第23話
霧島凪が学校に来なくなってから、一週間が経った。
「ねぇ、暁人、快。霧島さん、本当に大丈夫かなぁ。お見舞いのメッセージ送っても、一言『大丈夫です、気にしないで』って返ってくるだけで……」
お昼休み。いつものように屋上へ続く踊り場で広げたお弁当を前に、紬が心配そうに眉を下げてスマホを見つめている。
その隣で、俺と快は、喉に詰まりそうな唐揚げを黙々と咀嚼していた。
本当のことなんて、絶対に言えない。
彼女は風邪なんかじゃない。俺たちの目の前で、あの細い腕で、化け物の腕をハサミのように切り落とした、政府の秘密組織の戦闘員。そして、俺たちを監視していた人間だなんて。
「……ま、まぁ、あいつもしっかりしてそうだしさ、大丈夫だろ。長引く風邪だってあるだろ」
俺の精一杯の誤魔化しに、快はただ黙って飯を口に運ぶだけだった。
あいつはあれから、自分の右手を異様なほど気に病むようになった。見た目には何の変哲もない、いつも通りの高校生の腕だ。だけど時折、授業中に鉛筆を握るだけでバキリと芯をへし折ってしまう。その異常な筋力を、快が怯えるような目でじっと見つめているのを、俺は隣の席で気づいていた。
変なことは、もうしちゃダメだ。
あの路地裏で救助隊員の男に言われた「おとなしく家に帰ってね」という、笑顔の裏の冷たい警告。あれが、重い足枷のように俺たちの足元に絡みついている。
「あ、そうだ! 今日の夜、二人の大好きなハンバーグにするね。だから今日も、真っ直ぐ帰ってきてよ?」
紬が、腫れのひいた綺麗な瞳で、祈るように俺たちを見つめて笑う。
昨日大泣きさせた負い目がある俺たちは、揃って「あぁ、分かってる」と強く頷いた。
これ以上の異常はいらない。俺たちは、この優しい紬が作ってくれる平穏な日常に、必死にしがみついていればいい。
そう、思っていたのに。
――放課後。
紬が図書委員の居残りで遅くなるというので、俺と快は二人で先に校門を出た。
どんよりと低い雲が垂れ込め、今にも雨が降り出しそうな嫌な天気だった。
「……なぁ、暁人」
並んで歩く通学路、快がボソリと声を漏らした。
「俺たちの身体、本当にどうなっちまったんだろ。腕の見た目は何ともねぇのに、なんか……時々、皮膚の裏側が、変にドクドク脈打つっていうか。力が溢れてきそうになるんだよ」
「……気にするな。気のせいだ。疲れてるんだよ」
言い聞かせるような俺の言葉は、酷く虚しく響いた。




