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かわいい少女に癒されたい—転生したので、居場所を失った少女を拾うことにした—  作者: 夢見る冒険者
黒髪の少女編

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第27話 懐く

哀し気な視線の先、それがどうしても気になってしまう。けれど、それは容易に踏み込んではいけないものだと分かってしまう。だから、今は無理に触れない。いつか彼女自身が話してくれるように、今はアルシェリアから信頼を得れるように、目の前のことに向き合おうと決意して。俺は、声をかける。


「今、実践してもらった複合魔法は失敗したけど、これも一つの学びだよ。本来の相手の魔力に合わせるのは難しいってね」

「うん、そうだった。あなたが特別なだけ」


——特別。


そう告げられた言葉に、思わず目を見開いて反応してしまう。それは、誰かに言って欲しい言葉で。それをアルシェリアに告げられたことに驚いてしまった。


当然、アルシェリアは俺の様子に気付くことがない。まだ、俺に興味がないから。動揺がバレなくてよかったと思いつつも、少し寂しい気持ちがあった。振り向かせてみせたいって。でも同時に、本心からの言葉だと分かるからこそ、嬉しい。


俺は口元に笑みを浮かべながら続ける。


「そうだね、俺の魔力操作はかなり優れている。けど、フェリシアもなかなかのものなんだよ、試してみたらどうかな?」


なんて、少し自分でも浮かれている気持ちがありつつ告げる。もっと色んな人と関わって、最終的には興味を持ってほしいから。そして、笑っている姿を見たいからね。


アルシェリアは、俺の言葉に素直に頷く。


「……うん、やってみる」


と。そう答えた少女は少しだけ戸惑いながらフェリシアの方を見つめる。先程のことがあったからこそ、また誰かと衝突することを怖れている気がした。同時に、罪悪も感じているのだろう、視線が少し、エリシアの方をチラリと向けられる。その反応が嬉しかった。


出会った当初の彼女なら、きっとこんな風に気にもしなかったはずだ。それが今はほんの少しでも、今の関係を壊したくないと思ってくれている気がした。


もちろん、魔法の技術向上のためっていうのも大きいだろう。けれど、惜しいと思えるような場を提供できていると少し安心する。


だから、予想外だった。二人の放った複合魔法の結果が。


「……すっげぇな」


思わず、見惚れるほどの相乗効果を発揮したことが。


目の前で巨大な風船ように膨れ上がったウォーター・ボール。それは上級魔法に匹敵する威力があると誰でも分かる程に魔力を含んでいた。


その出来に、思わず口元に笑みを浮かべながら、見惚れてしまう。それは、アルシェリアも同じで、目を見開いて、発動した魔法に顔を近づけて見つめていた。そんな反応を俺自身もしていて、同時に、強い悔しさも覚えていた。思わず、奥歯を強く噛みしめるくらいに。


(……やっぱり、自分はまだまだ、アルシェリアの事を理解できていないんだなって)


それが凄く、悔しい。


二人が成功させたのは、複合魔法の境地、〈シンクロ〉と呼ばれる現象だった。互いの魔法に、相乗効果を与えて、発動されたものは、通常の数倍の魔力を纏い、威力を底上げする。俺とアルシェリアが足し算なら、二人は掛け算といったことだろう。


フェリシアの、“相手を深く理解する力”には素直に感心している中、アルシェリアが発した言葉には、当然の様に嫉妬してしまった。


「お姉さん、すごいっ」


って、尊敬するようなキラキラした目でフェリシアを見つめる。それは、最もアルシェリアから向けられたい視線で、そんな初めての瞬間をずっと期待していたからこそ、ずるいずるいって心の中でダダを捏ねてしまう。


その様子にフェリシアが少しくすっと笑っていて、だからかな俺もつられたように笑ってしまう。


確かに嫉妬する気持ちはあるけれど、それ以上に二人が笑っている姿に、仲良くなっていく姿に心温まる。少しでもアルシェリアが誰かに興味を持ってくれるなら、それはとっても嬉しいことだから。


そんな俺の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。フェリシアはアルシェリアの方を向き直って、太陽の様に温かく包み込むような笑顔で褒める。


「アルシェリアちゃんも、出力とか、色々考えて、途中から合わせてくれたよね。そのおかげだよ」


そういって、フェリシアはアルシェリアの頭を優しく撫でる。すると、心地良さそうに、目を、つむって、その感触を堪能しているようだった。


(え!? なにそれ!! 俺も見たことないんだけど!!!)


なんて、思わず心の中で歓喜する。


(そう、これだよ!! こういう緩やかな空気感というか、癒される空間を求めていたんですよ!!!!)


