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かわいい少女に癒されたい—転生したので、居場所を失った少女を拾うことにした—  作者: 夢見る冒険者
黒髪の少女編

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第37話 最上の癒し

迎えた放課後。俺たちの間には少しだけ重い空気が流れる。これまで勝てると思っていた勝負は負ける可能性が高いものへと変貌した。


その原因は間違いなく俺だ。


「ごめんアルシェ、俺のせいで勝てる可能性が低くなった」


彼女の方に向き直り、俺は頭を下げる。あの時に俺が魔力を抑えていたら勝てていたものが、危うくなった。


「ううん。貴方は悪くない。大切な人を守りたいと思った結果だから。それは正しい」


アルシェはそう言ってくれる。けれど表情は明るくなかった。それはきっと確実に負ける未来が想像できるからだった。決闘まで、一週間もない現状。王子との契約で、条件の変更も不可能になった。人数だって、これ以上増える可能性はない。


加えて、相手きっと数多の神器を使用するだろう。こちらがたった一つの神器、『セプテンルクス』しか使えないというのに……。


そのセプテンルクスも強さ的なものよりも、日に何度も色を変える、格式の高い剣という印象が強い。幸いなのはその効果を知っている者は俺以外に居ないという点だろうな。


「なぁ、アルシェ、俺達は勝てると思う?」


悪いとは思いつつ、尋ねる。現状を把握してもらうために。それと、これから先の提案をするために。以前にも問いかけた問題に、彼女は視線を落とすことなく、真っすぐに俺を見つめる。


「勝たないといけない。勝ちたい」


アルシェは力強く言い放つ。勝ちたいと!自分の意志を示す。強く強く身体を震わせながら、本気であると目に力を込めて訴えてくる。


「そうだな、なら……」

「勝てるとしたら、私が光の最上位魔法を模倣する」

「……!?」


アルシェの発言に俺は驚いて目を見開いて見つめていた。それは俺が提案しよとおもっていたことで、同時にアルシェが成長する機会を奪うというものだった。


「……いいのか?」

「うん。それ以外に方法はないから」


そんな彼女の発言に俺は笑みが零れていた。俺たちのために、いや、自分を含めて、前に進もうと決めてくれることに、少し涙が零れそうになる。


「なら、これから5日間、悪いけど、死ぬ気で付き合ってもらうよ」

「望むとこ」


いつもの緩んだ空気はない。ただ、空気が張り詰めていた。本当は魔法を楽しみながら学んでほしかった。彼女に経験を積ませてあげたかった。誰かを倒して、自信を付けさせてあげたかった。一人でも前に進めるのだと示してあげたかった。


もう、それは叶わない。だから、彼女が少しでも強くなれるように。俺は背中を押す。



***



訓練を開始して30分もすると、アルシェの魔力が底を尽きる。最上位魔法を模倣するために消費する魔力が膨大で、アルシェの回復量では賄いきれなかった。


「はい、ポーションを飲んで」


俺は事前に用意していたポーションを彼女に渡す。アルシェはそれを受けてり、口に入れると、「……うぇ」とでも言いたげな苦虫をすりつぶした顔をしていた。


「……苦い」

「効果がある分、苦いんだけど、頑張れるよね」

「うん、ばんばる」


少し涙目になりながらも彼女は頷いて魔法を発動する。俺が発動し続けている魔法を取り込みもうと試みる。それでもできなくて、またポーションを口に含んで、魔力を回復する。


一度魔力を枯渇するのだって辛いだろうに、彼女は一生懸命、前に進んでいた。これまでと違って辛い訓練になる。以前は枯渇しないように俺が適度に回復をしていたのだが、今はその余裕がない。魔法を維持し続ける事に神経も魔力も使うから。


やっぱ対象を指定せずに魔法を発動し続けるのってクッソ、つらい。なんというか、おしっこを我慢している気分に近いなと別のことで気を逸らしたくなる。それでも、維持し続けた。彼女が頑張っているから。


