第19話
ーーーー霧島凪ーーーー
〇月〇日
あの日の生き残り3名の監視任務のため、指定の高校へ編入。
……バカバカしい。
いまさら一般人の学校なんて行きたくないのに。年齢が近いってだけで、まさかの高校生に変装して登校させられるなんて、上層部の正気を疑う。
「霧島さん、教科書見せてくれてありがとう」
席が隣の監視対象3が話しかけてくるが、適当に笑顔を作って受け流す。一応、高校生っぽく振る舞えていると思うけれど、胃が痛い。彼らの監視って、一体いつまで続くんだろう。
〇月〇日
今日も3人の観察。彼らはいつも一緒にいる。
監視対象1と監視対象2が本当にくだらないことで言い争い、それを監視対象3が苦笑しながら宥めている。あの日、あの地獄のような施設を生き残ったというのに、信じられないくらい普通の、ただの高校生に見える。
お昼休みに監視対象3から「良かったら一緒に食べない?」と声をかけられた。断る理由もないので輪に混ざる。監視対象2が購買の焼きそばパンを喉に詰まらせ、監視対象1がそれを冷めた目で見ていた。観察記録としては「極めて平穏」としか書きようがない。
〇月〇日
白峰紬のことが、少しずつ分かってきた。
彼女は、本当に、とても優しい。私が任務のために作った偽物の笑顔に対しても、あの子はいつも本物の、春の陽だまりみたいな笑顔を返してくる。
放課後、雨が降った。傘を忘れて困っていた私に、彼女は「一緒に帰ろ!」と自分の小さな傘を差し出してきた。狭い傘の中で、彼女の肩が濡れていた。
彼らはみんな本当に仲が良い。お互いがお互いを傷つけないように、尊重して、大切にしている。任務を忘れて、彼らにはこれから先、ただの普通の人間として、普通に生きていて欲しいと思ってしまう瞬間がある。プロ失格だ。
〇月〇日
上層部から通達。
監視対象2のバイタルに「異常」が発生しているそうだ。内なる力の覚醒の兆候が見られるらしい。早く手を打たなければ彼自身の精神が持たない。監視を強めなくては。
その一方で、今日はお弁当の時間に、紬から彼らのことが好きだと相談された。「二人がたまに、遠くに行っちゃいそうな顔をするの。だから私、二人の帰る場所になりたいんだ」と、顔を真っ赤にして健気に語る彼女を見て、胸の奥が痛んだ。私は任務ではなく、私の本心から、紬を応援したいと思った。あの子のあの温かい居場所を、何としてでも守ってあげたい。
〇月〇日
深夜。繁華街の裏路地にて、野良の鬼を一件処理。
……最悪。本当に最悪。
勝手に深夜の街へ飛び出した監視対象1と監視対象2を慌てて追いかけたら、まさかその先で野良の鬼と遭遇するなんて。
状況が状況だったから緊急的に鬼を討伐したけれど、あいつらの目の前で武装を使う羽目になり、完全にこちらの正体がバレた。
たいして強くもないくせに鬼を相手に死にかけの無様な醜態を晒して。自分たちの無力さも知らずに、何がしたいの。
紬が、どれほどの思いで家でご飯を作って帰りを待っているかも知らないで、あの子のあの純粋な思いを、一番近くにいるお前たちが踏みにじってどうする。せっかく紬が命懸けで紡ごうとしている「普通の日常」を、お前たちが壊してどうする。本当に、バカな子たち。
……いや、それ以上に今は自分の立場が最悪だ。
独断で動かずに、すぐ本部に連絡して応援を呼べばよかった。事後報告になったせいで、上層部から大目玉を食らうのは確実。なんであいつらの尻拭いのために、私がこんなに怒られなきゃいけないの。
正体は隠し通せなかったし、怒られるし、本当に最悪。
次の登校日、どんな顔してあいつらに会えばいいのか、今から心底憂鬱でしかない。




