第16話 最優の少女、セレフィーナ
来訪してきた公爵家の少女が馬車から降りてくる。さすがに公爵家の令嬢だ、失礼があってはいけないと、中庭から数分ほど歩いた先、景色や会話を楽しむために建てられたフォリーに案内する。
半径10mくらいの円柱の建物に入り俺達は腰を下ろす。彼女はメイドを連れて。俺はフェリシアを側に置いて対応する。
にしても、2年ぶりになるが、身体の方もかなり成長しているな~。と見とれながら思う。
きれいな金色の髪。彼女の真っ直ぐな意志の強さを尊重するような紅い瞳。発育が良く、胸はしっかりと膨らみ、尻は出る。太ももも程よくふっくらとしており、くびれもあって、自然と目が引かれる。まさに14歳という年齢の、理想とするようなそんな体型をしている。
(……流石、社交界の薔薇と言われるだけはあるな)
服装の方はこの場にいる子達の事を考えてだろう、少しラフなドレス姿になっている。ワンピースよりというのが的確だろう。彼女の瞳と同じく胸元より下を綺麗な赤、上を白を基調としており、胸元には赤いリボンが付けれていた。
そんな彼女のことを俺は、エレナの次に信頼した。彼女とエレナだけは、俺を異端児としてではなく、対等な一人の人として見てくれたんだ。
少し感傷に浸る中、彼女は明るい声を上げる。
「久しぶりだね。レオニス!」
彼女はいつものようにひまわりが花開くような、眩しい笑顔を俺に向けてくる。誰に対しても平等に向けられるそのまっすぐな笑顔を受けて、好きにならない男性は絶対にいないと思う。
だからこそ、彼女が未だに誰の婚約も受けていないのが不思議だった。同い年から20ほど年が離れた男性まで、かなりの人数に求婚されているのを領地の噂話で聞いた。
なにより、彼女は俺と同じく、今年で15。公爵家であれば、通常14のうちには婚約者が発表される。だからこそ、未だに断り続けているのが謎だった。まぁ、国王派、貴族派に属さない中立派だからこそ、決めかねているのかもしれない。
「久しぶりだな、セレフィ」
「ほんとだよ。てっきり、レオは私に会いに来てくれるって思ったのに。ずっと音沙汰ないし……」
目を細めながら、じとーっと見つめてくる彼女。俺の方を数秒みつめ、やがて気が済んだのか、くすっと笑う。
「ごめんごめん、ちょっと揶揄いすぎたね」
なんて肩を小刻みに揺らしながら、嬉しそうに。社交界で見るような取り繕った態度ではない。昔からの友人に接するような自然体の彼女に、こちらまで自然と力が抜ける。
そうやって安心できるのはきっと、彼女が貴族らしくない努力家で、有言実行する責任感の強い彼女だからだろうな。
穏やかな雰囲気を纏う彼女は、景色を見るように辺りを見渡し、そうしてどこか一点を見つめて、ふっと表情を緩める。
「……にしても相変わらず、レオは色んな子から注目されてるんだね」
優しく微笑みながら告げた、その言葉に目を日開く。魔力探知外の部分。それも、自分に向けられた視線を感じ取れるのはきっと、普段から注目されているからで。けれど、こんな遠く離れた場所からでも分かるのは素直に凄いと感じる。
……たしかに、屋敷から一応この場所を見れるが、向けられた視線に気づくか、ふつう?
敵意を向けられれば分かる。が、流石に普通の視線は判別がつかない。これが女性特有の能力なのかもしれない。胸に視線がいくとバレるって言うし。……もしかして、さっき見てたの、気付かれてないよね?なんて、冷や汗が少し背中を伝った感触がした。
「……よくわかったな」
「そりゃあ、分かるよ。その子達の気持ちを、私も理解できるから」
胸に手を当てながら目を伏せる彼女は、静かに頷く。どこか感慨深げに告げる彼女。その気持ちを察しようとするが、分からなくて。なんて、声をかければと戸惑ってしまう。
「……それに、新しい子も入って来たんでしょ?」
そんな雰囲気を変えるように、明るく、でも少し悪戯っぽく彼女は笑いながら告げる。それに俺も安堵しつつ、けれど同時に、その小悪魔的な笑みには、つい、「ざぁ~こ!」って耳元で囁いてほしくなる。
頼み込んだらやってくれるかな?とも思うのだが、後でバレたらエレナさんにめちゃくちゃ怒られるので自重する。俺は思考を切り換えつつ尋ねる。
「もしかして知っていたのか?」
オークションでの出来事が伝わっている可能性を考えて提案する。それにしては、王都からこちらまでくるとなると、早すぎる気がするので、途中の街で聞いたのかと思ったが、当の本人はきょとんとした顔で首を振る。
「ううん、全然知らなかったよ……というか、また女の子を迎え入れたんだね、レオ」
少し鋭くなるその視線に、なぜだろう、俺が悪いことを言ているような気分になってくるのは……。
「えっと……ごめん」
「なぁ~に、レオ~。なんな自分が悪いことしてる自覚でもあるの?」
