第4話 双子のシンクロする動きってついつい、目で追っちゃうよね?
……にしても、先ほどの光景は尊かったな。寄り添うように支え合う姿はやはり胸に来るものがある。
そんなことを思いつつ図書室に足を踏み入れる。そこは365度どこを見渡しても本に囲まれた、空間になっている。円形に広がる壁一面に歴史~子供向けの絵本まで、ぎっしりと収められていた。
中央には大きな長机が置いてあり、椅子が等間隔で10席ほど並べられている。その隣、子供用の小さな正方形の机の前に、一人の少女がぽつんと座って、本を読んでいる。
元商家の娘、アイラである。普段はほとんど感情を表に出さない彼女だが、本を読んでいる時だけは違う。食い入るようにページを見つめ、周囲の気配さえ忘れたように没頭していた。気付けば、いつも一日中この場所に籠っていることが殆どだ。
外見はプラチナブロンド色の毛先が軽く外側へ丸まったウルフカット。服装は青色を基調としたクラシカルで上品なドレスに、頭には同色のヘッドドレスがちょこんと乗っている。アイラだけは、特に着せ替えをしても嫌がらないので、自分好みの服をこっそり混ぜている。
澄み切った青い瞳には、いつもどこか遠くを見つめ続けているような、静けさが宿っていて、どこか儚さをいつも感じていた。だからかな、この子を見ているとつい、独り教室で窓の外を眺めていた自分を思い出す。そして、放っておけないと思ってしまうのだ。
アイラはいつも通り、俺が部屋に入った瞬間、本から顔を上げて、まっすぐこちらを見た。そして、何かを確認するようにじーっと見つめ、ぱたぱたと小さな足音を立てて近づいてくる。
いつも本に夢中になっているのに、なぜか俺が図書室に入るとアイラは決まって気付いてくれる。そして、遠慮がちに——それでも迷いなく、俺の服の裾をくいっと、引くのだ。
小さな指先。力は弱いはずなのに、不思議と無視できない引き方をする。アイラに視線をやると、そこには決まって、期待に満ちた瞳で俺を見つめる少女の姿がある。
「これ……」
そういって、自分の身体と大して変わらないほど大きな本を、よいしょ、と持ち上げる。俺が来ることを想定して、既に用意していたのだろう。入り口横に置かれた机に、何冊かの本が積み上げられている。
とてとてと必死に運んだであろう姿を想像して、身もだえそうになる。絶対かわいいよなその姿。もう少し早く来ていたら、その光景を拝めたかもしれない。そんな、後悔を感じつつ、尋ねる。
「読んでほしいのかな?」
「……うん」
こくりと、小さく頷く。俺の視線をしっかりと捉えて離さないその姿に苦笑しつつ、「じゃあ、行こうか」と言って席に座る。
この屋敷で本を読める人間は限られる。さらに、難読なものを解説しながら読める人間は俺以外にいなかった。こういう時ばかりは、公爵家に生まれてよかったなと感じる。
まぁ、種族関係なく幼い子供を集めていたら、勘当されたんだけどね……。
それでも、必要な教育に関しては、10歳には終えているので問題ない。その努力のおかげでこうして、少女から本を読んでとねだられているのだから、ほんっと努力して良かったと感じる。
あの時の俺、グッジョブ!!
