第33話 失敗続きの日々
「それで、アルシェは闇属性を使ったことはあるの?」
そう告げるとアルシェはフルフルと首を振る。
「一度も使ったことがない。使ってはいけないと言われていたから」
淡々と告げるその言葉に、納得している自分がいた。だって、人類が使った場合にどんな効果があるのかすら不明。それで悪いことがあったとしたら、アルシェのせいにされることは明白で、その責任は、当主が負うことになる。
だから当然、アルシェの父は制限をかけたんだろうな……。それを俺が使うように誘導しても良いのかは分からない。けど、本当の意味でアルシェが自由になるためには必要だった。
「それじゃあ、ウォーター・ボールみたいに、闇属性を使って球体を作ってみようか?」
そう伝えると、彼女は闇属性を使う。全てを吸い込むような漆黒に染まった球体を作り。俺はそれに触れた瞬間、弾かれた。防御魔法を通常のウォーター・ボールより、丁度2倍ほど損傷したのを確認し、ふっと笑みをが零れた。
(威力も上がるけれど、消費する魔力もあがるのか、面白い)
そんな俺とは、対称的に、全員が俺のことを驚いたように目を見開いて見つめる。何をしているのかと。あのアルシェですら、信じられないようなものを目にしたように、驚きのあまり口をぽかんと開けていた。
……えっ、アルシェの呆けている表情ってより一層幼い感じが出るんだな。なんて新たな発見に心驚させつつ、俺は尋ねる。
「どうかした?」
その言葉にアルシェがポツリと言葉を零す。
「……怖く、ないの?」
俺の気持ちを探るように、告げたその言葉に、戸惑いつつ返す。
「……えっと、なんで? アルシェが発動した魔法でしょ?」
と思わず返してしまう。確かに闇属性が人類の間で印象が悪いのも知っている。けれど、それを使っているアルシェは俺たちに敵意を抱いていない、だから当然、自身で使う新しい魔法について興味津々になるとおもっていたけれど違ったようだ。一人だけ前のめりになっているが、少し恥ずかしい。
「私が使っていても、闇属性。いいイメージはない」
「ん~、でも俺からすると、他の属性でも敵意を持った相手が使う魔法の方が怖い。だから、アルシェが使う魔法に、恐怖を抱くわけないって感じかな」
それに驚いたように見つめている彼女にの頭に手を置く。信頼しているという意味を込めて。頭を撫でる。今もまだ、魔法を発動し続ける彼女を怖れていないと示すために。
それに習ってかな、フェリシアも少し肩の力を抜いて、俺と同じように魔法に触ろうとして弾かれる。それにエリシアも触れようとして同じように弾かれた。
「確かにそうですね」
なんて二人していいながら、笑ったいた。アルシェは俺たちをどこか驚いたように見馬手、少し目を伏せる。自分の気持ちを整理するように、魔法を解除して、胸元に手を当てていた。自分を落ち着かせるように。
次に顔を上げた時の彼女は、俺の目を真っ直ぐに見つめて問いかける。
「もっと試していい?」
先程の不安や恐怖は無く。自分の可能性をただただ、突き詰めたいといういつもの表情に戻っていた。俺は、口元に笑みを浮かべながら返す。
「あぁ、幸いここは誰も見ていないからね。それと今日は限界まで魔力を使っていい。魔力を分け与えることが出来るし、なにより、最後に面白いものを見せてあげる」
「もしかして、光属性の最高位魔法?」
「うん。それとちょっとしたプレゼントも」
彼女は期待したように瞳に光を宿す。どうやら、今日の目標は出来たみたいだと。その提案をした理由は、闇属性が思ったよりも消耗が激しいことが起因していた。通常の約2倍ほど魔力を消耗するのだ。
そりゃ当然、デメリットも存在するよなと納得した。
「それじゃあ、次は早速、俺が使ってる魔法を模倣していこうか。そして最終的には最上位魔法まで身に付けてほしい」
「……うん!絶対に身に付ける!!」
深く意気込む彼女の表情を見て笑う。ふんすふんすという擬音が聞こえそうな程、興奮しているのが分かった。目的を胸に、意気込んで練習を開始していく。だけど、当然のように上手くはいかない。
俺が作ったウォーター・ボールを包み込むように、闇を変換することは出来る。けれど、取り込むことが出来なかった。
「イメージと魔力の操作。もしくは他のどこに詰まっている?」
「イメージがわかない。取り込む想像がつかない」
なるほどな、と思う。俺の様に前世のブラックホールみたいな、全てを吸い込む印象がなければ難しいだろう。それをやるのは危険だし。なら、
