第21話 最も才に愛された王子
彼女が去っていく姿を呆然と見つめていると、エリシアたちが俺の方に駆け寄ってくる。エリシアの方は少し頬を含まらせながら、眉を眉間にぎゅっと寄せる。
「普通お礼を言うべきですよね。あの子」
言いながら睨み付ける少女の表情を見て、俺は落ち着かせるように、穏やかに告げる。
「さすがに気が動転していたのかもしれないよ」
「それでも、お礼くらいは言うべきです」
相変わらずぷくっと頬を含まらせる彼女を見てかわいいな。なんて思いつつ、俺のために怒ってくれるのが嬉しかった。……まぁ、できれば将来的には仲良くなってほしい。きっと気持ちを理解してあげることが出来る筈だから……。
そんな風に話していると、学園の鐘がなる。ホームルームが始まるのだろう。そう考えて俺達も急いで教室へと向かって行った。
***
教室に入ると、俺をこの学園に招いたセレフィーナの姿を発見する。相変わらず沢山の令嬢に囲まれる彼女を見て、人気の高さに感心する。そうして視線を反対側に見つけた先。そこに例の黒髪の少女がいた!!
日本人を連想させる黒い髪、西洋のビスクドールを連想させる、整った顔だち、まさしく、和洋折衷という言葉が似合う程、美しい美少女だ!!それに彼女のアメジストを連想させる深い紫色の瞳には、どこか吸い込まれるよう色を宿している。
その姿を確認し、思わずテンションが上がりながら、そちらに向かおうとした所で担任が入ってくる。彼女が俺を確認すると近寄ってきて、ホームルームの開始の周知、それと俺に自己紹介を促した。
——チッ、できれば、ホームルーム前に話したかったのに……。と思いつつ、俺は自己紹介を行う。
「レオニス・フォン・ヴァルディスと申します。得意なのは、魔法を扱うことです」
そう伝えながら、俺は寸分たがわない灯りを指先に灯す。火、土、水、風、そして光。人類が扱えるとされているすべての属性を、俺は手に宿した。この先敵対する人間がいないようにと、実力を示したのだが、なぜか一人の男子だけは俺に敵意を持った視線を向ける。
担任だって、その実力に、引きつった笑みを浮かべているのに。
(ふ~ん、少しは楽しめるのかもな)
なんて考える中で、担任はハッと我に返り、
「素敵な自己紹介ありがとうございますね」
と締めくくる。戸惑いながら俺を見つめる彼女は、この子に一体何を教えればいいのか?なんて迷っていそうだった。それだけで、良い教師であることが分かる。
「それじゃあ、席は……」
担任が辺りを見渡しながら、右側の前の部分を見つめる。いや、明らかに黒髪の彼女の周りが空いているだろう。そう感じ俺が指さす。
「あそこ空いてますよね」
そう伝えると、担任は焦ったように必死に言葉を探す。俺は慌てる彼女を尻目にさっさと歩き出した。軽い足取り、今にもスキップしそうな勢いで俺は彼女の隣に腰を下ろす。
「俺はレオニスって言うんだよろしく——それで君の名前はなんていうの?」
仲良くなるための自己紹介。アルシェリアとは知っているが家名は知らないからこそ尋ねたのだが……
黒髪の少女は俺の言葉に一切反応することなく、ただ前を真っ直ぐに見つめる。それに対して、またエリシアが睨み付けるのだが、それすらも意に介さないようだった。
だからこそ俺はこの少女により興味持った。どうしてこんなにも周囲を気にしないのか?しちゃいけないのか?なにより、何も映さないその瞳に俺を映してみたいと思った。
それからも声をかけてみる。
「悪いんだけどさ、まだ教材が用意できてないんだよね。見せてくれない?」
「食堂の場所を知らなくてさ、案内してくれないかな?」
なんて困っていることを伝えるが一切の反応がなかった。どうしようかな、なんて悩みながら彼女に話す中でクラスの女子が俺に声をかけてくる。