そう思いながら、俺は少女を膝の上に乗せる。途端にふにゅっとしたおしりの柔らかい感触が膝の上に乗った。それと子供らしい優しい匂いも感じる。
そして、本を読むために前屈みになると、当然のように少女の背中とも密着するわけで、体温も伝わってくる。子供らしい、温かな体温を。それを感じつつ、俺は本を読み進めた。
いつものように三冊ほど読むが、それでもねだってくる。時間の許す限り、できれば四冊目以降も呼んでほしいのだろう。だが、それはできない。他にも確認しておきたいことがあるからこそ、ここを去らないといけない。
「ごめんね、アイラ。みんなの様子も確認する必要があるから。フェリシアお姉ちゃんに読んでもらってもいい?」
そう問いかけると、アイラは一瞬目を伏せて悲しそうな表情をする。胸がぎゅっと掴まれる気持ちを抱きながら、俺は首を振る。他の子もいるだろうと。平等に愛す必要があると。
やがて、少女は俯きながらもこくりと頷く。
「わかった」
そう頷いたのを確認し、俺は傍にしたフェリシアに指示する。
「フェリシア。悪いけれど、続きをお願い」
「うん、わかったわ」
彼女が頷いたことを確認し、俺は後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、その場を後にする。
「さて、ひとりになったことだし。鍛錬と、この後の計画。それに、あと三人の様子を確認しないとだな」
そう思った時だった。
——カシャン。
という乾いた音が遠くから聞こえる。その音に、多分ミレアかミリアのどっちかだな、なんて思いながら、足を向ける。案の定そこにはメイド服に身を包んだミレアとミリアの姿があった。傍には、奴隷時代から世話を焼いていたミアハもいる。
「いや~、またやっちゃったっすね」
俺の姿を確認したミアハは肩をすくめながら、呟く。二人が気負わないように、自分から率先して俺に話しかけてくれたようだ。明朗快活でからかい好きな彼女は、俺にどうするのか?そうにやりと笑って尋ねる。
その悪戯心に満ちた、どこかこちらを誘う表情のせいか、思わず胸に視線がいった。やっぱデカい!!
推定88以上はあるバストに、くびれのあるお腹、そして胸以上にあるだろうお尻。全体に敵にメイド服を圧迫するその素晴らしい、巨峰に敬礼せずにはいられない。(実際にはやらないけど……)
腰まで伸びるサラサラとした手入れのされた髪、その左側は一部編み込まれており、おしゃれも欠かしていない。彼女らしい細部までこだわる性格が出ていた。思わずまた胸に視線がいきそうになり、瞳が揺れる。
その凄く葛藤する中で、俺の存在に気付いた少女二人がもじもじして頭を下げる。
「ごめんなさい……」「ごめんなさい、ご主人様……」
二人の声は重なって、同時に頭を下げる。そのシンクロした動きに内心では思わず、(……おぉ)と感心してしまう。
双子ということもあり容姿が似ているが、アイラはパステルピンクの髪色に若干紫色を帯びたピンクの瞳。対照的にミリアはパステルブルーの髪色に青い瞳だ。二人とも腰まで伸びたゆるふわウェーブの髪型が特徴的な女の子だ。
性格面は結構違い、姉であるミレアの方は相手のことをよく見て、笑顔で接する。さっきも俺を敬称で呼び、姉らしく人をよく見ている。ミリアの方は、少し大人しい性格で、少し俯きがちなんだよな。
にしてもミアハがわざわざ俺に話しかけたのは、二人に気付かせるためか。その気づかいに感謝しつつ、二人を見つめる。
「それで、どっちが割っちゃったのかな?」
そう尋ねると、青く美しい瞳に影を落としながら、ミリアが少し躊躇いながらも手を上げた。
「……私です」
「そっか」
素直に答えてくれた彼女の頭に、俺は手を置く。そして、エレナに整えてもらった髪が、乱れない程度に軽く撫でた。
それに少し安心したのだろう。強張っていた肩の力を若干緩める。
「報告してくれてありがとう。それで、怪我はない?」
そう尋ねると、しょんぼりと項垂れた。もしかして……少し不安な気持ちを抱く。でもすぐに、ミリアはこくりと頷いた。それにほっと胸をなで下ろす。