***


結局その日は上手くいかず、翌日になった。気が重い中で教室に向かうと、王子がにやにやとしながらこちらを見つめる。


「おいおい、随分余裕がなさそうじゃねぇかレオニス。以前みたいな余裕のある表情を浮かべろよ」


誰のせいだと思っているのか、少しうざったらしさを感じつつ、俺も嫌味を返す。


「いいんですか、殿下。そちらこそ、もう少し、緊張感を持った方が良いと思いますよ」

「もってるさ、だから、入念にお前を調べ直して感心してたんだぜ。間違いなく、お前は英雄の一人だって、今なら認められるくらいな」

「それは、喜んでいいのか、謎ですね。敵対されている今となっては……」

「そうだな。もしかしたら、出会いが異なったら、傍にいたかもしれない」

「ありえませんよ。俺は少女であれば、たとえ異種族であろうと、好きになる変態ですから」

「……そうだったな」


弱っていく獲物をじっくり嬲るように、追い詰めるように王子は俺達を執拗に攻める。それはある種の警戒だった。これ以上謀られないように、反応を窺っているようだった。


王子は俺の反応に確信する。未だに解決策が見えていないのだと。



***



アルシェの進捗があまり芳しくない。着実にものにしては言っているのだけど、取り入れることすら出来ていないかった。このまま進んだら、きっと……


そんな未来を見つめてしまう。それは、残り2日をきっても状況は変わらない。それでも、俺達は進むしかなかった。一歩ずつでも前にと進。そんな彼女が、ようやく一日前にして、魔法を取りれいる事になった。あと一歩。だけど、その一歩がまだ遠い……。


「いよいよ、明日だな、レオニス」

「……えぇ、そうですね」


いい加減話しかけられるのも鬱陶しいと感じる。少し溜め息を吐きながら、その場を去ろうとすると、彼は声をかけて来た。


「俺はお前に感謝してるんだぜ、レオニス」

「はぁ~、それはどうも」


俺はお礼だけ言ってその場を去ろうとするのに、相変わらず彼は話しかけてきた。取り巻きに、廊下までの道を防いでもらって。


「お前がいたから、俺はここまえ強さに渇望できた。初めて、誰かに対し強烈な感情を抱けた。それは……恋ともいえるのかもな」

「きっしょ」


思わず漏れ出た言葉にすら、王子は愉快そうに笑う。それが当然だと認めるように。


「あぁ、だからこそ、俺はお前を潰さないと気が済まないだ。ありがとう、レオニス」


そう告げて去っていった。


俺は、死ぬ程憎んだ相手に礼を告げる感情が分からなかった。嫌悪感を向けられてなお、心の底から笑うという感情も。俺はきっと一生理解できないのだろう。初めて、そう思う相手に出逢った瞬間だった。


だからだろう。こんな状況で珍しく人が訪ねてきたのは。


「ねぇ、レオ。私も参戦しようか?」


セレフィが俺のことを心配そうに見つめる。少ししょんぼりとしながら、目尻を下げて、俺を悲し気に見つめる。この点末に巻き込んだのは自分だからこその提案だった。きっと、ここまで来るのだって、最新の注意を払っているのだろう。その気づかいはありがたい。


けれど、俺は首を振る。


「セレフィ、この勝負は俺と王子の勝負で。それは、俺が招いたことでもあるんだ」


その言葉に彼女は悲しそうに視線を下げる。


「レオはどうして、こういう時は頼ってくれないの?」


今にも泣き出しそうな彼女を見て、俺は過去を振り返るように天井から指す光を見つめた。思い出すのは初めて、誰かに心から感謝された時の事。


「ねぇ、セレフィ。俺は感謝しているんだよ、君に。誰もが上辺だけの関係のなか、君だけが初めて、僕を求めてくれた」


少しだけ、強がることなく、素の自分の思いを伝える。一人称を僕に戻す。


「あの時の僕は、ずっと一人で、素の自分を認めてくれる人なんて、同性代にいるわけないと思っていた」


幼稚な発想しかできないと、勝手に決めつけていた。そんな中で君は、僕を理解しようとしてくれたんだ。


「それに負けたわけじゃないし、信じたいんだよ、みんなのことを」


今も必死に練習するアルシェに視線を戻しながら告げる。俺だけに視線がいっていたセレフィが周りを見つめられるように。セレフィは少し戸惑った様に視線を揺らしながら、俺が見つめる先に、目線をやる。


