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かわいい少女に癒されたい—転生したので、居場所を失った少女を拾うことにした—  作者: 夢見る冒険者
黒髪の少女編

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28/41

第28位 ランキング戦(王子 VS レオニス)

教室に入った俺を、王子は階段状になっている席の上段から見下ろすようにして言葉を発する。


「——お前にランキング戦を申し込む」


……俺に申し込む?


唐突に告げられたそのその言葉を、すぐに理解できずにいた。だって、彼の提案は俺にメリットが多すぎるもので、王子にとってはデメリットしかない選択だから。当然、すぐに飲み込めず、一瞬。呆けた表情をしてしまう。


それに気づいた王子は、ニヤリと、してやったり顔で俺の方を見つめてくる。自分の掌で俺を転がしているとばかりに、優越感を感じていた。だからこそ俺も、すぐに表情を変える。


口元に笑みを浮かべて、少し小馬鹿にしたように、かつ自信ありげに伝える。王子が感情で動くタイプなのか、冷静に結果だけを求めるタイプなのか、判断するために。


「いいのですか、殿下? その提案、俺に得しかありませんが?」


そう。得しかないのだ。ランクを上げるための対戦は一週間に一回しか申し込めず。その相手も自分より20位上の相手までだ。王子のランク1位に達するには最短で5ヵ月かかる。それを覆す方法が王子の提案したランキングの入れ替え戦。当然、順位が下位の者しか申し込めず、上位の者は受けるものなんてほとんどいない。


だからこそ、王子も順位が下位の俺に対して、受けてやるから挑んで来いと告げたのだ。それがおかしい。だって、絶対に敗北が確定している試合に挑んで、1位の特権を手放す人物なんて普通はいないから。


なのに、俺に提案する。獲物を見定めるみたいに、口元を徐々に吊り上げて、俺の反応を観察する。それを警戒しつつも、やはり彼の提案は俺にとってメリットが大きいと判断してしまう。現状は周囲の目線がうっとしい訓練場から個別の訓練場へと移ることが出来る。


その他にも、閲覧制限のある本の貸し出し、個室の食事処などなど、学園内であらゆる優遇を得れる。王子は考え込んでいる俺に催促するように、言葉を発する。


「たしかに得がある提案だろ。それで、受けるのか?」


王子自身も自分の、デメリットを理解している。それが不気味ではあった。でも、ここで引くわけにはいかないから。堂々と相手をしっかり見つめて返す。


「もちろん、受けますよ」


王子は満足そうに頷いた。


「せいぜい俺を楽しませろよ」


敢えて自分が上であるという事を告げつつ、俺を見下ろす。先に動かないのは、自分が強者であると告げているからだ。それを感じつつ、俺は王子の横を素通りする。逃げも隠れもしないとそう伝えるように。


その様子を彼は楽し気に見つめていた。あたらしいおもちゃを見つけたみたいに。



***



授業が始まると、周囲の注目も少し減る。それにようやく一息つきつつ、思う。にしても面倒な相手だな、と。


これが感情的になってくれる相手なら御しやすい。けれど、王子のように、自信の核となる部分を持つ相手は、誘導などに引っ掛かることもないので面倒なのだ。


だからこそ、少し不安な気持ちも出てくる。俺自身に勝てる自信があるのだろうか?という疑心が湧いてくる。


今までの態度から、どこか傲慢で感情的な人物だと思っていた。けれど違う。自分が敗北することすら織り込み済みで、最終的な目標さえ達することが出来ればいいという、目標主義の人物。


これが仮に、感情的なら対処が楽だったのにな……。なんて、つい思ってしまう。なまじ頭が回って、なにより才能は誰よりもある。それは手を付けられないわけだと、これまでの横暴が許された理由の一端を見た気がした。


だからかな、隣に座る少女からふと声が掛かった。


「もしかして、不安なの?」

「ん? なにが?」


まるで、一瞬でも敗北を想像した俺の気持ちを見透かしたように、アルシェリアが問いかけてくる。単純な疑問であるように、真っ直ぐ俺を捉える。


それに俺はふと笑ってしまう。アルシェリアが俺の気持ちを少し汲み取ってくれた嬉しい事実に。それと、アルシェリアに少しでも疑惑を持たせてしまったことが情けなくて。


そんな俺に、アルシェリアは再度、明確に尋ねる。


「彼に勝つこと」


瞬きをすることなく、見つめる少女を安心させるように微笑む。その可能性はあり得ないと伝えるように、アルシェリアの髪をゆっくりと撫でる。一切の偽りの気持ちも、動揺もないということを伝えるために。


それに少しだけ表情を緩めた。少し安心したように、目を細める。その姿が可愛らしい。


——にしても、やっぱりアルシェリア美しすぎでしょ!!サラサラと艶がある髪に、ぱっちりした目。小さく、左右の整った顔に見惚れる。綺麗な黒髪に指を通しながら、その美しさを実感する。やっぱり、黒髪は最高だなと。


