第40話 継承の光
「お前は良くやったよ、流石に1人で30名近く削られるとは思っていなかった」
「それはお褒めに預かり光栄ですって返した方がいいのかな?」
「あぁ、称賛として受け取れよ。ボロボロになってなお、立っている精神は英雄そのものだよ」
英雄ね。何かと喩えたがる英雄。きっと彼にとっては退屈そのものお話し。だからこそ、そんな気軽に使えるのだろう。
どんな英雄も自分には敵わないという自信が彼にはあった。一切の傷を負わずに、俺は追い詰めることが出来るという自負に満ちていた。
「最後の手土産だ」
そう告げると、相手は魔力をみんなで詠唱しだす。最後は派手に決めると、そう決めていたのだろう。息のあった魔法で一つの魔法を作る。
狙う相手である俺を視界に収めながら、詠唱しだす。
———それを待っていたよ。
俺はにやりと笑い、アルシェに手を上げて合図をする。アルシェはここでようやく初めて魔法を発動させる。無詠唱魔術、その代償として多大なる魔力を払いながらも、膨大な魔力が一箇所から発せられる。
瞬間、誰もが驚愕する出来事が現実を埋め尽くす。
光属性、最上位。ディヴァイン・スピリット。闇属性を扱う彼女が使えるほどのない魔法を使用する。先程まで息の合った詠唱をしていた彼らも動揺したのだろう。目の前の強敵が、一瞬にして魔力を回復したことに。
同時に、それを行使した存在が魔族と罵った相手であるという事実に。そんな彼らの動揺を俺が逃すはずもなく、無詠唱で魔法を発動し、放つ。
詠唱に集中していた。全ての者が呆気に取られる中、数名だけがその魔法に対抗し、防御の結界と神器を発動する。が全員に間に合ったわけではない。今の攻撃で、10名ほどを削った。
「これで、残り11だな」
その宣言にゼルヴァインは、ニヤリと口端を歪めて、興奮したように叫ぶ。
「やっぱり最高だぜ、レオニス!!」
雄たけびを上げる彼は目を血走らせて俺を見つめる。同時に自身の魔力を高めて、何かを詠唱しだした。それはかつて俺が捨てた選択肢。そして、王族にとってはなじみ深い魔法。——召喚魔法だった。
「古の契約により、我が呼び声に応じよ、フェニックス!!」
(……嘘っだろ!? 使えなかった筈なのに……)
驚いていているなかで、既に召喚魔法は全て詠唱が完了していた。目の前に現れたのは、死と再生を司る、最強の神獣。それが目の前に顕現する。瞬間放たれた炎を弾き、アルシェの防御魔法をさらに強化する。
(クソッ、完全に予想外だ……)
古くから契約しているからこそ、召喚できる神獣。王族のみが契約を許された、その魔獣に俺は相対する。
肌を照り付けるような炎の輝き、空を覆うかと思う程に大きな体躯。自信の魔力をも上回る神獣に剣を構える。機会を窺いながら、剣で斬りつける。普通な致命傷になる傷も魔力を糧に、フェニックスは傷をいやす。
そのフェニックスも一方的にやられるだけではなく、地面すらも溶かす炎を連続で放って来る。俺たちの陣地全てを焼き尽くすかのような魔法を防ぎつつ考える。これじゃあ、じり貧だと。なにより、最悪なのはフェニックスの特性により、王子の魔力が8割まで回復してることだった。
(クッソ理不尽過ぎんだろ)
なんて思いつつ覚悟を決める。一撃で葬り去るしかないと。そう覚悟を決めて詠唱しだす。
「我が呼び声に応じ、魔力を糧とし、全てを貫く意志となれ、エンシード!!」
この魔法は剣に魔力を乗せれば乗せるほど威力を増す魔法。さらにこの剣の特性。光属性を何倍もの威力へと跳ね上げる魔法剣。その威力は俺の5割の魔力を使って、神獣の下にいた数名を巻き込み、戦闘不能にする。
「はぁー、はぁー」
肩で息をしながら見つめた相手は。もやは数名だった。残り8名。それを残りの魔力全て使ってなんとか倒し切る。思わずえずきながら見つめる相手は、一人。最早全開に近いほど回復したゼルヴァインだった。
ここにきて、なんとかアルシェが魔法を放つがそれでも彼に届くことはない。そうしてアルシェの魔力も殆どつき、彼女を守っていた、防御魔法も消失する。それを確認した王子は、ふっと笑みを零した。
「にしても、ここまでやるとは想定外だった」
そう告げる王子は未だに余裕そうにしている。それは身に付けている数々の神器が彼を守り、魔力もほぼ全回復しているからだろう。この状況が俺たちにとって、絶望的であると王子の方が良く分かっている。
だから、俺に現実を突き付けるように歩み寄ってくる。そこから逃れるように俺はアルシェのもとまで退却をする。ただ、走って。その場から逃げるように去る。
それを愉悦の笑みを浮かべて、一歩一歩追い詰めるように王子は俺たちの方へと向かって歩いてきた。
「そうだ、最後に教えておいてやるよ、俺もあるんだぜ、切り札が。……こいニーゲンベルグ」
そう告げるのは神器の中で、最強の5剣の一振りだ。切れ味に関しては類を見ないほど鋭い。
「安心しろよ」
王子は、口元を歪める。
「そこの女も、奴隷も少し可愛がってやる程度で済ませてやるから」
それが慈悲だと呟く彼を俺は真っ直ぐ捉える。そしてアルシェに問う。
「なぁ、アルシェ。ここから勝てると思うか?」
少しの沈黙のあと、彼女は首を振った。
「……無理。私たちは、負ける」
そう淡々と告げた彼女は、それでも悔しそうに唇を噛み告げる。
「それでも、負けたくない! レオニスと一緒に勝ちたい」
(……そっか)
なら。俺達二人はきっと勝てる。互いの意志を共有し、二人の意志を剣に宿す。そのイメージをアルシェに魔法で共有する。
「これって……」
「うん。アルシェが信じているなら、きっと勝てる。俺達二人なら勝てる」
二人して、剣に手をかける。この神器、セプテンルクスは一人では決し真価を発揮しない神器だ。複数人の意志を乗せてこそ、その真価を発揮する。それに光属性合わされば俺達は彼を倒せる。
王子を倒す。その意志を二人で剣に乗せ、魔法を違うことなく、合唱する。
『天に座す七つの星よ、今ひとたび我が手に集え。迷いを断つは一筋の慈悲。——』
王子はその最後のあがきをただ笑って見つめる。自身には攻撃を防ぐ手立てがあるのに無駄だとそう思っている。
『我らの意志は一つの光となりて、偽りの戴冠を打ち砕かん』
堂々と俺達の前に立ち、剣を肩に掛けながら、俺達をすら笑っていた。だからこそ、この技は確実に王子を打つ。
『——顕現せよ、セプテンルクス!!』
二人の魔力が意志が一つの輝きを持って増長する。完全なる複合魔法。その威力は通常の数倍以上に膨れ上がる。それは王子が持っている、3度ほど攻撃を相殺する、神器すら貫通して、王子を穿った。
持っている剣でその光から逃れようとするが、それもかなわない。数刻もすれば、その場に立っているのは経った二人。俺とアルシェだけだった。
掲示板に書かれた敵チームの名前が完全に消失し、俺達は勝利した。それを確認し、二人拳を合わせるのだった。