相変わらず朗らかに笑う彼女から、無言の圧力を感じる。ついに手を出したのか?というような視線。それに耐えきれなくって、なにより彼女にだけは誤解されたくなかった。
「いや、手を出したりはしていない。それに嫌がることもしてない……と思う」
後半になるにつれ、ふと最近の事を思い出す。もしかして、嫌がっていたりしたかな、と。少し考え込んで、視線を落としてしまう。やばいっ……誤解されて……
取り繕うために顔を上げてセレフィに視線を向ける。そこには、先ほどの圧などなく、ただ、穏やかに微笑む少女の姿があった。
「やっぱりレオは変わらないね」
なんて、少し嬉しそうにする少女の姿に。金色の髪が、太陽の光を受けてキラキラとたなびく姿に目を奪われてしまう。
(……あぁ、本当に美しい)
そう心から思った。どれくらい見つめていたのか分からない。セレフィの不思議そうに小首を傾げる姿にようやく我に返る。そして誤魔化すようにセレフィに問いかける。
「……ごめん、その視線が不快なら、止めるように言ってくるけど」
そう伝えると彼女は慌てて両手を身体の前でぶんぶん振る。
「ぜんぜん、気にしてないよ……。ほらっ、主人のことは誰だって気になるでしょ……それにこの場に来たがっていたと思うし……なんなら、その子をここに呼んでよ。気が合いそうだしね」
なんて、告げてくるのだ。その言葉に目を丸くする。どうして分かったのかと。
確かに彼女が言ったように、エリシアはこの場に同行したいとお願いされた。けれど、いくらセレフィが警戒しなくても、後ろのメイドは違う。その視線を受けて、悲しませたくないからこその決断だった。
それでも、セレフィが呼んでも大丈夫と判断したってことは。きっと大丈夫なのだろう。
「わかった。呼んでくるよ」
「うん、ありがとう」
彼女は首を小さく下げながら礼を告げる。その姿すらも絵になっているのは少々ずるいと思ってしまった。そうして、彼女の要望通り、エリシアを連れてくる。
すると、エリシアはセレフィのことをジーっと見つめ、セレフィもエリシアのことをジーっと見つめ返していた。失礼かと叱ろうと思った矢先の出来事で、戸惑いながらその様子を見つめる。
(……これって何かの儀式なのだろうか?)
なんて思いながら……。
最終的にエリシアは悔しそうに唇を噛んで、セレフィの方は、優し気に微笑む。なんか勝敗が決まったらしい……。
「にしても、この子はほんと、レオが好きそうな子だよね」
そう告げると、意外にもエリシアの方が驚いたようにセレフィを見つめ、俺の気持ちを確かめるように、じーっと見つめてくる。瞬きもせずに。なんて応えようか迷いつつ、それでも嘘は付けなくて……素直に答える。
「……おっしゃる通りです」
付き合いの長い彼女に、自分の好みの女性がバレている。それは、ほんっとうに恥ずかしい。すぐにでもこの場に穴を掘って引きこもりたい気持ちにかられるのだが、エリシアのぱぁーっと表情を明るくして、嬉しそうに表情を緩める姿が見れたのでよしとする。
普通に恥ずかしいけどね!!
……けど、こんなに喜んでくれるのなら、素直な気持ちを吐露した甲斐はあったのだろうな。そう自分を納得させかけたのに、セレフィは俺に止めを刺してくる。
「少しおとなしそうで、でも愛情が深い子。なにより、白髪の子好きだもんね~、レオは……」
(……うっ。そこまで把握されておりましたか)
……というか、なんでバレてんの!!という公開処刑ですかね、コレ!
でも、仕方ないじゃん。光に反射してキラキラ輝く銀髪とか、天使のように美しい白髪はマジの正義すぎるんだよ! もちろん、次いで好きなのが目の前に座る少女の髪色、金髪ですよ!!
今も陽の光を浴びることで、陽の光を受けるたびにキラキラと光を反射し、髪色がその度に少し変わることで、その髪色の良さを堪能する!
エリシアの場合は通常は白なのに、青っぽい色に。逆にセレフィの方は、若干赤色が金髪に交ざる。尊い!!
特に魔力があるこの世界では、その影響が顕著で、魔法を使う時に更に光を纏いながら、輝く姿は流石に天使だと思う。そのまま俺を癒してくれると昇天出来る気がする。
そんな俺の思考を読んだのか、少し口元に得気な笑みを浮かべる金髪の少女。……かわいい。けど少し呆れているように感じるのは気のせいでしょうか……。
「色んなことに想いを馳せる中、ごめんね。……緊張もほぐれてきたようだし、そろそろ本題に入ってもいいかな?」
そう告げる彼女から、笑みが消えて、いつになく真剣な、表情に戻る。重大な事を告げる時の彼女の様子に俺は気を引き締まる。こういう切り替えの早さは相変わらず貴族らしさを感じた。
「あぁ、お願いしていいか?」
そう伝えると彼女は静かに口を開くのだった。