「ならさ、俺の亜空間魔法にものをいれてみる?」
「やる!!」
アルシェが前のめりできょりを詰めてくる。こちらを信頼していくれているのだろう。ぐいっと縮めたアルシェは俺と二歩分の距離感まで近づいてくる。当然のように、爪先をたてて近づく少女の顔は、拳三つ分まで縮められた。
当然のように、今までは見えてこなかった部分。やっぱり顔が小さいな~とか、睫毛が長いな~とか。魔力を使うと、目が宝石みたいに透明な紫色に変化するんだって、新しい部分に気付く。
なにより、小さくぷるんとした唇に目がいった。ついで、ぷにぷにしてそうなほっぺに、視線がいき、出会う前よりも血色がよくなった頬に。それが愛おしくて、つい触りたくなる。
ただ、そろそろエリシアの鋭い視線がさらに鋭利さを増しそうなので、続きをする。
「それじゃあ、ものを持って入れてみて」
「わかった」
そう伝えると、アルシェがものを探し始めるよう辺りを見渡して
「なにもない」
あぁ、そういえば、アルシェって制服以外に何も持っていないんだっけ。なら、とものを渡すことにする。
「それじゃあ、この箱を入れてみようか?」
「わかった」
俺がアイテムボックスを使用し、アルシェはゆっくり手を伸ばし、箱を入れる。真剣な目で、俺のアイテムボックスを観察する。魔力の流れを確認するように、そして、自身の感触を逃さないように。
「それじゃあ、取り入れるね」
「うん、やって」
少女の言葉に従い、俺は亜空間へとものを取り入れる。瞬間、ぽつりとアルシェが言葉を漏らす。
「……変な感触」
「どんな感じ?」
「何かが私の腕を包み込んで、ものを把握した。でも腕まで持って行かれない」
何その怖い発想。……でもそうか、ふつうならその可能性が頭を過るんだな。俺からすると、アイテムボックスは普通にものを取り出せるイメージだから、そんな考えが浮かんだこともない。それでも、アルシェが手を入れてくれたのは、俺を信頼してくれたからだろう。
俺が彼女の魔法に手を伸ばしたように、彼女もまた一歩踏み出してくれたんだな~。思わず、彼女の頭をなでる。
「なに?」
ポカンとした表情で俺を見つめる彼女に。
「ううん、アルシェと入れて嬉しいなって感じたから。つい、撫でてしまった。ダメだった?」
少女は驚いたように目を瞬かせ、首を振る。
「ダメじゃない」
と宣言する。頭を撫でながら続ける。
「それで感触はどう?」
「暖かくも冷たくもない。ただ……空気みたいなものが漂ってる感じ」
なるほど。感覚としては、かなり近いものを掴めているらしい。俺はその反応を見ながら頷いた。
「それじゃあ、一回、取り入れるところまでを試してみようか?」
「うん」
その日は一日中、魔法を取り込むイメージを行う。失敗して失敗して。何度も失敗する。それでも、結局うまくできなくて、アルシェは落ち込んだように肩を落とす。
「仕方ないよ、初めて使う魔法だもん。失敗することもあるさ」
「そう……だね」
彼女の頭を撫でながら告げるけれど、少し視線を落としたままだった。
「じゃあ、最後に俺がいっていた魔法を見てくれる?」
「うん」
そう伝えると、興味上がるのか、少し顔を上げて、俺の方を見つめる。アルシェと視線が合ったのを確認し、俺は珍しく"魔法を完全に詠唱する"。
「悠久なる神々よ、我が呼び声、願いに応じ、聖なる御手を差し伸べたまえ。万物を癒し、穢れを払え、ディヴァイン・スピリット!」
以前に一度見せた時とは違う。聖なる輝き、魔力の奔流が、全てを満たし、彼女を柔らかい光で包み込む。神々しさが増す、その魔法は通常よりも威力が高まる。ざっと、2.5倍といったところだろう。なにより、魔力の消費量にいたっては0.8倍にまで抑えられる。
「なに、これ」
彼女は自身が包まれる光の奔流に目を向ける。白と黒のコントラストが映え、まるで神が降臨したようなそんな一幕に感じた。
「すごい、これって……」
「あぁ、詠唱を完全に唱え、かつ、魔力の変換率が100%に達したと時、その威力は数倍になる」
勿論俺だって、全ての魔法で使えるわけじゃない。必要とする魔法。それも戦闘時以外に使える数個のみ、完全詠唱を使える。
「いつか、魔力の流れが見えるアルシェも出来る。たった一日で変換率を7%も上げたんだ。その才能はきっと俺よりもある。だから、まずは一歩ずつ進もう」
添う少女の髪を撫でながら告げると、その手に自分のおて手を乗せて、頷く。
「うん!」
と柔らかく微笑むのだった。




