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無敵の才女【9/4完結予定】  作者: 一分咲
二章

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25/29

25.アカデミーの夜会

 アカデミック・ソワレというだけあり、昼の部が終われば、アカデミーの大広間では夜会が始まる。


 アカデミーでは女子学生が極めて少ない。アレクサンドラも名前を知っているのはオフェリーぐらいのものだ。


 それでも本来、こういう場では婚約者がエスコートするのがこの国のマナーなのだが、あいにくアレクサンドラにその予定はなかった。


「マルセル殿は何をしておいでで?」

「プードルのリーちゃんに餌を貰いにいっているんじゃないかしら?」

「それは逆なのでは?」


 冷静なシリルのツッコミを聞いて、気が紛れた。


「こういうときの風除けのために婚約したはずなのですけれどね?」


 別に、マルセルがリーちゃんのところに行っているからがっかりしているわけではない。避けたい風があるのに、肝心なときにそのアイテムがないからがっかりしているのだ。


 今日の夜会は、アカデミーで最も広い大広間で行われていた。


 かつて、この校舎は王宮だった時代もあるらしい。その当時は、きっとここで華やかな舞踏会が広がっていたのだろう。会場内は着飾った紳士淑女で埋め尽くされていて、普段は制服姿の学生たちも今日ばかりは色とりどりのドレスを身につけ華やかだ。


 アレクサンドラも、自分が経営するドレス工房で作らせた真紅のドレスを着ている。既に、アレクサンドラの前を通り過ぎた何十人もの人々がこちらに好奇の視線を向けていた。


 自分が大富豪であり大商会を経営する、リンドバーグ伯爵家の顔であることは十分にわかっている。だから、このような場で最先端のドレスを着ないことはありえないのだが、アカデミーで静かに過ごしたいという願いには沿わないかもしれない。


(あの男が夜会にいるのならね)


 今のところ、まだ見当たらない男の顔を思い浮かべて気分が悪くなったところで、一人の先生が声をかけてきた。


「シリル君、今日の発表素晴らしかったね」


 それは会計学の教授だった。アレクサンドラはその授業を受けていないが、彼がまだ若いのにかなり大きな権力を預けられているらしいのは知っていた。


 なぜなら、二年生の成績トップであるシリルは、彼の片腕のような存在として扱われているからだ。


「マルク先生のご指導のおかげです」


 シリルは背筋を伸ばして、礼を述べる。満足そうにして目を細めそれを見つめたマルクは、アレクサンドラの方へと視線を向けた。穏やかだが、どこか値踏みするような瞳だった。


「君はアレクサンドラ・リンドバーグ君だね。君の発表も素晴らしかったよ。会計学は受講していないようだけれど、ぜひ君にも教えたいな」

「光栄に存じます。来年はぜひ」


 社交辞令と受け止め、淑女の笑みを浮かべる。


「待っているよ。じゃ」


 マルクは手を振って去っていった。眼鏡をかけ、寝癖頭の先生。緊張感がなく抜けていると言えばそれまでなのだが、にしてはあまりにも頼りなくはないだろうか。


 冴えない雰囲気に、アレクサンドラは首を傾げた。


「あれが会計学の権威? 全然そんな感じに見えないわね。油断全開というか」

「マルク先生はそんなところが人気の一つなんですよ。気取っていなくて、数字一筋だ。私のような学生が慕っていますよ」


「へぇ。シリル様がそんなふうに評価するなんてめずらしいですわね」


 シリルは人を見る目が厳しく、オフェリーなどは一瞬で遠ざけた。アレクサンドラだって、人として評価されたわけではなくて王太子の庇護があると評価されたからこそこうして仲良くしているのだ。


 それなしに、認められたマルクという先生は本当に人望があるのだろう。そんなことを考えながら会場を眺めていると、少し離れた場所に人だかりがあるのを見つけた。


「……あれは何?」

「ディラン・ランチェスター公爵令息では」


 シリルの言葉で、アレクサンドラは顔を引き攣らせる。別にあの人だかり光景が不快だったわけではない。ディランに同情したからだ。


「どうしてあんなに人に囲まれているの?」

「社交の場含め、彼がこういう場に出る機会がめったにないからでは? 私も兄の代理で社交に参加することはありますが、ランチェスター公爵令息を見る機会はあまりないですね。あっても面倒そうな人と話し込んでいることが多い」


「……なるほど、大体わかったわ」


 一ヵ月ほど前、学長室で、ローレンスがディランの多忙さについて確認したのを覚えている。ディランの従者クリスが、主人はしばらくは多忙で動けないという趣旨の回答をしたので、ローレンスは帳簿の調査について自分で行うと宣言した。


 けれど、もしクリスがいなかったら、一連の調査は全てディラン・ランチェスターに押し付けられていたのかもしれない。


「彼、あの男のお気に入りだから大変そうね」

「あなたも同じようなものですけどね」

「わかっているのだったらもう少し助けてくれない?」


「嫌です。私は国家会計局にキャリアで就職したい」

「本当に打算的ですわね……いっそ清々しいわ」


 そんな話をしていると、手にしていたグラスに影が落ちた。


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