第34話 成功
あれから3日間ずっと魔法を取り込む練習をしている。けれど、上手くいかなくて少し落ち込む日々が続いた。それでもアルシェは前を見続け、ようやく4日目にして、ついに魔法を取りれいる事が出来た!!
「できた!」
自分の作った魔法をじーっと見つめるアルシェの目が輝やいた。ようやくコツみたいなのがつかめたのだろう、嬉しそうに笑みを浮かべて俺の方を見つめる。
「よかったな」
と告げるけれど、彼女は何かを待っているのか、じーっと見つめて首を傾げた。もしかして……そう思って彼女の頭に手を乗せて。優しく撫でる。それに目を伏せて、どこか猫なで声が聞こえてきそうな程ゆるんだ表情になった。
その姿が愛おしすぎて、俺は撫でる手を止めることができない。まぁ、数十秒もすれば、満足そうに頷いて目を開けちゃったんだけどね。
その後は当然のように魔法を取り出す訓練に入る。同じように俺のアイテムボックスに手を入れて、箱を取り出す。俺自身も一度、感覚を把握するために再度手を入れたことがあるが、確かに不思議な感覚だった。
空間の中に入っている物を、把握できる。けれど、どこに何があるのかについては分からない。そこに存在しているという感覚だけが頭に浮かんでくるのだ。
多分、こことは別の場所に移動したという認識が一番強い気がした。それを試す。今回でコツを掴んだのか、それとも学園が休みの休日2日間、ずっと練習できたおかげかな。
「——できた!」
アルシェはいよいよもって、俺のウォーター・ボールを取り入れて、発動することが出来た。
***
それからは早い。他の初級魔法に加え、自分が使えない属性の火すら再現が可能だった。すなわちそれは、属性を無視した魔法が使えるという事。
なんていう、汎用性だよ、コレ!!
思わず笑ってしまう程の特別な属性。正直羨ましいとすら思ってしまう程に、その能力は格別だった。
ただ、当然のようにデメリットが存在する。それは魔力というコストが多きいってこと。初級魔法では約1.1倍ほど多く使う。そして、一緒に特訓していて分かったのだが、アルシェの魔力回復量という部分は一般的に見ても、少ないという部分。それが闇属性のデメリットだった。
逆に光属性の場合は、魔力の回復量が多いきがした。俺を含めて、フェリシアも回復量がかなり多い。他の属性を取り入れる分、回復量も多いイメージだったのだが、そこだけは予想外だった。
今も頭を撫でているアルシェはご満悦な様子で、ふっと表情を柔らかくする。嬉しいのだろうか、少しだけ身体を横に揺らしていた。まるで、エリシアを真似るようにして。
それが恥ずかしいのか、エリシアは少し頬を染めていたのが可愛い。
「一度成功したついでに、亜空間から物を取り出す感覚と、闇属性で魔法を取り出す感覚の違いを言語化してみようか。じゃあ、まずは亜空間からいつものように取り出して」
「うん」
少女はいつものように箱を取り出す。そうして目を瞑り、自身の感覚を言語化する。
「亜空間魔法は実際のものが存在する。それをつかみ取るイメージ。そして、闇属性は魔力の流れ、それ自体をつかみ取る。把握して、自身の魔法で再現するイメージの方が近い」
「つまり、亜空間の方は物が変わらないけれど」
「うん、闇属性は再現に近い。その分、魔力を消費する」
うん。どうやら彼女は自分の魔法を理解したようだった。俺はその感覚が分からないからこそ、正解かはわからない。それでも、アルシェの顔を見れば正解だってわかる。
だからこそ、俺の中に少し緊張が走る。アルシェが魔法の再現に成功した際に渡そうと決めていた物があるから。
「これ」
アルシェいたものように、手元にあった箱を俺に返す。それに首を振って答えると、アルシェが不思議そうにこちらを見つめる。
「それは、プレゼント。アルシェが魔法の模倣に成功した時に渡そうと思ってたんだ。……貰ってくれる?」
「……いい、の?」
首を傾げる少女が目を丸くして尋ねてくる。それに深く頷き返す。
「うん、俺がプレゼントしたいんだ。どうかな?」
「……ありが、とう」
そう伝え、彼女は箱に視線を落とす。そうして、じーっと観察して。
「あけていい?」
と問いかけてくれる。それにゆっくり、深く頷いた。アルシェは恐る恐るその箱を開けて、中身を確認する。そこには紫色に輝く、彼女と同じ瞳色のペンダントが入っていた。
「この宝石を見たときに、絶対に似合うと思ったんだ」
じーっと、アメジストの宝石を見つめていた、アルシェの瞳が少し揺れる。そして、静かに微笑み、そして俺の方にゆっくりと視線を持ってきた。
「付けてほしい」
と一言呟いた。
「わかった」
そう呟いて俺はアルシェが持っている箱から、宝石のついたペンダントを取り出す。アルシェの後ろに回って、綺麗な髪に触れる。それを少し横にずらそうとして、その質量に彼女の重さみたいなものを感じて、少しこれまでのことを思い出した。
最初にずぶ濡れだった少女。いつも一人で、目に光を宿さなかったか少女が、今はこうして、自分の意志を示してくれる。それが嬉しい。
