第9話 少女を怖がらせる奴は〇す!
オークション会場、その中でもVIP席と呼ばれる場所がある。通常座席6つ分ほどを一つの座席として確保した場所。丁度3人並ぶにちょうどいい席に俺たちは通されていた。
そこに、コルネリウス、俺、フェリシアの順で並んでいた。オークションは既に中間くらいまで来ており。金額も金貨300を超えるモノばかりだ。なかには当然、獣人やドワーフなどの異種族もおり、思わず眉間にシワが寄る。
「あなた様は、こういう時ばかりは本気で考えるのですね」
いつになく真剣な表情で商品を見定めていたからだろう。俺に自然な、それも少し優し気な笑みを見せる。……感情を出せとは思ったが、揶揄えとは言ってない。俺は少し頬を膨らませながらそっけなく返す。
「ほっとけ」
確かにいつもの自分は、欲望全開って感じだけど、こういう時は真剣にもなる。誰かの人生を俺達が決めることにもなるのだ。その事実からは、目を逸らしたくなかった。
ただ、彼のおかげで少し肩の力を抜けたのは事実だった。そこには感謝をする。
にしても、いつ来ても、この空気には慣れないな。重く、濁った熱気。ざわめきの奥に、隠しきれない欲が滲んでいる。
ここに集まる人間は皆、同じだ。金で手に入る"何か"を求めている。物であれ、人であれ。壇上に並ぶ品は様々だ。遺跡から発掘された古代の遺物。あるいは、"神器"と呼ばれる類の武具。もっとも、ここに流れてくるのは精々、準神器止まりだが……。
本物は出回ることがない。誰かが見逃さない限り、国が押さえるからだ。当然だ。力を管理できない国家は、いずれ内から崩れる。
だからこそ国家が、本当に必要なものだけを取り上げ、それ以外は市場に流す。均衡を保つために。そして、全て取り上げないことで適度に発散させるために。
——まあ、欲望という部分では、俺も人のことは言えないだろうな……。それに俺自身の手元にも一つ、表に出せば騒ぎになる類の品がある。使う機会などほとんどないが、だからといって手放す気もない。
そんなことを考えているうちに、オークションは次々と進んでいく。
「次の品は——」
視線だけを動かす。檻の中。鎖に繋がれた一体の獣人。筋肉の張り、立ち方、視線。戦闘経験はそれなりにある。
(護衛向きかな?)
頭の中で、自然と計算が走る。月あたり金貨五枚。長期運用で600は見込める。維持費、場所、消耗。諸々を差し引けば、500枚が妥当な線だな。などと考えていると……
「——金貨515枚で落札になります!」
木槌が鳴る。
(……そんなものか)
予想よりわずかに高い。だが誤差の範囲だろう。そんなことを思いながら彼を見つめた。
先程から見るのはやはり、多種族ばかり。ここに人が出ることは滅多にない。なぜなら、人間だけを扱う市場は他にもあるし。オークション的にも盛り上がらない。だから、ここに並べられるだけでもかなりの価値が判断された者だけだから通常の人間は並ばない。
通常であれば……
「さて、マダム、フランソワーズが金貨2000枚で落札するなど、盛り上がりを見せてオークションもこれがラスト」
司会者が、落札したものを立てつつ、続ける。周囲の観客の方も期待の眼差しで壇上を見つめた。
「次の商品は——こちらの少女となります」
白髪の髪、サファイアを連想させる蒼色の瞳。全体的に肌は白く、華奢な体からは儚いというイメージが先行する。一人、自分の運命を悟り、ただ無表情で俯いているその表情に胸が締め付けられる。
観客の方は途端に興味を失う。確かに彼女の服装から見てもかなり裕福な出だとは分かる。けれど、それは対して珍しい部類に入らない。が、次の言葉で皆は一気に興味を持ったようだ。
「この物は、敵国の出身。とある戦争の捕虜が釈放されるまでの人質として扱われるはずの存在でした——」
そう司会者が観客を煽っていく。そう金額を吊り上げるなら当然だ。
「戦場にて戦った勇敢なる兵士を殺害した集団と引き換えに残ったのは、たった一人の少女。それが、このエリシア嬢になります」
オークション主催側として当然だと理解は出来るの。だが、少女に向ける、その殺気だった視線、怯える少女の姿。その光景に自分の中でも沸々と怒りが湧いてくるのを抑えられない。
——少女を怖がらせるな、殺すよ!!