「失礼なんじゃない、アルシェリア・フォン・リーヴェンフェルトさん?」
そこで初めて彼女の名前を知る事になった。リーヴェンフェルト家とおれの領地近くにある伯爵家である。だというのに俺が彼女の存在を知らなかったことに驚いた。
……あ~そっか。俺が集めて欲しいといったのはあくまで奴隷の少女。貴族は最初から対象にしていない。そう思いながら、声をかけてきた少女たちの方を向く。その視線は利用できる力に対しての取り込みが出来ないか探る視線だった。だからこそ、はっきり告げる。
「今俺は彼女と話してるんだけど、邪魔しないでもらえる?」
と軽く魔力で威圧をする。……まったく、俺が少女なら誰でも緩い人物だと思われているのだろうか……。まぁ、確かに過去に賠償問題について話し合う場に少女が入り込んだ際。
「パパをいじめないで」
という言葉を聞いて、最低限しかとらなかった結果怒られたな……。逆に、別の国が少女を利用しようとしたときは限界まで搾り取ったけど……。
その逸話を知っている人からすれば、俺の気分次第的に映っているはずなんだけど、彼女たちは知らなかったようだ。
クラスメイトがいる中で、はっきりと告げたおかげかな、それ以上突っかかってくる者はいない。たった一人を除いて。
「おい、レオニスと言ったか」
そう仰々しく声をかけてくる。視線の先にいるのは如何にも生意気なクソガキだ。人を見下したような蔑む視線。王族らしい金髪に、赤く血塗られた瞳。右手の人差し指には高価な指輪を付け、胸元には数億はするだろう、ルビーの宝石に金の装飾品がついたブローチを付けている。
The・俺こそが全てというような傲慢さを感じる。ゼルヴァイン・アル=レグナリアが声をかけてくる。
「これはこれは、ゼルヴァイン殿下ではございませんか」
「ほぉ~、貴様でも一応はオレの名を知っていたか」
その程度の知能はあったようだなと、少し認めるように頷く彼。どうしよう、全く嬉しくない。
「それで、お前はなぜその少女に構う。人類に敵対する気か?」
「人類とはずいぶん多く出たものですね、殿下。俺にその気はないですよ、でなければ光属性なんて俺に与えないでしょう?」
もしも少女が闇属性を使えるだけで人類の敵対者だというのなら、光属性という人類の守護者に与えらえれる魔法を俺が使えるはずがないだろうと告げる。同時に、唯一光属性のみ使えない殿下に意趣返しを込めて返答した。
「ふっ……ふふっ、俺に対する嫌がらせか、たかが男爵ふぜいが」
怒気を強めながら、魔力を膨れ上がらせる第三王子。それに対し、口元も軽く上げながら挑発するように返す。
「はっはっは、その男爵ふぜいはどうやら神に選ばれたのか、人類の守護者とまで言われてますけどね?」
最強の15人。それは魔族が攻めてきたときの人類の守護者という位置づけ。その指標だ。この王子も本気で鍛えていたのだとしたら、名を連ねていた可能性がある。それほどまでに目の前の王子は才能にあふれていた。
もしも俺が転生した際に力を与えてもらっていなかったら、逆立ちしても叶わない相手が彼だ。だからこそ、俺も警戒はしているのだ。
バチバチに視線を俺達は合わせる。彼自身が今回の首謀者だとして、現状で俺に敵対はしない。今回のは牽制と周知だろう。
周囲の人間にはっきりと俺がアルシェリアの味方であると同時に、第三王子に立てついた者だと認知させた。それはすなわち、俺自身がこの学園において頼りにできる人物をほぼ全て失ったということに等しい。
にしても学園でも序列があるのは面倒だなと思いつつ、彼の制服に付けられた1番のバッチに目を通す。その後は何も言わず、ニヤリと薄ら笑いする彼に嫌気がさしつつ、俺はその日中、アルシェリアに話しかけるのだった。




