第41話 権能
俺たちを迎え入れてくれるのは、いつものように笑ってくれる二人で、それでも一番にかけ寄ってくれたのは、意外にもフェリシアだった。俺たち二人を抱きかかえるように、抱きついてくる。
「……おかえりなさい」
けれど、俺たちにそれを受け止めるような力はなくて、三人して、周囲の人並みから離れた、芝生に倒れ込み、三人で寝込んで笑いあった。
柔らかな草の感触。夜風に揺れる木々の音。そんないつもの日常にふと自分でも気が緩んでいく。
「ふふっ……二人ともよく頑張りました」
「あぁ、特にアルシェが良くやってくれた」
「レオニスの方が活躍した」
そんな何ともない功績の押し付け合いが、ひどく心地いい。人知れず、笑いあった。互いを認め合うように。
その日は、そのままアルシェを家へ招いた。五人で食卓を囲み、並べられた料理を口に運びながら、ささやかな祝賀会が始まる。
最初こそアルシェは落ち着かない様子だった。
見慣れない空間。
騒がしい食卓。
自分へ向けられる視線。
それらに戸惑っているのが、それでもミアハもニィナも好意的に接するからだろう。だんだんと緊張がほぐれていき、楽しそうに会話する。その中で一人だけ、影があるように感じたから、食事を再度調達する際に声をかけた。
「もしかして、あの試合見てたのか?」
「えぇ、あの水晶から見てたっす。さすが、ご主人様っすね」
どこか感心したように笑いながらも、その目だけは妙に真剣だった。そして戸惑いながらも彼女は口を開く。
「でも、一つ疑問があるっす」
皆に聞こえない声量で俺にだけ尋ねる。
「……ご主人様は、私たちを守れるんすか?」
それは、誰かがいつか聞かなければならない問いだった。楽しい時間に埋もれさせていた、不安。これから先、必ず直面する現実にただ一人、向き合っている。
俺は少しだけ笑って、逆に問い返す。
「ミヤハは、どう思う?」
「無理っす」
即答だった。けれど、それは失望ではない。現実を理解しているからこその言葉だった。
「厳しい言い方になるっすけど、学園の全生徒が押しよせて来たら、この場所はすぐに埋没するっす」
「うん。俺もそう思う」
ミヤハは目を見開いてこちらを見つめる。否定されると思っていたのだろう。
「……えっと、認めていいんすか?」
「うん。だって、素の俺の強さはあんなもんだから」
その事実は俺がよーくわかっている。それでも俺が余裕でいられる理由がある。そんなものが児戯だと思えるほどの力を俺が有しているのだから。
その余裕の表情を保ったまま、俺は静かに続ける。
「なぁミアハ、“権能”って、知ってる?」
その言葉に、ミヤハは小さく首を横に振った。だからこそ、ちょうどいいと思った。
「じゃあ、パーティーが終わったら見せてあげるよ」
そう告げながら、俺は窓の外へ視線を向ける。少し陽が落ちて、誰とも認識が付かなく特別な時間を感じる中で続ける。
「どうして俺が“最強”って呼ばれてるのか。そして、神様っていう存在が、どれだけ尊いのかをね」
その言葉をミアハ真剣な表情で受け止めた。
***
その後はミアハも楽しそうに笑いながら、みなを茶化して反応を楽しんでいた。こういった切り換えの早さという部分が俺は好きなんだろうな。なんて思いながら、俺はアルシェを褒める。頭にそっと手を乗せて撫でながら。
「よく頑張ったな、アルシェ」
と。彼女はその温もりを感じるように、目を細めて満足そうに笑みを浮かべる。いつものように慣れた様子で、受け入れていた。
そして、いよいよアルシェを学園へ送る前、俺は皆を地下室へ集めた。力を示すために。薄暗い空間。静まり返った空気。広さは100立方メートルほどの少し狭い空間い皆を集める。
「今回は皆に、一つだけ、俺が隠していた切り札を見せてあげる」
地下室に響いたその言葉に、皆の表情がわずかに変わった。
「切り札……?そんなもの、まだあるんですか?」
驚いたようにエリシアが問い返す中、フェリシアだけは何かを確信したようにふっと笑みを浮かべた。俺は小さく笑って返す。
「うん。フェリシアたち、最初から俺のそばにいた数人しか知らない力。権能って呼ばれるものだよ」
そういって、皆が少しだけ緊張したように見つめる中、エリシアがポツリと呟いた。
「それって、前にご主人様が言っていた……」
「そう、最強たる力だね」
そう答えながら、俺は静かに目を閉じる。深く息を吸う。自分という存在のさらに奥。魂のその先に神様の気配を感じて、使用する。
「——権能」
瞬間。空気が震える。暴風のような魔力が地下室を満たしていく。今までとは比較にならない。膨れ上がった魔力は、以前見せたもののさらに倍以上。王子の約10倍は誇るその魔力量にまず驚く。けれど、この力には先がある。
魔法を何度も発動する。けれど、
「なんで……減らないんすか……?」
最初に異変へ気づいたミアハがポツリと呟いた。普通なら、これだけの出力を維持すれば、一瞬で魔力は枯渇する。だが、俺を包む魔力は一向に衰えない。どれだけ放出しても。どれだけ魔法を展開しても。底が見えない。
「それが俺の権能の能力の一部だから。魔力を別の場所へ保管し、それを常時引き出し続ける力。無限とも思える魔力供給を俺は実現させることができる」
だけど当然それだけじゃない
「全てが完全詠唱と同じ威力」
「その通り」
無詠唱でありながら、魔力消費を抑え、威力は数倍に上る。そんな力に皆が戦慄するのが分かった。そして想像したのだろう。もしこの力を使っていたなら一瞬で決着したと。誰もが分かっていて、アルシェは興奮したように見つめる。けど、ごめん。誰でも使えるわけじゃないんだ。
「これは俺が最強って呼ばれる理由で、そして神様に認められて使えるようになった力だよ」
一般的な人間が絶対にたどり着けない境地。例え王族だろうと、名のある神と契約した権能持ちが戦ったら、100%権能を持っている人物が勝つ、最強の力だった。その力にミアハとニィナはどこか安心したように見つめている。自分の主人の力に、肩の力を抜いた。
その表情を見て、当時の誓いを思い出す。この権能を授かった時に、誓った想い。少女たちを守るために、強くあり続けると。そしてこれからも、俺は最強であり続けると。そう胸に強く想った。