思わず、殺気を放ちそうになるのを横にいたフェリシアが俺の手を摑んで宥める。その優し気な笑みに俺は深呼吸をして息を整える。
悪い癖だと分かっていても、つい、少女のことになると我を忘れてしまう。その様相に左隣に座っていたコルネリウスは、少し呆れたように俺を見つめる。
……いや、こればかりは仕方ないからね。この激情を抑えるという方が無理だ。ここまで強い感情を持っていなきゃ、俺はここまで強くなれることはなかった。だから俺は少女達に感謝と敬意を示んだ!!
そんな内情とは関係なく進む。
「さて、今回の保釈金は金貨800枚。そこを最低ラインとして、オークションを開始させていただきます。では、オークション開始」
「850」
「850出ました。次の方は」
オークションが開始され、少女に向ける残虐な視線、劣情に満ちた視線はより一層強くなる。だからこそ、その視線を俺に集めてやろうと思った。
「2000」
それに、オークションの司会をしている人が、観客を煽るためにわざとらしく、驚きの声を上げる。当然、それを宣言した俺に視線がいき、瞬間、彼女の落札を考えていて、殆どの人間が俺から視線をそらした。
「まぁ、当然ですよね。ここであなたと敵対した人が没落したというのは有名ですから……」
コルネリウスは小さくそう呟く。
だって、少女を落札するような奴だ。当然、暴力をふるっていたり、雑な対応をするやつがいる。そんなやつは当然敵として認識し、悪事を摑んで徹底的に追い込む。当然武力行使を試みた奴らもいたが、たった一人で壊滅に追い込んでからは、こうして挑むやつが少なくなったのだ。
フェリシアの方もその事実には苦笑いを浮かべていた。……え?嫌いになっていないよね。と不安になったのを察したのか、フェリシアはふっと優しく笑い。俺の手を握ってこくりと頷いた。それに安堵し、視界を前にやる。
すると、ずっと俯いていた少女も今回ばかりは俺の方に視線をやる。だから、やさしくにこりと微笑んだのだが視線を逸らされた。やっば……まだ、殺気立っていたかな。そう反省する。
だが、当然俺を知っている者ばかりではない。目の前の少女に釘付けの男性もいる。脂ぎったふとったおっさんだ。
「2500」
と告げながら、少女のふとももや下腹部を丹念に見つめている。もう落札した後を考えているのか?
(……殺すぞ!)
と思いながら、金額を一気に吊り上げる。
「4000」
するとようやく俺を認識する。
「4500」
「5500」
「6500」
「7500」
彼が出せるギリギリの金額が7400であることなど、コルネリウスに調査させて当然知っている。競合を調べないバカはいない。だって、敵対する可能性があるのだから。そこに金銭はおしまない。
彼は悔しそうに歯を食いしばり、よだれをたらしながら、俺を睨み付けた。気色悪いな。そう思いながら無視する。
「さあ7500、7500です。これ以上は——」
そう言うが、誰の反応もない。それを確認し、木槌が落とされる。
——カンカンカンッ。
「元子爵家の令嬢、エリシア嬢は、レオニス様に落札されました」
こうして俺は、彼女を迎え入れることが出来た。俯いている彼女を見て思う。絶対に笑顔にして見せると!
いや~、にしても白髪の子ってめっちゃタイプなんだよね。銀髪と同じくらい好き!!特に、光に反射した時のキラキラと輝く瞬間を拝みたい!!などと、俺の思考は既に未来の事を思い浮かべていた。
その間に、オークションを締めくくる挨拶が終わり、俺は早速落札したもののみが通させる場所へと移動していく。コルネリウスとはココで別れることになった。
移動した先、10畳ほどの部屋には当然、先ほどの少女が座っていた。
その少女は自分が奴隷になったことを受け入れているのだろう。酷く静かだった。少し物憂げな表情で俺を見つめる。できれば笑った顔が見たいのだが、それは難しそうだ。なら、手短に用件を済ませよう。
俺はあらかじめ用意していた袋を奴隷商の主、セルギウス・レイヴンハートに手渡す。こいつ自身伯爵家の出身とあって、魔力量はかなり多い。更に鍛えている分、下手な侯爵家よりも断然強かったりする。
俺でもこいつを倒すとなると、最低でも5分はかかる。相変わらず、つかめない表情で淡々と案内をしていく。
「それではこちらにお手を、契約のために血判の用意もよろしいですか?」
「あぁ」
いつも通り、俺は風魔法で指を切り、血を魔力で操り、手のひらに拭う。そして、契約書に貼り付ける。魔法陣の上に少女と二人で立ち、契約が遂行されるのだった。