にしても、反省している姿ってかわいいな~。犬が叱られた時のしっぽを下げて、しょんぼりしている姿を連想しながら思う。いや~、頭に手を置いて良かった~って。だって、彼女のこんな愛らしいの彼女を軽くなでれるんだもん。
今も頭を下げて反省する彼女の、サラサラな髪質を堪能しつつ。不安を取り払うように、俺は笑顔でなんてことの無いように告げる。
「そっか。怪我がないようで安心した~」
俺自身も少し大げさに、肩をほっと下ろしながら告げる。すると、ミリアは俺の反応を窺うように上目遣いでこちらの様子を見つめる。そして、俺が怒っていないことが分かったのだろう。ようやく、肩の力を抜いた。
「それで、ミレアとミリアは他にも作業があるんだよね?」
どこか心配そうに見守っていた姉のミレアに問いかけると、彼女は少し戸惑った様に、視線を逸らしつつ、目を左上にやる。そうして思い出したように、部屋の掃除や食事の用意など、必要な作業を教えてくれた。
「ありがとうミレア。じゃあ、二人はそちらの作業を優先して貰っていいかな?」
俺はミリアから手を離して、膝を突く。そして、二人よりも視線が下がる位置でそう問いかける。すると、こくりと頷いた。ミレアの方は、
「わかりました。ご主人様!」
そう明るく声を上げる。明るい笑顔で告げるその表情は暗に、ミリアに切り換えようと伝えているようだった。その様子に、ミリアも顔を上げて。
「わかりました、ご主人様」
そう伝えてくれる。
「……うん、それじゃあ、頼んだよ二人とも」
『わかりました』
そう伝えると、二人ともたったったっと去っていった。二人は同時に返事をして、並んで走っていく。その歩幅まで同じで、思わず。
(双子って、てぇてぇ)
なんて心の中で大歓喜してしまう。そんな俺の様子を見たミアハが少し呆れたように肩を落とす。
「相変わらず、ご主人様は甘いっすね~」
「そうか?」
「……普通、皿割ったらもうちょい怒るもんじゃないですか? あれ、安くないっすよ」
そういって指さされた花瓶を見つめる。……たしか、金貨5枚ほどだったはずだ。寒村であれば、3人家族で1年半。大きな街でも9ヶ月はくらせる。確かに安くないんだろうな。でも、
「怒ることと反省させることは別だと思うんだよ」
「ほう?」
ミアハが少しだけ興味を持ったように目を細める。
「ミアハもミリアが十分反省してるって分かっただろ?」
「そうっすね。……でも、ここで働き始めて9ヶ月っすよ。さすがに、18個目となったら怒るんじゃないっすか?」
「そうかもしれないね。でも、割る頻度はかなり減ってきたし、他の部分もちゃんと少しずつ良くなってる。今はただ、慣れてないだけだよ」
「……ご主人様だけっすよ、そう思ってくれるのは」
ミアハは目元を緩め、穏やかに言葉を漏らす。その表情は、どこか安心したようで、少し強張っていた肩の力をようやく抜いた。
(……なるほど、ミレアとミリアを心配して、あえて俺の気持ちを確かめたってわけか)
相変わらず、二人のことを大事に思ってくれていることに嬉しさを感じる。このやけに生暖かい空気をむず痒く感じたのだろう。ミアハはいつものように、少し軽い調子で告げる。
「やっぱご主人様は、変わってるっすね。さすがは、私なんかを奴隷として購入しただけあるっす」
「それ、褒めてるのか?」
「えぇ、褒めてるっすよ」
話しているこちらまで気分が軽くなる口調で、伝えてくれる。そのカラッとした性格には、どこか俺も助けられている部分がある。
悩んでいる時にミアハと話すと、いい気分転換になるんだよな、なんて思いつつ、そろそろ鍛錬に向かうべきだろうと、気持ち切り替える。
「悪いけど、片づけを頼んでもいいか、ミアハ?」
「えぇ、もちろんっす」
そういって、既に用意してあった道具を掲げて応対してくれる。
「それじゃ、頼んだ」
そういって俺は鍛錬へと向かって行く。それから皆と食事を摂り、風呂に使って、眠りに着く。今日一日、彼女達の可愛らしい姿を、思い浮かべ、思わずニヤケながら眠りに着くのだった。