異世界では黒髪が凄く珍しいし、前世でも、女性と仲良くなることなんて当然なくて。こうやって、黒髪が綺麗な女の子と触れ合うことはついぞなかった。


その夢が、異世界に来て叶い、めっちゃ嬉しい。"なにより"、クラスで話しかける相手は俺しかいないという特別感が胸を満たしていた。


(どうだ、羨ましいだろ~)


と心の中でにやにやとしてしまう。まぁ、流石にこれ以上は授業に支障をきたすので、そっと頭から手を離す。そして、ふっと表情を緩めながら、告げる。


「王子との戦いについては、全く不安じゃないよ。ゼルヴァイン殿下が俺に勝てる可能性はゼロだしね」


その言葉が嘘ではないと分かったのだろう。


「そう」


と頷いて、また授業に戻った。ふつうならきっと理由を求める。自分の思いとか考えを否定したくないから。疑っていなくても、つい確かめてしまう。それがアルシェリアにはない。俺の言葉を疑わずに信じていると分かる。だから、期待は裏切られないよな。


そう思いつつも、やはり不安があった。それは王子戦ではない。さらにその先の出来事について、俺は思考を巡らすのだった。


***


王子とのやり取りの後、俺はランキングに申し込む。それに王子が了承し翌日、俺と王子は闘技場へと来ていた。石畳で出来たそれは大体1000名は入れそうな大きさを誇っている。


前世で見た地方の野球場の様に、観客席までは約3mほど石畳が続いており、そこから上が階段状の観客席になっている。まぁ、ファンタジーのありきたりな、闘技場か。


その客席の一部。関係者用の席にアルシェリアたちを座らせる。視線を合わせるように、少し腰を下げて、目が合ったのを確認して伝える。


「アルシェリア、今日の試合見ておくんだよ。きっと参考になるから」


王子の思惑をあれこれ考えても、意味はないと結論付けたからこそ、俺は王子との試合を利用することにした。もっと、アルシェリアと仲良くなるためにね。


「わかった。みておく」


少女がこくりと頷いたのを確認して俺は観客席を去る。闘技場の中心、アリーナに降り立つために。


数十分後、いよいよ準備が終わり。俺は、アリーナに足を踏み入れる。当然のように俺には歓声一つなく、王子が入場するとそれを応援する声が多数聞こえる。


にしても、凄い人数が集まったな。初等部や高等部の生徒もいるのだろう。ほぼ、全ての席が満席になっている。アルシェリア達に近付かないように開けた両隣以外、埋まっているのが確認できる。


ふと、そちらを見ると、当然のように、エリシアが大きく手を振り、フェリシアが控え目に手を振る。そんなか、アルシェリアもそれにならって手を振っていた。


……!! えっ、マジで!!! 嬉しすぎるんだけど……!!!


最初はそっけなかった少女が、今俺に手を振ってくれている!最初は魔法繋がりだったけれど、やっぱりフェリシアたちと出会わせたことが正解だったのかな。


戸惑いながらも、フェリシアをちらりと確認し、小さく手を振る。その姿、かわいすぎしょ!!はぁ~、マジ最高かよ!!


思わず、俺はるんるんで、会場の中央へと向かって行く。それを気色悪そうに王子が、引いた視線で、見つめるが気にならない。今の俺は、もう無敵だね。ほんと。絶対に負けないね。


うんうん、深く頷きながら確信していた。


「おい、そろそろいいか?」


さすがに鬱陶しく思ったのだろう。王子が気だるげそうに、舌打ちしながら訊ねてくる。……もう、いいところだったのに、という気持ちがありつつ、真剣に戦う気持ちを削いだなら、悪いと思うので、俺は素直に答える。


「えぇ、大丈夫ですよ」


さて、この試合に勝てば、順位が10位以内の特権、個室の訓練場を借りれるようになる。その報酬、目指して頑張りますか。もっと、三人といちゃつくために。そう意気込んで試合を開始した。


王子が魔法を詠唱しだす。省略した形で。けれどそれは無詠唱を可能とする俺にとっては遅すぎる攻撃だ。だから示す、まずは速度の重要性を。


初球の魔法。ウィンドブレイド。風の刃を王子に放つ。当然のように、その威力はたかが知れていて、彼の防御魔法を突破することはない。


その間に王子は魔法を完成させ、俺に放つ。砂嵐で俺を攻撃するが、当然のように俺もまた無傷のまま立っていた。今のは互いの防御魔法の硬度を知るための牽制的な魔法。同時に、俺はアルシェリアに対して示す。無詠唱とはいえ、初級では相手に通じないことがあると。


次はと意識を切り換えようとしたところで、会場全体を震わせる大きな声が響く。


『ありえません、レオニス選手の変換率は無詠唱にもかかわらず99%です!!』


その声に思わず視線を上げる。そこには魔法板に99と84という数字が俺と殿下の名前と共に表示されていた。その魔法板を殿下また驚いたように見つめ、ニヤリと嬉しそうに、邪悪な笑みを浮かべる。好敵手を見つけたみたいに……。