彼女の綺麗な首筋に、チェーンを通し、俺はネックレスつけた。手から質量が消失し、アルシェの胸元に綺麗なアメジストのネックレスが飾られる。
「綺麗だよ、アルシェ」
「うん。ありがとう、レオニス」
ふと、その笑顔を見て、セレフィのことを思い出した。初めて、俺に向かって、嬉しそうに微笑んでくれた彼女の姿にふと重なった。
少し感慨深く、胸に温かな気持ちが宿る。俺は、ふっと笑みを溢しながら告げるんだ。
「それじゃ、次は……」
「うん、中級魔法!!」
二人して、魔法を使い続ける、回復して、発動して、また回復する。それを一日中。昼食を取るのすら忘れて、ひたすら魔法を発動し続けた。エリシアやフェリシア。二人も加えながら、俺達は魔法を使い続けた。
***
それから、約3日間でアルシェは最上位魔法まで再現することが可能になった。その時に使用する魔力量に関しては、差があって。
初級で約1.1倍。
中級で1.2倍。
上級で1.3倍。
そして最上級になると、1.5倍近くまで跳ね上がる。
その消費した魔力量から分かる。おそらくこれは、闇属性の性質の問題で、無理やり再現しているというデメリットだった。だから余計に魔力を食う。
「どおりで……」
俺はアルシェを見つめながら、今まで感じていたことに納得する。アルシェの異常とも呼べる魔力量を。以前までは、侯爵家の子息と変わらない程だと思っていた。けれど違う、今は王子にすら達する程に魔力量が上がっている。
闇属性そのものが、大量の魔力消費を前提としているからこそ、その属性に応じて魔力量が多いんだろう。逆に光属性を扱うものの魔力量はそこまで必要としない傾向にある。
最上位のものだって、貴族であれば誰でも発動が可能なほどだ。普通の魔法よりも若干少なくて済むくらいには、扱いやすい。まぁ、適性が少ないんだけどね……。
「あとは、今使ってた魔法を、自分自身の魔法として再現できるか。それと光属性の取り込みだな」
「……ひかり、それは可能?」
「俺のイメージだと100%可能だと思ってる。魔族にとっては光が天敵だから、多分だけど再現したら、世界初だよ」
「それは、面白い」
始めての実験という言葉を聞いて、目を爛々と輝かせる。段々とだが、アルシェが喜ぶような言葉を俺自身、分かってきたような気がした。
その様子を見つめながら、少しだけ安堵する。今の成長したアルシェがいるなら、少し任せて見ても良いかな~、何て思う。ざっと7人くらい?残り13は俺が倒せばいいと、学園での授業風景を思い浮かべながらそんなことを考える。
アルシェがまた俺の魔法を取り込む中でまたイメージにぶつかる。
「やっぱり、光を、取り込むイメージができない」
「じゃあ……」「だから、ランタンとか光るものを亜空間に入れたい」
同時に言葉が被って、驚いてアルシェを見てしまう。
「ごめん、かぶった」
少し反省する彼女に違うと首を振る。
「そうじゃない、嬉しいんだよ、アルシェ」
そういっていつものように頭を撫でると、驚いたように目を瞬かせる。そして、少し安心したように頬を緩ませる。
「同じことを言おうとしていて、それをアルシェが言ってくれたことが嬉しい。同じこと考えていたんだなってね」
「それは、そう。これだけ、一緒に居たら、考えが似る」
思わず、にやける中で、俺はいつものように、亜空間から魔法を取り出す。それを受け取って、亜空間に入れて、観察して、自身の解釈に落とし込む。
寄り添ってきた夫婦の様に、互いにやる事を理解してくる関係性に思わず微笑んだ。相性良いのかあなってね。まぁ、その思考自体は自分でもキモいと思ったが、嬉しさが勝るので気にしないことにした。
光が消える瞬間と、そこからまた出てくる瞬間。それを観察し、試行錯誤を続ける。そして、さらに3日後、アルシェは光魔法まで再現し、また、自身でも水の最上位魔法を扱えるようになっていた。
「嬉しい」
そう微笑む少女の横顔にこっちまで癒される。にしても、
「……すごいな、本当に」
思わず本音が漏れる。たった2週間でここまで来れるのは、アルシェのこれまでの努力と、そして魔法にずっと向き合い続けてきた日々の成果だと思った。
ほんと、自分の過去と比べたら、才能の差はハッキリとしている。魔法が発動しないこともあって、大量に魔力を消費して、気絶する。消費するまでの間、ずっと考えて、寝る前に必ず魔力循環をする。
才能がないからこそ、日々の積み重ねを大切にしてここまで来たと。王子の様に、授業だけでトップになることも、アルシェのように、日々明確に成長を感じることも少なかった。それが羨ましくも、けれど、その過去があるからこそ、俺は色々と考える力が付いたとも思う。
何かで詰まっているってことは、何かを得ることが出来るチャンスでもあるんだから。
改めて、アルシェを見つめる。アルシェの戦力は、もう以前とは比べ物にならないと。少なく見積もっても、王子の取り巻き三人分。下手をすれば、それ以上。
俺には全回復があって、魔力も体力も完全に戻せる。戦闘継続能力という意味では、ほぼ反則だ。だから、俺は思っていた。
これで、万が一にも負けることはない、と。そう思っていたんだ。
あの出来事があるまでは……。




