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【完結】無敵の才女【書籍化・コミカライズ】  作者: 一分咲
四章

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41/52

41.アカデミー3年生

 資料庫への閉じ込め事件から一年が経っていた。


 季節は巡って、また冬が来ている。


 昨年、アレクサンドラとシリルが資料庫に閉じ込められたことは、ほとんどの学生の知るところとなっていた。


 この事件の教訓を生かし、資料庫に入るには事前に複数の教員の許可をもらったうえで入室し、退室予定時刻の報告が義務付けられることになった。


 もし予定時刻を過ぎても学生が資料庫を出なかった場合は、担当講師が状況を確認しに行くというマニュアルが作られた。


 同じような事故を繰り返さないという観点から見ると、この変更は素晴らしいことだったが、一方でシリルが渇望していた『国家会計局に就職した後、アカデミーを調査するのに有利な資料を手に入れる』のはほぼ不可能になった。


 シリルは残念そうにアカデミーを卒業していき、今は国家会計局のキャリア組としてエリートへの道を歩んでいるらしい。


 あの事件の後は、それなりに面倒なことがあった。アレクサンドラとシリルが二人で資料庫に閉じ込められたことで、二人の関係を邪推する人間が現れたのだ。


 その中心になっていたのは、リーちゃんこと、オフェリーである。オフェリーは、アレクサンドラを厳しく追及した。


『婚約者がいるのに、他の殿方と一緒に密室に閉じこもるなんて。淑女の鑑だと思っていたけれど、とんでもない勘違いでしたわ』


 そんな言葉を何度も聞いた。けれど、アレクサンドラはこの目の前のオフェリーが自分を守るためにこんな言動をとっているのだと思うと、とあまりにもかわいらしくて、つい見とれてしまった。


 当時、それを察したらしいシリルはひどく呆れた顔して目を逸らし、噂を聞いたローレンスはいつも通り腹から大声で笑っていた。


 そうやっていつもの日常は戻ったが、一部の学生にはオフェリーの言葉を信じてしまった者もいるようで、婚約者がいるのにはしたないという目で見られることもある。


 だが、ちょっと待ってほしい。そのマルセルがオフェリーの後ろに隠れて、こちらをチラチラ見ているのは良いのか。


 外野に対しそこを突っ込みたい気がしたが、ちょうど同時期にローレンスに縁談の噂があったこともあり、アレクサンドラはこらえて沈黙した。しかし、ローレンスの縁談は案の定見事にまとまらなかったため、ただの徒労に終わった。


 この一年間でアレクサンドラの警備はますます厳重になったし、ローレンスもほぼ毎日のようにアカデミーにいる。資料庫への閉じ込め事件のようなことはもう起きていない。


 他に大きな危険にさらされるようなこともなくて、アレクサンドラ自身もうっかり自分が何者かに狙われているということを忘れてしまいそうになるのだった。


「アレクサンドラ・リンドバーグ様! 就職先はもうお決まりなのですか?」


 アカデミーの廊下を一人で歩いていると、オフェリーが声をかけてきた。いつもは大勢の取り巻きを連れているのに、珍しく今日は一人である。


 リーちゃん、と話しかけてしまいそうになったのを淑女の笑みでごまかす。


「国家機関への就職はせず、実家で事業を営む予定ですわ。私はアカデミーへの入学前から、卒業後は実家の商会で働くことを決めておりましたから」

「へぇえー。大富豪リンドバーグ伯爵家のお嬢様はやっぱり違うんですね」


 無邪気な笑顔にどことなく棘のある言葉選びは相変わらず健在である。


(……というのは置いておいて)


 アレクサンドラは、オフェリーに問いを返す。


「オフェリー様は就職されるのでしょうか? バティーユ男爵家で次期当主として修行されるというような噂も聞いておりますが」


 いつも無邪気で可愛らしいオフェリーの表情が一瞬だけ曇った気がした。けれど、すぐに明るい笑顔に戻る。


「はい。私も予定通りです!」


 彼女もアレクサンドラ同様に成績優秀者だ。就職先はよりどりみどりだったことだろう。実際に彼女がアカデミー主催のイベントで、アカデミーの上位機関や大商会の経営者と面談をしていたのを見たことがある。


 学生の面談といえど、この段階まで進めば就職はほぼ確定していて、あとはマッチングのようなものだ。 ここまでくればまず試験で落とされることはない。


 だから希望先への就職が叶わないケースがあるとするなら、実家が反対した場合だ。この国では貴族が全てを牛耳っている。家が許さなければ、出仕も就職も叶わない。


(もしかして何かあったのかしら?)


 彼女の表情から、望まない進路を想像したアレクサンドラだったが、問いかける前にオフェリーが話しかけてくる。


「アレクサンドラ様。私たちももうすぐアカデミーを卒業しますよね。私、卒業までに一度でいいのでアレクサンドラ様とプライベートでお出かけしてみたかったんです。 明日、観劇をご一緒しませんか?」


「……なんですって?」


 まさかの誘いに、アレクサンドラは淑女の笑みを浮かべたまま、この裏を勘ぐるのだった。


今日から1日1回更新です。完結前の9/2から2回更新に戻ります!

ぜひ引き続きお楽しみいただけますように!

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本編『無能才女は悪女になりたい』はこちらから!
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