさそうだ」
「……容疑者死亡でこれ以上の捜査はかないませんわね」
アレクサンドラの問いに、ローレンスは苛立たしげな表情で頷いた。自分に腹を立てているようにも見えるこの表情は、初めて見るものだ。
「国王からもこれ以上深追いをするなと言われている」
クラウトン王国では、冬のはじめにクーデターが起きたばかりだ。愚王と悪名高かった前国王を王太子が手にかけて戴冠したことがまだ記憶に新しく、この国でも驚きを以て迎えられた。
「あの国もまだまだ不安定――クーデター前より油断ならない時期かもしれませんわね」
「そうだ。だからこれ以上は深追いできない」
この自信に満ちた男が白旗を上げるなど普通はありえないことだ。それだけに、事態の深刻さが伝わる。
「……リーちゃんはどこまで知っていたのかしら?」
「彼女は捨て駒だ。だからこそ、今日の卒業式でどう出てくるのか想像がつかないな」
卒業式の開始まで、あと数時間。
短くてすみません……!
完結まであと3日なので、次から1日2回更新になります。
次話の更新は明日の12時過ぎです。
ぜひ最後までお付き合いいただけるとうれしいです。