鬱陶しいなと思いつつ、掲示板には感心していた。


(そういえば、魔力の変換率なんてものがでるんだっけここ)


通常、魔法を使った時には当然、魔力ロスというものが発生する。変換にあたり魔力を消費してしまうのだ。だから、この変換率は重要視される。唯一努力で何とかなるものであるから、学園の指標になっている。


まぁ当然才能もあって、少し才能がある人物なら変換率70%から始まり、85%までいけば、良い方だ。そしてだいたいは90%で止まる。才能が良くてね。だからこそ殿下の84はかなり凄い。俺のせいで霞んでいるけど……。


だからこそ殿下は迫られるわけだ、魔力が圧倒的に多く、ロスも少ない相手に勝つには、一撃で致命傷を与える攻撃以外では勝つ方法がないってね。先に魔力が尽きちゃうから……。


まぁ、致命傷と言っても賢者の魔法で肉体的なダメージはない。同時に、肉体的なダメージ耐久力も考慮されていないから、魔法の威力の分だけHPが減る。それはマジで欠陥だと思う。


俺って、かなり鍛えている方なんだけどな……。なんて思いつつも、貴族自体魔法以外はあまり重要視していないので、仕方ないのかもしれない。


「まさかお前がこれほどまでとはな?」


王子は口角をにぃっと上げながらこちらを見つめる。それに冷静に返す。


「いえ、あの数値は小数点以下がでないので正確じゃないですよ。もっと変換率上ですし」

「はっ……それは面白れぇ!」


完全におもちゃを見つけた時の表情で楽しそうに無邪気に笑う。それには悪意しかないけどね……。


彼は最近、アルシェリアに突っかからなくなった。その理由は、ある意味で俺が彼の退屈を凌いでいるからだろう。おかげで、アルシェリアの安全に繋がるのならいっか。さて、と俺は思考を切り換える。


次は、無詠唱魔術の真骨頂を示すために。先程とは比べ物にならない魔力を込める。魔法の範囲を圧縮し威力を高める。その放たれた魔法は王子の防御魔法を貫通した。


会場の皆は当然のように驚いた。だって、それは最初に使った、初級魔術と同じ魔法だから。どうして通るのかと、驚く。魔法への理解が鋭い上級生と、教師。それにアルシェリアを含めた、数十名のみが理解していた。魔法をアレンジしたことに。


当然、中級魔法とかの方がコスパが良かったりする。けれど、これはアルシェリアに対しての授業だった。初級魔法でも使い方次第であると。なにより、フェリシアより、俺をもっと頼ってもらうために、あえて初級魔法を使う。俺の価値を今ここで示すために!!


だって、最近二人で話し合っていることが増えて、寂しい。もっと構って欲しいし、頼って欲しいからね。


目の前の王子は、驚いたように俺を見つめる。そして、自分が攻撃を受けたところを確認していた、自身の詠唱を止めてまで。じっと観察する。攻撃が来る可能性もあるのに。


(うっわ、その反応すっごくいやだな~)


まるで実験に付き合わされている気分になりながら、そんな感想漏れる。


「いいんですか、殿下? 攻撃しちゃいますよ?」

「はっ、まさかコレで勝ったつもりじゃないよな?」

「えぇ、この程度ではないでしょ?」


敢えて挑発をする。殿下という人物を探るように、観察しながら。


殿下は俺の言葉に反応するように、防御魔法に込める魔力を変質させて、さらに魔法名だけで、強化した。俺に習うように。


それでも初めてのアレンジで慣れていないのだろう。まだ荒いし、掲示板の表示された数値は67だ。かなり、変換ミスが起きている。それでも、彼は楽しそうに笑う。


「ははっ、なるほど、こういう感じか」


戦いの中で成長するタイプか、かなり厄介だなと感じる。これ以上は流石に強くなる切っ掛けを作るだろうし、何度も挑む理由を作り、面倒ごとになるだろうと感じた。


だから俺は圧倒的な実力差を分からせるために、そして、次に対戦するときは一瞬で終わらせという意味を込めて魔力を高める。圧倒的な差を示すために魔法を使う。


(ほんとはもっと、アルシェリアにレクチャーしたかったけど、それは後の楽しみってことで……)


魔法を放つ際に告げる。俺とアルシェリアの仲を邪魔しないように。それと、無駄なことをしないよね?という挑発を込めて。


「最後に殿下にお伝えしておきます。現時点で俺に挑むのは無意味なので、これ以上挑んでこないで下さいね?」


それは最近学んだ魔法、水龍で相手を攻撃する魔法。それを改良する。無詠唱魔法で威力を高めて攻撃する。その際の数字は98という、慣れていないが故に低い数値が出る。


けれど、威力関しては、通常の数倍はある。水流の内部を高速で振動させ、刃の様に切り裂くようにしていた。その魔法を王子は笑って受ける。彼の体力ゲージが一瞬で消滅し、試合が終了した。


ふつうなら、敗北した悔しさに表情を歪ませる中、王子はただただ、獰猛な笑みで俺を見つめ続けた。それがすっごく気色悪いなって感じるのだった。


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