深く、うんうんと頷く中見つめる光景に、思わず頬を緩ませる。傍目から見たら、凄い気持ち悪い表情をしているのが分かっていても、口元まで緩ませてしまう。


まるで猫と飼い主のような光景で。フェリシアが撫でるたびに、アルシェリアが表情を少し緩める。その様子をフェリシアが愛おしそうに見つめる。


その光景は、フェリシアの美貌と相まって、『アイドルの休日』とでもタイトルが付きそうな、絵画的な空間が広がっていた。撫でられたアルシェリアは、その気持ちよさに、まるで、猫のように目を細めて、身を委ねる。そして、自然と肩の力を抜いて完全に安心しきっていた。


(さすがの求心力だな……)


と思わず感心してしまう。そんな幸せそうな時間が数十秒続くと。アルシェリアがふと目を見開いてフェリシアを見上げた。


「名前」

「……えっと、私の名前であってる?」

「そう、名前」


といってアルシェリアは頷く。それにふっと柔らかい笑みを浮かべ、フェリシアが答えた。


「私の名前はフェリシアだよ」


柔らかい、相手を包み込むような安心させる笑顔に、アルシェリアは名前を復唱した、大切なものを確かめるように、身体にしみこませるようにゆっくりと呟く。


「フェリシア」

「うん、フェリシア。そして、私のご主人様がレオニスで隣に居る子がエリシア」

「レオニスにエリシア。わかった」


自然な流れで、俺たちの名前まで教える。その手腕には脱帽しかなかった。ありがとう、フェリシア。俺、名前呼んでもらうことに成功したよ!って感慨深い思いが胸の奥から込み上げてくる。


「フェリシアお姉ちゃん? さっきのもう一回やっても良い?」

「うん、やろうか」


そういって、アルシェリアの頭を優しく撫でる。彼女を安心させるように。それに少し驚いたようにアルシェリアは目を大きく開き、でもまんざらでもないように、表情を緩める。



そうして発動した魔法は徐々に制度を上げていく。威力が先程よりも上がっていき、互いの魔力の性質を理解したのだろう、消費する魔力量すら抑えられる。


にしてもマジでどうやっているんだ、コレ?


興味深いものを見詰めるように、じーっと魔力の性質と流れを見つめる。反発というよりも化学反応に近い気がする。核反応的な、魔力の連鎖反応が起きている。そっか俺の様に同じような性質に寄せると、威力は精々2.5倍程度に収まってしまう。


けど、性質が異なるからこそ、威力を促進させているのか。……まぁ、すぐに出来る気がしないだけどね。


結局その日は、一日中フェリシアと一緒に他の魔法を含めて練習していた。その原理を理解できるように俺もまた、二人が扱う魔法に釘付けだった。


そして、その日の夜。どうしても気になった俺は、フェリシアに複合魔法の練習へ付き合ってもらうことにした。


一緒に魔法を詠唱しながら、魔力の流れを追う。その不思議な感覚に身を委ねる。体を支えながらも、押し進められる感覚。それは、まるで追い風の中自転車をこいでいるような感覚に近かった。


勝手に魔力が増幅するような、威力が上がっていく感覚が思わずクセになる。確かにこれは凄い。なら、どう再現する。そう興奮した俺はその日、すぐに寝付くことが出来なかった。



***



その日をきっかえに、俺よりもフェリシアを頼ることの方が多くなった。特に、二人で魔法を発動するものに関しては、真っ先にフェリシアを頼る。……うん、まあ、フェリシア上手いもんね……。


でも、時々は俺を頼ってくれてもいんだよって思ってしまう。


魔法の技術だけなら、おそらく俺の方が上だと思し。なんなら種類も多く使える。まぁ、誰かと合わせるという点では圧倒的に負けているし。なにより、フェリシアも俺と同じく闇属性以外に適性がある。


(……うん、ほんと俺の上位互換だよね)


って思わず、心の中で敗北宣言をしていた。


そして何より、フェリシアは優しい。俺が再現不可能な、包み込む柔らかい印象は、誰でも気を許してしまうし、ついつい、惹かれていくのもわかってしまう。


なら俺がすべきなのは、二人の尊い姿を出来るだけ、目に焼き付けることだった。魔法が成功するたびにフェリシアがアルシェリアの頭を撫でて。それを嬉しそうに微笑んで受け入れる。そんな姿を一瞬たりとて逃すまいと、観察していた。


時々、尊いという言葉を漏らしながら……。


すっかり彼女に懐いたアルシェリアは、エリシアと喧嘩に発展しそうになると、フェリシアの後ろへ隠れるようにまでなっていた。


脅威があったら、すぐに頼るくらい。今はフェリシアを信頼していることが分かる。


(……ある意味、一つの答えなんだろうな)


なんておもいながら、魔法の練習する姿を見つめていた。だからこそ、外野から向けられる不躾な視線が妙に、気になってしまう。


ここ最近、まったく絡んでこなくなっていた王子が、この頃決まって俺達の方を観察するように、じーっと見つめてくる。まるで何かを探るような目だった。


そうして一通り観察すると、何かを確信したように小さく頷き、そのまま去っていく。そんなことが、何日か続いたある日のことだった。


教室へ入ってきた俺の方に、真っ直ぐ歩み寄ってくる。いよいよ衝突するのかと、周囲の空気が、わずかに張り詰めた。


徐々に周囲の緊張が高まっていく中、王子は俺を見下ろしながら、静かに口を開く。


「——お前にランキング戦を申し込む」


と。

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