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かわいい少女に癒されたい—転生したので、居場所を失った少女を拾うことにした—  作者: 夢見る冒険者
白髪の少女編

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第8話 理解が及ばないことに人は恐怖をする

いよいよこの部屋から出ることになる。奴隷のオークションが始まるそうだ。最後の願い、彼に、自分が考えた原稿を渡す。どうかこれを学会に提出してほしいと。


彼は一瞥し、その内容を確認すると、


「……ああ、これか」


そういって、手元の書類を部下である女性に渡す。


「これを部屋に戻しておけ」


そう伝えながら私の方に視線を戻した。


(……良かった。どうやら破り捨てられることはなかったようだ)


数年後でもいい。私を別の人が必要として、肉体的な苦痛から解放される可能性はある。その希望だけでも残しておきたかった。


「君らしい見解が入っていて、素晴らしい」


奴隷商の主で男性は少しだけ、それでも今まで見せなかった笑みを浮かべる。


「けどね、これはほんの数年前に、とある学者が解いているよ。その先についても近々発表があるようだ」


そう告げられた言葉に私は絶望する。私が一生懸命考えたものは、もうすでに誰かが発表したものだった。私の"見解"とは違い、発表だ。


公に発表するためには、誰もが分かりやすいようにまとめる準備期間も当然ある。恐らく見解となると、それよりも5年は先に考え出されていたはずだ。屋敷に籠っていたせいで、私は知る事が出来なかったのだろう。


目の前の男性はその先の見解について少し話してくれる。その数式に絶望する。同時にひどく美しく感じて涙をした。これが多分、私が最後に人として生きた意味なのだろう。そう思った。私を満たしたのは、とある学者が記した数式。


その発起人はレオニスというらしい。彼自身は答えを知っていただけだなんて、そう笑って告げていたらしい。なら、その人こそ神にでも愛されたということだろう。私は見捨てられてしまったけど……。それでも、こうして美しいものに最後に出逢えたのだ。そこに、少し満足感がある。


私は彼に従って、白い廊下を歩いて行く。自分が商品として紹介されるまでは少しだけ待つらしい。どうやら、私はトリらしい。それもそうだろう、他国の令嬢なんて誰もが興味を持つに決まっている。


私の番が近づくにつれ、徐々に歓声は大きくなっていく。さすがマダムですという称賛の声。激しく叩かれる木槌の音。舞台から降りてくる奴隷の悲しげな表情。その子が小さい少年だったからだろう、絶望した表情を見るたびに胸が苦しくなっていく。


自分も同じなのだと、その事実に気づかされるから。やがて階段を上がって、私はオークション会場の光が当たるスポットライトの先へと歩いていった。


舞台は全面板状のもの。そこを正面にして円形に広がっている。後ろは壁になっているから270度くらいだろう。すべての人間が一様に私を見つめている。


だいたい一万人といったところかな。彼らは私を品定めするように、じろじろと見ている。大半の人間はそこで興味を失う。ただの人だから。


それに対して司会者はにやりと笑う。若い男性だ。オークション会場の司会者特有のピッチリとしたスーツを着こなした彼が、煽るように言葉を発した。


「この物は、敵国の出身の子爵令嬢。とある戦争の捕虜が釈放されるまでの人質として扱われるはずの存在でした。しかしながら諸事情により、その役割は放棄され、勇敢にも戦った、カーネル男爵の第3子を殺害した集団はのうのうと領地へ戻りました」


その瞬間、みんなの表情が変わった。敵意を持った視線、残虐な笑み、より情欲を高めた視線。様々な感情が一心に押し寄せる。それに気持ち悪くなり、吐きそうになる。


もうすでに先程の数式のことなど頭にはなかった。ただ、ただ、怖いという感情が胸を渦巻く。それに構うことなく司会者は続ける。


「戦場にて戦った勇敢なる兵士を殺害した集団と引き換えに残ったのは、たった一人の少女。それが、このエリシア嬢になります。こうして世にも珍しい《《敵国の令嬢》》が、オークション会場へと流れ込んできました」


瞬間的に、心ない言葉がなだれ込んでくる。それを司会者が宥めながら、続ける。その形相に私はただ、俯くことしか出来なかった。


「さて、今回の保釈金は金貨800枚。そこを最低ラインとして、オークションを開始させていただきます。では、オークション開始」


「850」

「850出ました。次の方は……」


瞬間、 とある男性の透き通るような声が、会場全体を震わせる。


「2000」


それに、オークションの司会をしている人も、驚きの声を上げる。


「にっ、2000が出ました。2000!!」


突然金額を吊り上げたそいつは誰だと皆の視線が私から離れる。たくさんの敵意の視線に私はようやく解放された。それに少しだけ肩の力を抜く。 呼吸を整えるように肩を上下させ、私もその視線の先を見つめる。


釣られるように見つめた先にいたのは、若い少年だった。たぶん自分とそう変わらない少年だろう。 彼は私の方を見て、視線が合うとなぜか、にこりと笑った。優しげな笑みで。


その意味がわからなかった。けど同時に、それは奴隷商が見る目と重なって、恐怖心を感じ、さっと視線を逸らす。


ただ、この少年のおかげだろうか?先程まで敵意を向けていた人達の視線が減る。まるで、彼から逃れるように、彼に存在がばれないようにと身を縮こまらせているように感じる。