そこには……


周りを照らす程の光属性を一生懸命に取り込んで再現しようとする、アルシェの姿があった。口元ついた緑色のポーションを左手で拭いながら必死に再現しようとする彼女がいた。


それはセレフィが初めて見る、アルシェの真剣な表情だった。それを見たセレフィが驚いたように目を見開いたまた、固まる。


「ねぇ、あれって……」

「そう、光属性、最高位魔法だよ。それをアルシェが再現する」

「……それは、できるの?」

「きっと、やってくれるさ」


セレフィは俺の顔を見つめて、瞬きをする。そして、少しだけ安心したように微笑んだ。


「……そっか、やっぱりレオはいつも誰かのために動くだね」


何かを確信したように、安心した表情で告げる。


「なら、私の提案もいらなかったのかな~」

「いや、ささくれた心に、余裕をくれた。実感はないかもしれないけど、セレフィは俺にとって、最も安心する存在なんだよ」

(……ほんと、こういう時ですら、私が一番欲しい言葉をくれるんだから)


なぜかその言葉に少し悔しそうにする彼女は、ふっと笑って一言告げて去っていく。


「私も、レオが一番安心する」


そう心のそこから温かな言葉をくれた。あぁそうだ、やっぱり俺は、彼女のことを誰よりも愛しているのだ。



***



そろそろ魔力を維持するのがきつくなる時間。そして、門限まで残り数分しかない。それでも、アルシェは諦めようとしない。俺が魔力を供給できないからこそ、彼女は苦いポーションを丸薬を幾度となく摂取する。


その苦さにえずきながらも、続ける。口もとを脱ぎって。


「アルシェ悪いけど、今日は……」

「わかってる。この魔法を使えるようになるまで、私は帰らない」


その視線には明確な意志を宿していた。けれど、リミットがないわけじゃない。この魔法は一日に一回。つまり、0時を回るまでに完成させなければ、明日使う事ができない。


それでも時間は無常にも過ぎていく。22時、23時と過ぎていく。アルシェは少しだけ、息を吐きながら、悔しそうに歯を食いしばり、やがて何かを思いついたように俺に聞いて来た。


「……どうして、あなたはそこまでするの?一人で逃げてもいいのに」


唐突な質問に俺は戸惑ってしまう。それでも早く答えてと告げる。それに急かされ、俺は答える。


「確かに俺一人なら、帝国に亡命することが可能だろう。けど、フェリシアにエリシア。それに沢山の少女と少年をかくまっている。その全てを受け入れてくれる国は存在しない」


教会まで敵に回す厄介な存在を受け入れてくれる国は少ない。きっと、現状はこの王国のみ。それも俺が幾多もの手を打って。商人を含め、味方を作って実現したものだ。他の国では不可能だ。


「おれが生きる意味は、そんな子達の笑顔をみることで、悲しい未来に導く事じゃない」

「なら、現状は勝てると思ってる?」


それを失う可能性がある今回の戦いで、それを証明できるかと問う。


「あぁ、可能性はある。もし、アルシェが協力してくれるなら」

「……そう」


アルシェが頷き。そして、再度問う。


「それに、私は入っているの?」


と少しだけ不安げに問いかける。それは愚問だった。


「当然だろ」


これだけ愛おしい存在をもう手放すことはできない。その言葉に、彼女は表情を緩めて口元に初めて満面の笑みを浮かべた。


「……ようやく、あなたを理解出来た」


ふっと優し気な笑みを浮かべた彼女が、俺の魔法包み込むように吸収する。繭のように包み込む彼女の魔力が変質していき、それは一つの形を模倣した。


「……あぁ、アルシェならきっと再現してくれると思った」


彼女が眩いほどの魔法を再現し、俺を使用する。かつて教皇ですら、失敗した魔法を。彼女は完全に再現した。その最初の癒しを施されたのは他でもなく、俺だった。

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