なるほど、彼もまた、このオークション会場で有名であり、怖れるべき相手ということだ。


そんな人が私を落札しようとしている。その得体の知れない怖さを感じる中、オークションの司会は続ける。


「2000以外におりませんか?」


というと、


「2500」


とさらに金額を釣り上げる男性の声がした。その男性はかなり大柄な男だった。先ほどの男性とは違い、少年とは違って30代後半だろう。


ひどく太った姿、髪の毛は大部分を失っているが、服は豪華。そして私を見つめるその視線は、私の太ももや胸、そして下腹部だった。 舐めるように見つめるその視線に、思わず服の裾をぎゅっと握ってしまう。瞬間、先ほどの男性が金額を上げる。


「4000」


と。太った男性は、もはや私を見る余裕などなく、それでも金額をつり上げる。


「4500」


若い少年は即座に吊り上げる。


「5500」


それに悔しそうにしながら、金額は跳ね上がっていき、


「6500」


と太った男性は宣言した。また間髪入れずに少年は応える。


「7500」


それは通常の人が900年以上は余裕で暮らせる金額。子爵家の令嬢ということを加味してもかなりの金額だ。太った男性は悔しそうな表情を浮かべ、少年を睨み付ける。が、少年はそれをまるで意にもせず、ただ、私の方を優し気に見つめていた。


「さあ7500、7500です。これ以上は——」


そう言うが、誰の反応もない。それを確認し、木槌が落とされる。


——カンカンカンッ。


「元子爵家の令嬢、エリシア嬢は、レオニス様に落札されました」


そう告げると同時に、会場から拍手が起こる。それを満更でもなく受けるかと思ったが、彼はただ私のことを見つめているだけだった。 なぜか安心したように、ほっと肩を下ろしながら。


オークションが終わり、 司会者が何やら閉会のお話をする。その間に私はまた白い廊下を通って、一つの大きな部屋に移動させられる。


それにしてもレオニスってもしかして……それは先程の数式を発表した男性の名前だった。……いや、ありえない。準備期間を含めたら、彼が6歳くらいで発表したことになる。そう首を振って否定する。


私は先程の部屋とは違う、一つの大きく豪華な部屋に移動していた。赤くふかふかしたソファに座らされる。まるで貴族の執務室を連想させるような、そんな豪華な場所。執務用の席と、4人ほどが応接するための場所。その一席に私が座っている。


部屋の大きさは25㎡くらいだろう。そこに一人ぽつんと座る。数分もしないうちに、奴隷商の主と、再程私を落札した男性が通される。近くに綺麗な赤髪の女性を連れて。


私を落札したのは金髪碧眼の少年。 顔は骨格がしっかりしており、すらっとした顔立ち。その要望からはどこか、物語の英雄を連想させる。目の力強さからか、それとも奴隷商以上に強いと錯覚する程の魔力の圧力からかは分からなかった。


只者ではないその雰囲気に、自分が本能的に委縮するのが分かる。


「落札おめでとうございます、ヴァルディス男爵」

「堅苦しい挨拶はやめにして、早速契約に行こうか」

「はい」


ヴァルディス男爵……!?。その名前を聞いて私は血の気が引いていく。先の大戦、最大の功労者にして、戦を収めた者。最強である。15人の存在。その12位に位置する異色の天才。


その彼が私を求める理由など、私を苦しめる以外はないだろうと……。兵士の恨みを晴らすためか、それともその兵士たちに私を嬲らせるのか。そう恐怖する。その様子に彼が気付く。瞬間的に、自分が誤った対応を取ったと自覚する。それでも彼は愉悦ではなく、悲し気な表情を浮かべた。


(……?)


意味が分からず思わず彼を見つめ返してしまう。


「それで、状態は?」

「ご安心ください。誰も傷つけておりません。それに男性陣は指一本触れさせておりません」

「そうか、なら……」


少年はいろんなことを奴隷商人に質問し、奴隷商の男性がそれに応える。少年は納得数rと、彼に袋を手渡す。


「金貨7800枚だ。これで足りるだろう?」

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」


奴隷商は一瞬まゆをぴくりと動かしつつ、それを丁寧に下賜されたもののように両手で受け取る。


「いろいろと気遣ってくれたみたいだしな。いつも通り少し色をつけておいた」

「ありがたく存じます」


そういって受け取った金貨を傍にいたものに差し出す。それを持って彼女は去る。きっと、別の場所に移動して金貨を数えているのだろう。疑っていないからこそ、彼は職員へと任せ、この場で数えなかったのだ。


男爵と奴隷商は軽く雑談をする。数刻もすれば職員が入ってきて、奴隷商の元締めに耳打ちをする。


「レオニス様、ありがとうございます。金銭の方を確認させていただきました」


そういって彼は少し頭を下げる。


「それでは早速契約に参りたいと思います。ご内容はこちらの書類になります」


少年はさっと目を通し頷く。慣れているのか、それとも情報の処理する速度が速いのかわからない。ほんの数秒で、書類に目を通し終わった。


「それではこちらにお手を、契約のために血判の用意もよろしいですか?」

「あぁ」


そういって彼は指を差し出すと、すでに血が流れていた。見えない速度で、彼は指を切ったのだろう。その事実に、驚きを隠せない。


彼は、自身の血を手のひらにぬぐい、契約書に貼り付ける。 そして魔法陣の上に私と二人で立ち、魔法が起動された。やがて光が収まり、契約が完了する。


「正式な手続きはこれにて、終了になります。また、ご贔屓に」


そういって、彼が頭を下げる。今度は先程よりも深く。その態度に理解した。これで私は彼の奴隷になったということだと……。


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